京都のスープ
#42


竹笹堂

西洞院通と新町通の間を綾小路側から細い路地を入って突き当たりを右に曲がると、すぐ右手に茶色の大きな暖簾の「木版画 竹笹堂」の白い文字が目に入ります。ここが、今回の取材先である 伝統木版印刷技術を継承している竹笹堂さんです。スタッフの加藤光穂さんを通して、竹中木版5代目摺師であり有限会社竹笹堂代表取締役の竹中健司さんの想いと、京版画、そして伝統木版画についてお話をお伺いしました。

外観:京都らしさ漂うお店の佇まい

暖簾をくぐり格子戸を開け、店内に入ると右側は小上がりのようになっています。左側の壁にはブックカバーなど、色とりどりの素敵な商品が。



京版画は宮廷文化と神社仏閣文化の印刷技術

まず、木版画と一口に言っても作家さんが作られるものと職人工房で作る職人仕事に大別されます。作家さんの場合は技術を追求するというより、自身の思想を表現するために木版画という手法を用いているというものです。竹笹堂さんは京版画の伝統木版画職人工房。作家さんとはまた違う木版画作りになります。

京版画というのは、日本に木版画が伝わった時から守り続けてきた技術のひとつです。遣唐使時代に仏教と一緒に木版画の技術が日本に伝来したそうです。元々は経典を模写するための技術として伝わったもので、版木を使って装飾や印刷分野を受け持ってきた仕事というのが京版画。京版画は、京都の文化、工芸とともに生きてきた印刷技術です。多種多様な工芸品、紙、布に施していくために、ただ木版で摺るだけではなく色々な素材に摺っていく技術のひとつでもあります。



洗練されたデザイン

伝統木版画は、神社仏閣などの多様な文化的背景と共存することからたくさんのことを学んでいて、そこから生まれた多くの表現があります。ただ摺るといっても多くの摺る技法があり、そういった技術で作られるのが伝統木版画です。

筆で描かないことでフラットに装飾を施せる木版印刷の色は、他の絵画表現と違って美しい発色が出る。また、版木で木版化することによって、必要ではない形や色がデフォルメされて簡素化される。細かい表現ももちろんできますが、複製のために何枚も摺るときにその細かすぎるものに時間をかけて摺るのが必要なのかというところも、木版を介する場合は追及されるので、デザインとしてより洗練されていくのだそう。そうして構成されたデザインや色が伝統木版画の魅力となっています。

ブックカバー(私物)



竹笹堂さんならではの作業現場

竹笹堂の特色のひとつです。実際は3工程に分かれていて、基本的には皆バラバラに仕事をしているので職人は独立して分かれています。うちの場合は代表が摺師で代々摺りの家業をされてきました。他の工芸での課題でもあるように、このままでは木版印刷の仕事が少なくなってきて未来に残すのが難しく、昔のように職人さんが独立して技術を得てから1人で十分やっていけるのかというところから、代表は有限会社竹笹堂を起業しました。職人仕事の基本は受注生産で「これを摺って欲しい」という依頼が来てから、お客様の持っている版木を摺り出す摺師の工房でした。しかしそれだけではなく自分で仕事を作ろう、となってオリジナルデザインの木版画の小物や作品が生まれました。

オリジナルのものが増えていく中で、より連携を取って高い技術を追求するために、現在は彫師も在籍しています。外部のデザイナーさんとコラボすることもありますが、基本的には5代目摺師の竹中をはじめに、職人皆が絵を描いて、彫りは彫師に頼んで、摺りは竹中と数人の摺師が摺っていきます。

1つの場所に一緒にいるので意思疎通もしやすいし、絵師も基本的には工房内の人間なので技術も行き交うし、一緒に物事を進めることができます。基本的に担っている工程は1人1つですけども。



作業工程・素材・道具

浮世絵師さんは図案を構成し、版下絵となるものをまず墨で和紙に描きます。現在では作家さんの作品を木版画にするときは肉筆に限らず筆以外のものをベースにすることもあるそうです。

彫師さんは、下絵を版木に貼って彫っていきます。必要であれば、版下絵を木版画の線に整えてから、原画が反転された状態で彫ります。筆で描かれた文字の線や絵を何10種類もある彫刻刀を使って彫るそう。

その版木に色を乗せ、摺りあげるのが摺りの工程です。墨の濃さを決めたり、原画の色と違わぬように色の調合をするのも摺師さんの仕事です。作品によって摺りの力の入れ具合を加減したりして、摺師さんが原画に忠実に表現します。

基本失敗はしません。彫っている途中でどうしても変更があれば、その部分を取り除いて新しい木を埋め込んでの修正はあります。

煉墨を水でゴリゴリ溶いて墨を作ります。神社のお札などの文字は濃くしっかりと出なければならないので、水はちょっとで濃いのを使う時もあれば、薄いグレーのところは水を足して薄くしたり。濃度のコントロールができるので、煉墨を使います。

板に貼り付ける和紙は基本的には転写に適した和紙を使います。板に肉筆の線をそのまま残して彫るので、原画に忠実な版になります。今だとコピー機があるので原画を傷つけないためにもコピーをとって転写することもありますけど、江戸時代なんかは原画をそのまま板に転写してしまうので、原画は残りませんでした。

福井の越前奉書紙というものです。越前和紙では木版画や日本画に適した和紙も作られています。広重の浮世絵などは20回以上摺ります。浮世絵の場合は手で持って見るものなので、かなり強くバレンで圧をかけて摺るのですが、それを20回30回摺ると普通の紙だと破れてしまう。なので、繊維がしっかりと絡み合う越前奉書紙が適しているのです。浮世絵用に漉いてくださる岩野市兵衛さん(人間国宝 九代目岩野市兵衛 福井県越前市)をはじめそちらの産地の和紙を使っています。厚くて、手でちぎるのが難しいくらい丈夫なものですよ。

滲みどめの加工をしています。礬水引き(どうさびき)といいます。絵の具を解くときのニカワを水で薄く溶いて、それを和紙に薄く塗って乾かして、コーティングしている状態ですね。

はい。伝統的なお仕事のひとつに、茶道の初釜で使われる京扇子の扇面摺りがあります。京扇子の老舗さんから代々のお仕事としてご発注をいただいております。扇面には毛筆の文字が入っていて、専用の手漉きの扇面紙をお預かりし、必要であれば木版を彫り、文字や水彩画の絵を摺ります。この摺りは、浮世絵みたいに強く摺り込むと一気に後ろへ抜けてしまって裏移りしてしまうんです。扇子は裏側も見えるのでそれは綺麗じゃない。でも墨で書かれた美しい文字と同じように摺らないといけないので、しっかりと乗っていなければ文字が美しく表現されない。そういう時は濃いやつをぽてっとのせてそれをブラシで均一に払ってそこに紙を置いて。ギュギュっとできないので、そこは具合ですよね。これくらいの力具合やったら後ろまで抜けへん、でもしっかり文字が濃く出なきゃダメだから墨の量はしっかり乗っている、文字だとそういうふうな感覚でやっています。

途中で色や仕上げが変わってはいけない。そういうところが職人技術ですね。同じものを同じ様に摺るっていうのが。

外側の竹皮の部分は、おにぎりを包むのと同じ竹の皮です。毎日使っているとこれは破れてしまいます。中(内部の台芯のこと)は本バレンを作ってはるところに頼んでます。この台自体はうっすい和紙を何枚も重ねて、作るのに1ヶ月くらいかかるそうです。そして中には竹の皮を割いてこよったもので作った、バレン芯と呼んでいる紐がぐるぐると入っています。それが解けない様にワイヤーで束ねてあるんですけど、この中身はずっと大事に使っています。メンテナンスをしながらですね。

そうですね。本バレンを使うとわかるんですけど、ここは強く摺りたいけど、ここは弱く摺りたいなどの微妙な力加減に合わせてしなやかに動いてくれるんです。なのでバレンに変わる道具はないかなと思います。よくできてるなと感じます。

摺り道具一式 

彫師が砥石で研いでます。メインは版木刀という、小刀みたいな形をしているもの。1mm以下の線は版木刀を斜めに入れて彫っていくので、基本的にはそれを1番使っています。砥石も3、4種類あって、荒砥石とか仕上げ砥石というのがあって、刃の必要に応じでやってますね。道具の手入れは本当に大事です。 

彫り道具一式


竹笹堂さん今とこれから

特にありません。工芸の世界では人材や素材の不足とか、あるのはあるんですけど、それでも何かあるたびにどの業界でもどの時代でも問題が起こることなんでそれを解決していこうと思っているから、あまり問題と思っていないということです。

日本や世界中にある木版画技術を集めて体系化して、自らの力で新しい作品にしていくことと、次世代に技術を継承していくことを目指したいと思っています。

伝統が続いていく理由は、ただは古くからあるから、ということではないと実感したインタビューでした。いくら技術が発展しても、職人さんによる手仕事でしか表現されない作品があります。明るくお答えくださった加藤さんからは、伝統に携わることへの誇りが感じられました。そして「困っていることはない」と言い切った、代表の竹中さん。その言葉には、伝統が未来に向かって続く逞しさと力強さが凝縮されているように思えました。

店舗から中に入ると、打って変わってそこは昔ながらの京町家
写真の許可を尋ねると、快く「どこからとっても写真写り良いからどうぞ〜」と。

至る所に高く積まれた版木は、時間の流れを静かに教えてくれています。


京都のスープ
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竹笹堂 加藤 光穂

文:
橋本 暁美(通信 空間演出デザインコース)

写真提供:
竹笹堂 ©️TAKEZASADO  

西岡 菫(文化財保存修復・歴史文化コース)

竹笹堂HP:

https://www.takezasa.co.jp/

京都のスープ
#42


竹笹堂

西洞院通と新町通の間を綾小路側から細い路地を入って突き当たりを右に曲がると、すぐ右手に茶色の大きな暖簾の「木版画 竹笹堂」の白い文字が目に入ります。ここが、今回の取材先である 伝統木版印刷技術を継承している竹笹堂さんです。スタッフの加藤光穂さんを通して、竹中木版5代目摺師であり有限会社竹笹堂代表取締役の竹中健司さんの想いと、京版画、そして伝統木版画についてお話をお伺いしました。