京都文化
トリハダ通信
3

京都文化トリハダ通信3

樂茶碗づくり〈黒樂編〉
学生による授業レポート

Kyoto Art class
Report3
“Raku yaki”
Text by Hinae Suzuki


京都文化 トリハダ通信3
樂茶碗づくり
基礎美術コース 2年
鈴木 日奈惠

(2)_ 100年後も残る素材

〈土採り〉

今回土を取りに行く場所は、
京都から飛び出して滋賀県野洲市の大篠原へ。
「泥家藤兵衛・橋陶料・橋鉱山」の4代目である橋登喜雄さんが、
今回特別に土を採らせてくださいました。

京都文化トリハダ通信3

:小川先生 / :橋登喜雄さん

  • 椿昇先生のコメント

    基礎は常に最先端の横にいます!
    それは何十年か未来に「ガツン」と君たちに落ちてきますよ。

 

橋陶料さんが持っている山は、
どこを掘っても耐火粘土という耐火粘土天国。
ここ大篠原で採れる土は「しのはら土」と呼ばれています。
高い温度に耐え、焼き上がると暖かみのある色合いとなり、
独特の優しさが出てくるのが特徴です。
その為、全国の陶芸家さんが愛用されている
とても良質な土だそうです。

場所が場所なので、道に迷った子もちらほら。
グーグルマップを使いながら、
なんとか橋陶料さんへたどり着きました。

京都文化トリハダ通信3

この日はとても暑い日でした。

橋さんから土が粘土になるまでの工程などの説明を受け、
早速私たちは土をとらせてもらう鉱山へ向かいました。

京都文化トリハダ通信3

そこに広がっていたのは、まるでパフェのように綺麗に重なった、
何重もの地層の断面!
地層の断面をこんなに間近で見るなんて、生まれて初めてでした。

  • 椿昇先生のコメント

    いま教育で一番の問題は「生まれてはじめて」が多すぎなんだよね。
    僕が子どもの頃はこんなところで横穴ほって基地作って・・
    危うく生き埋めにならずにここまで来たけど。
    ゲームばっかしてると
    ほんとに違う人類になるだろうな~~良くも悪しくも

 

京都文化トリハダ通信3

これは水簸(すいひ)された土。「押してごらん」と橋さん。
低反発まくらみたいな触り心地でした。

  • 椿昇先生のコメント

    このコメントサイコウ!

 

心が自然と繋がる感覚

それぞれスコップを持ち、いざ土採り。
橋陶料さんの鉱山では、
白、赤、黄、色付(肌色)、
チョコなど豊富な種類の色の土が採れます。
橋さんは、好きな色を、好きな分だけ採らせてくださいました。
こんな機会、自分が陶芸家などにならない限りは経験できないこなので、
みんな汗だくになりながら採っていました。

京都文化トリハダ通信3

京都文化トリハダ通信3

  • 椿昇先生のコメント

    これから旅行などで「崖」見たら見え方変わるね。
    そこが経験の重要性。
    見えない人には何も見えないから見える人になっていって欲しい。

 

先生は、赤樂茶碗だから赤い土、
黒樂茶碗だから黒っぽい土というのではなく、
「まず掘ってみて、自分で確かめて欲しい」
とおっしゃいました。

私たちは、行動する前に頭で色々考えてしまいがちですが、
考える前に行動することも大事なのだと、
この時感じさせられました。

  • 椿昇先生のコメント

    経験も無いのに考えさせられるのが今の教育のダメなところ。
    「案ずるより産むが易し」も
    日本の伝統的な文化伝達のキーワードです。

 

赤樂のときもそうでしたが、
自然に直接触れるという行為は、人の心を揺さぶります。
凝り固まった考えを柔軟にしてくれたり、
心に覆いかぶさっている霧が晴れ、道が見えるみたいに
開放的な気持ちにしてくれる力を持っていると私は思います。

  • 椿昇先生のコメント

    基礎美のカリキュラムは
    いままでの高等教育の反省から生まれました。
    ところが意外なことに灯台元暗しで、
    日本人が昔からやっていた事に
    ヒントが隠されていたんですね。

 

掘り終わる頃には、みんなの靴はどろどろになっていました。
私たちは近くの用水路で靴を洗わせてもらい、
採った土にはそれぞれ名前を書き、その日は現地解散となりました。

京都文化トリハダ通信3

京都文化トリハダ通信3

採った土は、昨年と同じように粘土にしていきます。

 

素材は生きている

今回は、水簸(すいひ)という
きめの細かい粘土にするためのやり方をご紹介します。

 

〈土をはたく〉

まず、木づちなどで土を細かく砕き(=はたく)ます。
そうすることで水に溶けやすくなります。

京都文化トリハダ通信3

〈ふるいにかける〉

石や枝、落ち葉などを取り除くため、ふるいにかけます。

 

〈水と土を混ぜて撹拌する〉

ふるいに掛けた原土をバケツに移し、たっぷり水を入れ、撹拌します。

京都文化トリハダ通信3

しばらくすると、原土が下に沈み、
ゴミが浮いてくるので、分離した水と一緒に捨てます。
それを何回か繰り返し、1~3日放置。
原土と水が分離されたら、うわずみを捨てます。

京都文化トリハダ通信3

そして更にその土を濾して、滑らかな粘土にします。

京都文化トリハダ通信3

京都文化トリハダ通信3

京都文化トリハダ通信3

〈乾かす〉

不純物が取り除けたら、乾かしていきます。

京都文化トリハダ通信3

木の板、もしくはケイカル(ケイ酸カルシウム)と
呼ばれる吸水性の高い板の上いに薄く広げ、数日間置きます。
今年は天候があまり良くない日が続き、
なかなか乾くのに時間がかかてしまいました。
ですが、色々工夫しながら早く乾燥する方法を模索し、
1日でも早く乾くように頑張ります。
土は練って少しでも早く寝かしておいたほうが、
粘りが出て仕事がしやすくなります。

京都文化トリハダ通信3

京都文化トリハダ通信3

どうやったら早く乾くか、試行錯誤しています。

京都文化トリハダ通信3

小さい橋がたくさん並んでるみたい。かわいい。
これを「」というそうです。

水分がある程度抜け、ちょうど良い硬さになったら、
練り上げて、完成!

採ってきた土によって乾燥の仕方もバラバラなので、
ちょうど良い硬さにするのが非常に大変でした。

  • 椿昇先生のコメント

    いまは大量生産品に囲まれているので
    「バラバラ」をだんだん愛せなくなってます。
    利休も敢えて豪華な書院ではなく、
    極めて簡素ななかに絶妙な「バラバラ」を仕込む事を好みました。
    みなさんも「バラバラ」を愛おしいと思えるようになって欲しいな~

 

土という素材も生きているものです。
なので、管理をしっかりしなければいけません。

京都文化トリハダ通信3

そうして粘土にした土は、単味(その土のみ)
使えるものもありますが、使えないものもあります。
なので、木節粘土(粘りを足す)や、童仙房土(耐火度を上げる)など、
違う種類の粘土をミックスさせます。
例えば今回採ってきた赤土は粘りが乏しかったので、
木節粘土を足します。

小川先生は見たり触ったりするだけで、
「これは粘りが足りない」などが分かります。
長年の経験と知識が、私たちの何倍もあるのです。
先生ではなく、お師匠様ですね。

  • 椿昇先生のコメント

    お師匠さんが簡単に混ぜてくれますが・・
    実のところそこに最大の秘密が隠されてます。
    長い長い経験による情報の
    精緻な蓄積があることを見逃さないように。

 

そうしてできたそれぞれの粘土たちは、
我が子のように愛おしいものとなります。

京都文化トリハダ通信3

  • 椿昇先生のコメント

    愛おしい(いとおしい)良い言葉。
    自然にこの言葉が出るようになると、
    作られた作品が人を惹き寄せるようになります。

 

商売道具は地球の一部

「地球の一部を商売の材料にさせてもろてん。そう思うとすごいなぁ。」
橋さんが言ったこの一言が、とても心に残っています。

  • 椿昇先生のコメント

    基礎美術の原点がそこにあります。
    自然の恵みに感謝して一部をいただきながら暮らして来た日本人。
    二次自然との共生をこれほど美的に高めた民族はいません。
    その文化を学びにアジアからも留学生が来る時代。
    それにもかかわらず大切な文化価値を
    自分で放棄してしまってはいけませんね。

 

私たちが住む地球の表面は、土で覆われています。
「そうか、私たちは地球の一部を掘っているんだ。
地球の一部から作り出すお茶碗は、もはや地球そのものではないか。」
そういった思いが込み上げてきました。

また、琵琶湖の地層は、1年で6ミリ程度しか沈殿しないそうです。
橋さんのところの地層は、
何百万、何千万前から積み重なってきたのでしょうか。
中学や高校ではスルーしてきた理科の時間。
まさか大学に入って地層を生でみることになるなんて、
思ってもみませんでした。

人から聞いて終わりでは、知識はすり抜けていきます。
自分自身で直接触れることで得られるものというのは、体に留まってくれます。
自分でみて、触れたものは、
これからも大事にしいきたいと思いました。

  • 椿昇先生のコメント

    知識は脆弱、経験は強固なり

 

京都文化トリハダ通信3

また、土に関して
樂家はもちろん、代々続く陶芸の家系では、
それぞれ歴代が採取した土は当人が使うのではなく、
子孫のために陶土を遺しておくそうです。
100 年以上、保存されたものを使うこともあるということです。

これを知った時、なんてロマンがあるんだろうと思いました。
私たちが採った土も、私たちが生まれるずっと前からあって、
私たちはそれを使わせていただいている。

この基礎美術コースは、まさにそれを体現しているコースです。
茶の湯を始め、お能やお華、漆芸など、基礎美術では、
室町時代に生まれた伝統文化を、現代を生きる私たちが
自分の身体を使って行なっています。

なぜ残り続けているのか?
その答えはまだ見つけられていませんが、
続けていけば、こなしていけばいつか見つけられると信じて
日本の「基礎」を知るためにまだまだ奮闘中です。

  • 椿昇先生のコメント

    なぜ禅宗は「座禅」や「作務」を重視するのかを再考しましょう。
    頭を空っぽにして身体の声を聞くのです。

京都文化トリハダ通信3

 

つづく

2019.04.01更新