なぜ伝統工芸を守るべき?

伝統工芸について
オキサトさんに
聞きました

Okisatosan
interview 1
永田 宙郷

質問者
空間デザインコース 2年 竹之内 春花

「伝統工芸って何ですか?」
「職人さんはなぜ減っているのですか?」

京都の職人や伝統工芸のことを学び始めた学生が考える、
ハテナはとても根源的なこと。

そこで、作り手と使い手と伝え手を繋ぐ様々な仕事をされている
プランニングディレクターの永田 宙郷(ナガタ オキサト)さんに
思い切っていろんな質問をしてみることにしました。

 

 

学生 Q :

なぜ伝統工芸は守っていかなければならないのですか?
(はるか)

 

オキサトさん A :

均質化への危惧

伝統工芸は、需要も低迷してて、職人も減っている。
もっと便利で買いやすいモノが溢れている。
家に幾つかあってもいいけれど、もっと生活や環境にとっていい商品を開発したほうがいいんじゃない?と思いますよね。

では、各時代で、なぜ伝統工芸を守り残そうとしたのかを
確認しながら考えていきたいと思います。
そこには、少し難しい言い回しだけど『均質化への危惧』という
共通する守り残すための理由が見えてきます。

まずは、『産業の均質化への危惧』です。
約100年前、京都にも住んでいた柳宗悦さんと五条東大路に住む河井寛二郎さんたちは、
民藝運動をはじめ、その中で、産業の近代化という大きな波に流されそうな各地の小さく名も無い工房のつくるモノを守ろうとしました。
現代に続く伝統工芸・地域産業を守ろうという声の発端になった活動のひとつです。

次は、戦中・戦後の混乱を過ぎ、高度経済成長期も一段落しはじめた1960年代終わり、
『生活様式の均質化への危惧』が生まれます。
すでに産業の西洋化と機械化は一般化し、さらには高度成長期で標準化が進んでいた生活に対して、地域やモノごとの個性が残る伝統工芸の個性を通じて生活の個性を守ろうとしました。
秋岡芳夫さんをはじめデザイナーの参画も増えてきます。

さらには同じ頃、地域の基幹産業をさらに盛り上げようという声もあり、1974年に国によって伝統的工芸品産業の振興に関する法律』が作られ、国によるオフィシャルな産地へのサポートがはじまりました。そして、この頃から官民そろって具体的に「伝統工芸・伝統産業を守ろう」と掲げだしました。

(ちなみに、この頃は、高級調度品や日常品としての工芸は、そこそこの需要がありましたので、各産地はまだ潤ってました。織り機はガチャッと動くとお金が生まれるという意味で「ガチャマン」と呼ばれ、工房によっては、一般新卒社員の倍近いお給料をもらえた時代です。
多くの作り手はまだ衰退への実感は薄く、より産業化して盛り上げようという思いが強かった時期です)

バブルも終わり、国内の生活の均質化もほどよく終え成熟消費社会に入った1990年代の後半、イオンやコンビニをはじめとする全国的な大型流通が整い、地域の商店街や百貨店が一気に潰れ始めます。
大量生産商品との使いやすさ買いやすさの競争となり、地域産業としての伝統工芸の売上も一気に落ち込みます。
すると『商品の均質化への危惧』と『(衰退による)地域産業の均質化への危惧』が伝統工芸を守る理由として言われ始めます。
また、実際にこの頃はすでに職人の減少や高年齢化で再現できない技術が急増し、文化保護としても急務でした。

そして2000年をむかえ、国内の大型流通・全国消費は当たり前になり、次はインターネットやIT技術の普及による『世界の均質化への危惧』が起こります。
そこで「日本らしさとは何か?」を考えたときに、伝統工芸は、日本ならではの気候や風土に裏付けられているし、しかも歴史をまたいで作り続けられていて、さらには実際に見て触れる事もできる!
伝統工芸は、日本らしさを位置づけ、見直し、発信するものとして重要な価値があるぞ!という声が広がります。
これが現在、伝統工芸を守る理由で最も聞く内容じゃないでしょうか。

そんな声と、地域産業業界からの国内の売上が下がるなら海外で売ってみようという流れが一致して、2004年から国のクールジャパン政策のもの、経済産業省による「ジャパンブランド」という取り組みが始まり、海外発信やデザイナーとの協業が各地で積極的に行われはじめます。

このように時代毎の生活や産業の変化と立場に応じ内容は変わりながらも「均質化への危惧」を背景に「伝統工芸を守ろう」という声は続いてきました。

 

 

 

そもそも個性とは?固有性とは?人間味とは?

ちなみに、近い未来、AIの普及や自動化の進化による『思考の均質化への危惧』として、自ら何度も作業を繰り返し、熟考しながら作り上げて行く伝統工芸の工程や、それに耐え、さらには挑戦すらしていく職人達の持つ責任感やこだわりは、現代において十分に価値があり、その美意識が息づく伝統工芸という舞台は残すべきだ。と、語り始められると僕は予想しています。

どうしても、大きな規模の経済と先端テクノロジーが押し進める均質化・自動化・効率化の流れは明確です。
ネットフリックスやアマゾンのリコメンドで実感する通り、すでに選択肢すら自分ではなく自動判断に委ねている生活があります。

その時代の変化の中では、職人(=クラフトマンシップ)は、「そもそも考える生き物としての人間ってなんなのか?」について触れることのできる『問い』として注目し、守るべき存在なんだと、マサチューセッツ工科大学の教授で社会学者のリチャード・セネットさんも語っています。

『均質化への危惧』は、伝統工芸に限らず、食づくりや、まちづくりでも同じように語られるキーワードです。
みんな、過度なビジネス化や効率化だけでは地域や文化などの個性を失うだけでなく、個人の生活も隙間無くマーケティングに晒され、自分のことをひとり立ち返ることすら自由でなくなるのではと懸念もあります。
すると、これからのデザインこそ、簡易化・効率化・利便向上だけでなく、そもそも個性とは?固有性とは?人間味とは?と考えた上で為されるべきことかもしれません。
そうなると皆さんにとっては、「伝統工芸はそれを気づかせてくれる1つの入り口なので、しっかり残しておいて欲しい!」というのが伝統工芸を残す理由になるかもしれません。

 

さて、皆さん自身は、これからどんな理由で伝統工芸を守り残そうと考えますか?

 

 

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永田宙郷(ながたおきさと)
合同会社ててて協働組合共同代表・プランニングディレクター。

1978年福岡県生まれ。
『ものづくりをつくる』をコンセプトに数多くの事業戦略策定と商品開発に従事 伝統工芸から最先技術まで幅広い事案に対し、時代に合わせた再構築や、視点を変えたプランニング を多く手掛ける。 作り手と使い手と伝え手を繋ぐ場としてデザイナー、ディストリビューター、デザインプロデューサーと 共にててて協働組合を発足し、2012年より、『ててて見本市』を開催。