京都文化
トリハダ通信
1

樂茶碗という名の宇宙

「樂焼で自然とのつながりを 実感できる」
学生による
器づくりの授業レポート(6)

Kyoto Art class
Report #1
“Rakuyaki”
by Suzuki Hinae

基礎美術コース 2年
鈴木 日奈惠

(6)_「樂茶碗という名の宇宙」

前回、釉掛けまで終わり、本焼きをする
ところまで行きました。 ラストスパートです。お茶碗を焼くためには、“窯” が必要です。
今回、私たちはその “窯” を、
自分たちで作ることになりました。

  • (椿先生のコメント)
    こだわり半端ない基礎美術!

窯には何種類かあって、
電気窯、ガス窯、灯油窯、他にも登窯(のぼりがま)、穴窯(あながま)などなど。
今回私たちはこれらの窯は使わず、
“野焼き” という方法を使って焼きました。

“野焼き” とは 窯を作らず、焼き物が直接火に触れる焼き方のことを言います。
縄文時代に作られた縄文土器などもこの方法で焼かれています。
(私たちが行った方法とは違いますが)

熱すぎて痛い。
生まれて初めての経験。

まず、前日に準備として
高温に耐えられる耐火レンガを並べ、
ふたのない箱のような形を作ります。
温度が上がりにくいので、
このように囲いを 作ることで温度を下がりにくくします。

そこに、ちくわ炭を敷き詰めていきます。
その上に、作ったお茶碗を並べていき、これで準備完了です。
次の日、窯だき(窯でうつわを焼くこと)をしていきます。
ガスボンベで炭に火をつけ、
その炭をもう一度戻して全体に広げます。

火が全体に広がるのを待つ間に周りのレンガの上にお茶碗を並べ、
温めておきます。
こうすることで、温度が急上昇してお茶碗が割れるのを防ぐことができます。

 

火が全体に行き渡ったら、
いよいよ焼いていきます。
お茶碗を、敷き詰めた炭の上に置き
さらに炭を上に敷き詰めます。
お茶碗の中にも炭を入れます。

ものすっごく熱いです。想像以上に。
ドライアイスを触った時や、 真冬の厳しい寒さが頬に触れる時などに
「冷たすぎて痛い」という経験はあるのですが、
「熱すぎて痛い」という経験をしたのは、
生まれて初めてでした。

  • (椿先生のコメント)
    身体知!
    まさにこの熱さがほんとうの知恵につながる一歩!

なので、この作業をするときは 完全装備で挑まなければいけません。
サングラス、 マスク(or タオル or 手ぬぐい)、
髪の毛を守るタオルや手ぬぐい(巻かないと 髪の毛が燃えます)、
綿素材の服と軍手、
そしてスニーカー。
肌という肌を隠してしまいます。
誰が誰だかわかりません。
外からみたら完璧に不審者ですが
熱すぎるので仕方がありません。

この装備をしていても、痛くて、
近づくのが困難でした。
中には、マスクの表面が溶けてしまった子も。

  • (椿先生のコメント)
    こうやって堂々とした人間になってゆくのだね〜
    感動的な写真ですね。

焼いている間も、2碗目のお茶碗を周りに並べて温めておきます。
先生がもうそろそろだなと思ったら、お茶碗を取り出していきます。
お茶碗の中に入っている炭も取り出します。

焼きたてのお茶碗はキンッ、キンッと音がします。
私はその音がとても好きです。
何個かのお茶碗が焼きあがると、
まるで、合奏しているみたいでずっと聴いていたくなります。

 

また、お茶碗は、場所によって焼け具合が違います。
釡の外側の方が焼けづらく、 内側の方がよく焼けます。
炭が直接当たっているところは黒っぽくなり、
当たっていないところは赤くなります。

ちなみに、 今回私たちが焼いたお茶碗は “赤樂” 茶碗です。
樂焼には、“赤樂” と “黒樂” という2種類があり、
この2つの違いは主に色と温度。
“黒樂” は、加茂川石という鉄分を多く含んだ 石が溶けて、
急冷される事によって 黒くなります。
また、赤楽は 800~900 度程の低温ですが、
黒楽は 1200 度以上の高温となります。
ただし、黒楽は焼成時間が短い故に焼締まりません。

焼きあがるまで、完成形はわかりません。
もっと経験を積んだら、計算してできるようになるのかもしれませんが、
これもまた、 樂焼の面白いところのひとつだと私は思います。

 

  • (椿先生のコメント)
    素晴らしい作品に共通するのは
    「何も気になるところが無い」という人もいます。
    掌にすとんと落ちて茶碗のあることを忘れるような
    椀がほしいなと思っています。

 

焼きたてのお茶碗で
お茶をいただく。

焼きあがってお茶碗を冷ましたら
今度はそのお茶碗でお茶をいただきます。
焼きたてのお茶碗でお茶をいただくなんて
こんな贅沢なことはありません。

まず、お茶碗に水を含ませます。
急に熱いお湯を注いでしまうと、割れてしまうからです。
樂茶碗は土のキメが比較的荒いので、
茶碗の中に入っていた空気が温められ、
急激に膨張してしまうのです。
それから、お湯を入れてお茶碗を清め、お茶を点てて、お菓子と一緒にいただきます。
自分で作ったお茶碗を、自分で使ってみることによって、
自分の足りなかったところや、
お気に入りのところがよくわかります。

お茶をいただいた後は、
自分の作ったお茶碗をデッサンします。
デッサンは、上手い下手ではありません。
認識力があるか、無いかです。
デッサンをすることでまた、
自分の作ったお茶碗のことがよくわかるのです。

  • (椿先生のコメント)
    よく気が付きましたね!
    そのとおりです「認識」がなければ「再現」は難しい。
    「認識」を育てる方法はひとつ!
    「数を観る」ことです。
    さあ博物館で銘品に触れてみよう。

 

ここまでが、樂茶碗を作るまでの授業の流れになります。
次は、ついに授業最終日。合評です。

合評とは、焼きあがった作品について自分で説明をし、
先生方に評価と意見をもらう日です。
今まで自分が頑張って来た成果を見せる時がやってきます。

 

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お茶碗は宇宙

山の土を掘るところからスタートし、
お茶碗を焼いてお茶をいただくまで、
長いようであっという間の時間でした。

はじめはただ、小学校、中学校、高校の美術の時間のように、
作るだけでいいんだと思っていました。
でも、作るだけでは、技術しか得るものはありません。
作るうえで大切なのはプロセス、
どのような過程を経て作ったか、だったのです。
私は教えてもらい、得ることが当たり前だと思っていました。
でもそれは違って、教えられたことを越えていかなければならないのです。

また、お茶碗は宇宙のように壮大です。
そんな大層なものなの?と思う人もいるでしょう。
私がそうでした。
でも、お茶碗を作っていると、
日本のありとあらゆるものが関わっているのだと気づきます。
この授業は、世界を理解するためのスモールステップなのです。
だから、手を抜いてはいけません。
これから生きていく上で重要になっていく意味を
作る力がなくなっていってしまうから。
どんなことでも全力でやっていくことが
成長への近道なのかもしれません。

  • (椿先生のコメント)
    マルクス・ガブリエルという若い哲学者は
    宇宙は存在するが「世界は存在しない」と
    謎めいた事を言っています。
    茶碗は哲学を呼び出す装置にもなるという事ですね。

 

つづく