京都文化
トリハダ通信
3

京都文化トリハダ通信3

樂茶碗づくり〈黒樂編〉
学生による授業レポート

Kyoto Art class
Report3
“Raku yaki”
Text by Hinae Suzuki


京都文化 トリハダ通信3
樂茶碗づくり
基礎美術コース 2年
鈴木 日奈惠

(1)_ 釜を作ります

という先生の言葉から、
基礎美術コース樂茶碗づくり<黒樂編>の授業が始まりました。

教えてくださった先生は、1回生の時と同じく、
小川裕嗣(おがわひろつぐ)先生と、清水志郎先生です。
今年度は、小川先生が主に私たちの授業を
担当してくださいました。

小川先生は、「御茶わんや 長樂窯」に生まれ、
三代小川長樂に師事、樂茶盌を根幹に、他分野との
コラボレーションなどを展開。
現在を生きる「今焼」を追求している作家さんです。

小川裕嗣(おがわひろつぐ)先生

清水先生は、人間国宝清水卯一さんのお孫さんで、
土を求めて各地を巡り、
主に自ら掘った土だけで陶器作品を作られている作家さん。
土という素材から、
常にやきものの本質を追い求め続けています。

清水志郎先生

  • 椿昇先生のコメント

    基礎美術の創作系メインが作陶です。
    文明が誕生する以前から泥と人間の関係は深いですね。
    子どものころまず作ったのが「泥団子」という記憶は
    今の世代にはあるのかなあ~~

実は私たち、1回生の時も樂茶碗を作っています。

え、また同じ授業?
と思った方もいらっしゃるでしょう。
私も最初は思っていました。
基礎美術コースの授業の特徴は、授業というより、
稽古」や「修行」に近いです。
そのため、基礎美術コースの授業は昨年と
同じ授業があったりするのです。

  • 椿昇先生のコメント

    繰り返しが重要(笑)

 

今回は、1回生の“赤楽茶碗”の時より
レベルアップした、“黒樂茶碗”を作ります。

※“赤樂茶碗”については、
京都文化トリハダ通信1「樂焼を知っていますか?」をご覧ください。

赤楽茶碗は、土の色が発色しており、土の個性を
際だたせるやきものに対し、
黒楽茶碗は、釉薬の色で黒くなるお茶碗です。

赤樂茶碗(清水先生作)

赤樂茶碗(清水先生作)

 

黒樂茶碗(清水先生作)

黒樂茶碗(清水先生作)

この釉薬は、加茂川石や貴船石を砕いて作られるもので、
鉄分を含んでいるため
焼くと真っ黒になるのが特徴です。

  • 椿昇先生のコメント

    NHKのチコちゃんを見ていたら
    卓球のラケットがなぜ赤と黒なのかという問題がありました。
    どう見ても茶と黒ですが、なぜ赤と黒なのでしょうか。
    基礎美はちょっとチコちゃん的な問いをされる事が多いので、
    なぜ赤と黒という色の対比を使うのかなと考えてみても楽しいですね。

 

また、窯にも特徴があります。
登窯や他の伝統的な窯が大量生産を考慮しているのに対し、
樂茶碗の窯はお茶碗が一つしか入りません。
というのも、樂茶碗は
大量生産するために作られたものではないからです。

 

茶の湯のために作られたお茶碗

樂焼とは、茶の湯の茶碗を作るために始まった焼物です。
茶の湯の大成者である千利休が、
樂焼の初代、元瓦師であった長次郎に茶碗を作るように命じ、
茶の湯のための茶碗”という、
限定された目的を持って始められたのです。
このことは、焼物の歴史の上でも
非常に特殊な事例なのだそうです。

  • 椿昇先生のコメント

    またチコちゃんネタで申し訳ない(笑)
    日本人が別れ際に使う「さようなら」の
    語源について知っていますか?
    これは世界でも日本にしかない「接続詞」が
    別れの言葉になった珍しい事例。
    「神様の祝福を」とか「また会いましょう」とか「元気でね」ではなく、
    前後が隠された接続詞。
    まさに有名になった「忖度(そんたく)」を
    形にしたような使い方なのですね。
    「・・・さようであるならば・・・」というように
    前後を言わないで、すべてを推し量るのです。
    日本人の文化の奥深さと独特の進化プロセスが
    タイムカプセルのように結晶しているのが
    「基礎美術」のカリキュラムです。

 

私たちが1回生の時に行った赤樂の窯は
レンガと炭だけで行う野焼きでした。
黒樂窯は、円筒形の窯の内部にサヤ”を組み込んだ二重構造の窯。
今回私たちが作る窯は、
その“サヤ”と呼ばれる素地を火炎や灰などから守るための小さな窯です。
本来は、先ほども書いた様に
お茶碗が1碗入る程度の大きさですが、
時間も限られているため、2~3碗が入るくらいの窯
(口径35センチ、高さ25センチ程)を作ります。

窯

清水先生作の内窯

 

〈底作り〉

この窯で一番大事な部分なのが、底の部分です。
なぜ重要なのか?それは、
底が抜けてしまったらお茶碗が落ちてしまうからです。

  • 椿昇先生のコメント

    高校生の頃、美術部の先生から
    口と底さえ描ければデッサン(瓶)の極意はつかめると
    教えられた事を思い出します。

 

約7キロの粘土を菊練り(土の中の空気を抜くために粘土を練ること)し、
手の平で叩いて平らにしていきます。
小川先生は軽々と7キロを菊練りしていますが、
7キロって相当重いです。
1リットルの牛乳パック7本分です。
私はおそらく5キロくらいが限界。

清水先生と小川先生が菊練りをしているお姿は、迫力満点。
まるでスポーツ選手を見ているかのようでした。

小川先生が菊練りをしているお姿

小川先生が菊練りをしているお姿

  • 椿昇先生のコメント

    作家はある部分ではアスリートに近いですよ。
    身体を鍛えないと心もついて来ません。

 

なぜ練ったり叩くのが重要なのかというと、
土と土の粒子を縮め、土を締めて割れにくくするためだそう。
空気の粒が粘土の中にあると
焼いた時に膨張して作品が壊れてしまいます。
なので、ここの行程はとても大事なのです。

小川先生が菊練りをしているお姿

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私たちは1年間のブランクがあるので(一部の人たちを除く)、
まず菊練りの練習から始めました。
ですが身体が覚えているのか、みんな難なくこなしていきます。
私も思っていたよりも菊練りができたので、自分で自分に驚きました。
やはり身体で覚えたことは
頭で覚えるよりも記憶に残っているものなのだと、
改めて実感します。

  • 椿昇先生のコメント

    ここ重要!なぜ課題が一回で終わらないのかという事です。
    広く浅くやっても身につくことはほとんど無いのが実際。
    日本の文化伝承は
    「同じ事の繰り返し」によって受け継がれて来ました。
    その仕組を大学教育に取り入れたのが
    「基礎美術」世界でもはじめての試みです。
    とはいえスポーツでは同じ事を繰り返す
    (たとえばリフティング)のはあたりまえ。
    身につけるとはそういう事です。
    わかったつもりになっただけでは
    気がついたら空っぽの人間になってしまいます。
    そして、できるようになった自分に驚いた瞬間に。
    自発的な学びがスタートします。

 

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綺麗な菊の花びらになりました。

粘土を手ろくろの上に板をのせ、
外しやすいように新聞紙をひき、
35センチになるように、
定規できっちり計りながら成形していきます。
大体35センチになったら、竹べらを使って周りの
余分な粘土を取り除きます。
そして木の棒で底部分の両脇を挟み、
ワイヤーで木の棒に添わせながら平らになるようにスライスします。
こんな方法があったなんて、驚き。

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小川先生、清水先生の共同作業

 

〈立ち上げ〉

次に、“ひも”を作ります。
これは“ひも作り”と言われ、
ひもを積み重ねながら高さを出していく方法です。
ひもは、太さが均等になるように作るのですが、これが結構難しいのです。
短いひもならまだ簡単な方なのですが、
サヤの大きさは直径35センチ。
なので60センチくらいの長さのひもを作らなければなりません。

  • 椿昇先生のコメント

    縄文時代以前の旧石器文化からの過渡期には
    もう存在していた技法です。
    団子とヘビでなんでも作れる??

 

底に軽く傷をつけ、湿らします。
そして、作ったひもを底の部分と接着させていきます。
手は、内側に親指、外側に残り4本の指で粘土を挟み、
親指を上に、外側の指たちは下に粘土を持ち上げます。
この時、手の位置は変えず、同じリズムで、
均一の厚さになるように積んでいきます。

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積み重ねていくと、どうしても外側に広がっていってしまうので
内側に締め直していくイメージで、
乾いてきたら水で濡らしながら、
ギュッギュッギュッ、とまっすぐ立ち上げていきます。

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みんな交代交代で必死にやるのですが、全然高さが出ません。
どうしても歪んでしまいます。

そこで、小川先生にヘルプをお願いすると、
いとも簡単に積み重ねていくではありませんか。
これには、見ていたみんなも「お~っ」という声が、
綺麗に揃っていました。

  • 椿昇先生のコメント

    学生が先生を信頼する瞬間。
    圧倒的な差を見せつけるために僕たちも日夜励んでいます。

このように間近で本物の技を見ることができるのも、
基礎美術コースならではです。

〈蓋と脚作り〉

そして、本体と同時に蓋と、脚も作っていきます。
蓋には中の様子が見える様に穴を開けて、その蓋も作ります。

 

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上手にくり抜けました。
脚は、風通しを良くするために隙間が空いたものを作ります。

  • 椿昇先生のコメント

    いい笑顔だ~~~~

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窯作り終盤。
エネルギーを補給しながら窯を作っています。

  • 椿昇先生のコメント

    すでに風格があるね~

 

そうしてできた内窯は芯まで乾かしておきます。

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  • 椿昇先生のコメント

    ランドアートのような美しさですね

 

なんでも便利になった時代

窯作りは、今回の授業で1、2を争うくらい
体力を使う工程だったように思います。
真剣な表情で窯を作っているみんなの姿は、職人でした。
「窯作りって、こんなに大変な作業だったのか、、、」と
作っていた子は口をこぼしていました。

  • 椿昇先生のコメント

    人生は「大変」ですよ。
    物作りはその大変さへのワクチン。
    自然に忍耐が学べるようなカリキュラムを工夫してます。
    基礎美術は学生たちをピノキオにはしたくないので

 

お茶碗ができるまで、大変なことだらけです。
窯作りの他に、まだまだすることはたくさんあります。

今は、もうすでに完成された粘土もたくさん売ってるし、
窯も電気釜という、電気を使った窯があり、大変便利な時代です。
楽をできる時代にわざわざ土を採ることからやったり、
樂焼という工程が他とは違う、
時間と体力がよりいることをしたりと、
私たちがやっていることは効率的ではないのかもしれないけれど、
そうして得られる経験は、
一生記憶に残るのだと思います。

  • 椿昇先生のコメント

    記憶に残るだけ?(笑)

    プロフェッショナル仕事の流儀に
    登場するには根性が足りんぞ~~~

 

赤樂の授業からレベルアップした黒樂では、土採りに加えて
窯作り、釉薬作りがあります。
この授業は5週間。この期間の中で全てを行うのは、
非常にハードなスケジュールです。
果たして私たちは、お茶碗を完成することができるのか!?

 

つづく

2019.04.01更新