京都文化
トリハダ通信
3

樂茶碗づくり〈黒樂編〉
学生による授業レポート

Kyoto Art class
Report3
“Raku yaki”
Text by Hinae Suzuki


京都文化 トリハダ通信3
樂茶碗づくり
基礎美術コース 2年
鈴木 日奈惠

(4)_自分の身体で確かめる

さあいよいよ成形、お茶碗の形を作っていきます。

  • 椿昇先生のコメント

    やっと成形(^^)

 

作る前に、私たちは、
自分たちがどんなお茶碗を作りたいのかを考えます。
そのためには、他のお茶碗をよくよく観察しなければいけません。
茶碗の実物を、美術館などでスケッチして、
最低5個はファイリング。
作者、年代、銘、サイズ、特徴、感想など。
その上でどのような茶碗を作るのか
スケッチブックに実寸大でエスキース(下絵)を描きます。

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本などをみて、スケッチ。
参考にしたのは、
樂 篤人・吉左衛門(2013)『定本 樂歴代』樂美術館 監修 , 淡交社

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お茶碗の美術館といえば、
京都御所の近くにある、樂美術館は外せません。

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樂焼窯元・樂家に隣接して建てられており、
樂歴代作品を中心に、茶道工芸美術品、
関係古文書など樂家に伝わった作品がたくさん置かれています。
小さいですが、樂美術館は
樂家に伝わる約450年のエッセンスが保存されているという
素晴らしい美術館です。

  • 椿昇先生のコメント

    いずれ450年続いた「システム」の謎を
    研究して欲しいですね。
    基礎美術の背骨は「なぜ続く」のかという
    システム論でもあります。

 

お茶碗作りの資料が出来たら、一人ずつ先生と面談します。

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先生は私たちのエスキースに対して、
「自分の感覚でやってみて」と
自由にやらせてくれました。
私たちのことを信じて下さっているのだと、嬉しくなりました。

  • 椿昇先生のコメント

    2回生になって、すでに成形したものに
    成長の跡が出ていたからでしょう。
    職人の世界では10年やってもOKが出ないので
    「やや甘」なんだって自戒しなきゃ!
    簡単に喜んではダメですよ。

 

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基礎美術コースの子のエスキースの1つ。
どんなお茶碗にしたいかが細かく書かれています。

  • 椿昇先生のコメント

    このようなノートが財産です!
    きちんと体系化して卒制で茶陶を選ぶ学生は
    同時に展示してくださいね。

 

内に込める想い

〈成形〉

成形に関しても、赤樂茶碗の時と基本は変わりません。

樂茶碗の成形は、
手捏ね(てづくね)”と呼ばれる
少し変わった方法で行います。
一度円盤状に叩き延ばしたものを、
板の上に乗せ、両手のひらで周囲から土を締め上げ、
立ち上がらせていきます。

樂焼が作られるようになった時代、
桃山時代を代表する茶の湯の焼き物は
全て轆轤を用いての成形だったそうです。
轆轤は効率もいいし、量産もできる。
樂焼には効率が良いわけでもないし、量産もできない。
しかし樂茶碗がこのような成形方法なのにも、理由があります。

  • 椿昇先生のコメント

    やはり茶人の美意識があればこそです。
    茶の湯の講座はあまり多くありませんが、
    茶陶を通じてその重要性に気づいて欲しい。
    僕は利休はデュシャンよりも
    ある意味凄いって思ってますよ。

 

轆轤(ろくろ)を使う場合は、
回転によって中心から外側に向かって
遠心力で形作られるのに対し、
手捏ねは手のひらを使い、内へ内へと締め上げていきます。

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そのため、樂茶碗は手のひらを通した、
微妙な土の動きや凹凸があります。
それは、作った人にしか作れない微妙な凹凸です。
つまり、樂茶碗は、自分自身の鏡と言えます。
その時頭の中で考えていること、
悩んでいることなどが、今作っているお茶碗に映されるのです。
きっと、暗い気持ちの時に作ったら暗いお茶碗が、
明るい気持ちの時に作ったら明るいお茶碗ができるのだと思います。

  • 椿昇先生のコメント

    その人がごまかせない樂茶碗。ほんとは怖い課題ですね。

 

私は昨年度はお茶碗を6つ作りましたが、
今回は時間と自分の技術をよく考えて、
3つに力を注ぐことにしました。
この3つが、私の理想とするお茶碗の姿になるように。

 

<削り>

大体のお茶碗の形ができたら、
数日間乾かし、カンナで削り上げます。
昨年自分たちが作ったものや、新しく作りたい人は新しく、
自分の使いやすいカンナを作ります。
私たちが使うカンナは、
胴や腰などの大きな部分を削る用と、
高台などの細かい部分を削る小さいカンナなどの数種類。

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ですが、先生方は普段もっと様々な種類のカンナを自分用に作り、
使い分けているそうです。

  • 椿昇先生のコメント

    体験授業で僕が竹ヘラ制作をやっていたのを
    思い出しましたか?
    道具もすべて作れるのですよ。

 

自分の手で、口で、身体を使って確かめる

樂茶碗は、分厚い手捏ね原形の約70%の土を削り落とします。
短期間で激ヤセします。

自分がエスキースで描いた理想のお茶碗を、形にしていきます。
昨年の経験と、「茶の湯のためのお茶碗」という意識を念頭に置きつつ、
どんどん削っていきます。

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カンナの削り味が悪くなってきたら、研ぐ。
これも昨年と同じです。

赤樂茶碗を作った時のことを思い出し、作り進めていきます。
高台、腰、胴、口造り、見込み、茶巾摺り、茶溜りなどなど。
お茶碗一つにも、場所によって名前があります。
茶巾摺や茶溜りは、
まさに「茶の湯のためのお茶碗」と言った感じがしますね。

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  • 椿昇先生のコメント

    「茶碗には宇宙がある」と思っています。
    ミニマルアートというジャンルが現代アートにはありますが、
    勝手に創作ではなく一定のルールのなかで
    競い合う時にはじめて素晴らしい発見がもたらされます。
    サッカーや囲碁などもルールが厳格ですね。
    ルールのなかでこそ創造性が開花します。
    なぜ続くのか、
    そこには美しく洗練されたルールがあるからなのです。
    ルールの発見無きところに持続可能性なし!

 

また、削る時に大事なのが確かめること。
両手で持った時、手の中におさまるか、
重すぎたり軽すぎたりしないか、など
持っていて違和感がないかを確かめながら、
飲み口も、実際に自分で口をつけたりしながら
削っていきます。

このことも、樂茶碗が茶の湯のためにつくられた理由です。

削ったお茶碗には、
自分の印として高台内に落款(らっかん)をします。

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落款も自分達で作ります。

なんと、私の落款は、
みんなのお手本として小川先生に押していただきました。
なんという贅沢。ありがとうございます。

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  • 椿昇先生のコメント

    これだけで授業料回収(笑)

 

圧で形が崩れてしまわないように気をつけながら、
薄く土を伸ばしたものを押したいところに当てて、
片栗粉をつけて、押します。

先生たち陶芸作家さんの世界では、
少し斜めにするのがオシャンティーなのだそう。
ポイントは、あえて左を盛り上がるように押すことでアクセントになり、
高台に立体感を出したところ、だそうです。

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自分で作った惠の判子を押していただきました。

成形から削りまで、3日間ほどで完成させます。
そして、乾燥させます。
水分が残ったままだと、爆発してしまうので、
ちょうど良いところまで乾燥させます。

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〈素焼き〉

乾燥させたら、電気窯(800度)で素焼きをします。

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  • 椿昇先生のコメント

    窯つめも様になって来たね~

 

150度から350度が水蒸気爆発の危険温度域。
温度を急激に上げると、爆発の原因にもなるので、
少しずつ上げていきます。

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窯当番の人は、逐一窯の温度を細かく報告。
それはもう、細かく報告します。

その日の13時ごろから、22時ごろまで。
なんと、9時間にも及ぶ素焼き時間。
時間の都合上、乾燥が不十分なものもあったのですが、
窯当番の人たちの努力もあり、温度を緩やかに上げていったおかげで、
何とかみんな無傷で素焼きを終えることができました。

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  • 椿昇先生のコメント

    素焼きのままでも美しいなあ~~

 

本当にお疲れ様でした。
そして次は、黒樂の名前の由来にもなっている、
釉薬を掛けていきます。

 

本物の姿勢から学ぶ

昨年の赤樂茶碗の時は、
訳も分からずただ作り進めていく、という感じでしたが、
その経験もあり、みんな作業手順に関しては
自分から進んでやっていっていました。
まずはじめに自分が作業するところを掃除する。
場を清める」ことも、もちろん忘れていません。
みんなが掃除をしているのを見て、
そこが、基礎美術コースのすごいところだなと改めて感じました。

  • 椿昇先生のコメント

    自ら悟る事が重要です。
    やらされた感あってもすぐ消えるからね。
    人の見ていないところで掃除をする。
    隠れた禅かもしれませんね。

 

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小川先生作の楽茶碗たち。
実際に本物の美しさを手にとって、見て、感じます。

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赤樂茶碗の時教えてくださった、
お茶碗作りに対する気持ちの持ち方。
一切妥協しない、言い訳はいらない、自分にしっかり向き合う。
それらは、先生方から口で教えてもらうだけでなく、
姿勢から、言葉遣いから、動作から、
学んでいくことできます。

こうして本物の方々から
直接教えていただくことがどれだけ有り難い事か、
もっと噛みしめなければいけないと思いました。

  • 椿昇先生のコメント

    下宿でも茶碗は作れるので、
    課題が終わって作らないのはもったいない。
    作って作ってまた作る。創るは作るから

つづく

2019.04.01更新