京都学
レポート
5

西陣織職人
株式会社細尾商店 金谷博さん

株式会社細尾商店
金谷博さんによる京都学

Kyotostudy Report #5
Hosoo
Hiroshi Kanaya

by Takenouchi Haruka
  Mizobe Chihana
  Suzuki Hinae
  Kishi Naoki

株式会社細尾商店
金谷博

空間デザインコース2年 竹之内春花
空間デザインコース2年 溝部千花
基礎美術コース2年 鈴木日奈惠
ファッションデザインコース 2年 岸直輝

京都学レポート5

ゲスト 西陣織職人 株式会社細尾商店 金谷博さん

担当は文筆家・工芸ジャーナリストの米原有二先生と、
空間演出デザイン学科准教授・デザイナーの酒井洋輔先生です。

この授業では、毎回異なる職人さんがゲストとしてお越しくださり、
京都が育んだ手仕事とその粋、
京都のことや日本のことなどを教えていただきます。

京都の工芸には、日本の工芸と違って
ものづくりが他の文化と連動し、
繋がっているという特異点があります。

京都に住む70人に1人が伝統産業に携わりながら
生活しているこの京都という地で、
私たちはそんな京都の伝統について学んでいます。

そして、学生がそれぞれ授業を受けて考えた新しいアイデア(イノベーション)を
レポートとして提出してもらっています。

今日の職人さんは、
京都 西陣で生まれた西陣織の職人 金谷博さんです。
細尾商店は元禄時代に創業された西陣織の老舗です。
西陣織の新しい提案を模索する中で、
金谷さんが気づいた西陣織の本当の姿を教えてくださいました。

西陣織職人 株式会社細尾商店 金谷博さん

 

”日常生活で使ってもらえない西陣織”

西陣織の生産は分業制で行われているそうです。
西陣織はまず「企画」といって
要望を受けて各工程の職人さんが集まり、
仕上がりのイメージを相談します。
そのイメージを元に、デザイナーが図案をデザインしています。

次に「整紋」という工程で
専門の職人さんが碁盤の目のようにマスの引かれた上に、
どのように色を配色すればその図案を再現できるのかを
パソコン上で構成します。
とても緻密な作業で、これを極めるのには数10年かかるのだそうです。

西陣織職人 株式会社細尾商店 金谷博さん

西陣織職人 株式会社細尾商店 金谷博さん

また、西陣織は「先染め」といって
先に染められた糸を使って織っていきます。
その糸を染める職人さんもいて、
何色かの色を調合することで様々な色の糸を染め上げるそうです。
そのようにして、レシピと素材が揃ったら
すぐに織り始められるというわけではありません。

次は、織り機に糸をかける「整織」という作業があります。
3000本もの緯糸に縦糸を通していきます。
織機(しょっき)の上にある
ジャガード織機(模様の複雑さ・大きさに関わらず、
より精密な模様を再現できる織機)に整紋データを取り込み、
機械製で織っておられます。
「オートではなく、あくまで手の延長に機械がある。
機械だからといっても、
1台に1人は職人が付いていないといけない。」
と金谷さんはおっしゃっていました。

最後に人の目で傷や汚れがないか確認する「検反」を行います。
このように企画に始まり、
織り上がるまで様々な専門の職人さんを介して西陣織は完成します。
そうしてたくさんの職人さんが関わってできている高価な織物なので、
その分生産コストが高くなってしまうという問題があります。

生産規模も落ち込み、
西陣織業界は着物を着ない世代が増え始めた
約20年前から困窮しているそうです。
どうにか売れるものが作れないかと模索してきましたが、
人々が生活用品として使うには
値段が高いという問題点があります。
日常生活で使ってもらえなければ、
成功することは難しいと金谷さんは感じたそうです。

西陣織が呉服以外で需要を生むことは難しいと感じた金谷さんは、
海外の人ならこの魅力をわかってくれるかもしれないと
海外での挑戦を決意しました。

 

“西陣織の本来の姿”

13年前、金谷さんは初めてパリでの見本市に参加しました。
「メゾン・エ・オブジェ」です。
1月と9月の年に2回フランス・パリで開催される
インテリアやデザインの見本市です。

初めて参加した2006年には、
帯の生地をつないで作ったソファの展示を行いました。
基本的に帯として生産されている西陣織。
着物を着ない海外の人に向けて、
つないで大きな生地にすることを発案したものでした。
しかし、200万円という大金をはたいて
展示を行ったのにも関わらず、
ターゲットを定められていなかったことから、
どの層の人の目にも留めてもらえませんでした。
翌年にはクッションカバーを製作し、
販売した「西陣クッション」は少しだけ好評でしたが、
それでも大きな成果は上がらなかったそうです。

西陣織職人 株式会社細尾商店 金谷博さん

西陣織職人 株式会社細尾商店 金谷博さん

(上:ソファ 下:西陣クッション)

その後も似たようなデザインではあるものの、
毎年出店を続けていました。
2009年には生地が膨らむ技術を使ったことで
グッドデザイン賞を受賞し、
400万円のオーダーが入りましたが、
これまでの出店料は到底まかなうことができません。

経費も底をつき、他の社員からも反対されるようになり、
いよいよ金谷さんは撤退するつもりで社長に報告に行きました。
「海外の人が使うために、
何が必要かを分からずに作っていたことが敗因であり、
ただ技術を自慢しに行っていただけで
使い道を示すことができなかった。」
と社長に話したそうです。

すると「よくその課題をみつけてきたな。
じゃあ次はその課題を解決するだけや。」
と社長に言われたことで思い直し、
社員の反対を押し切って続けることに。

その後フランス、ニューヨークなどで
展示を行うなど活動を続ける中で、
金谷さんは『Christian Dior』や『CHANEL』の
内装を手がけるデザイン事務所の
ピーター・マリノ・アーキテクトの建築家、
ピーター・マリノに出会いました。

彼は西陣織のテクニックやその図案に惚れ込み、
ぜひ生地を開発してほしいと依頼して来たそうです。
その内容は、西陣織を店内の壁紙に用いるという驚きの提案。
彼の要望で鉛を溶かしたような凹凸の模様といった
これまでの西陣織では考えられないような図案が届きました。

しかし、通常30センチほどの帯の幅しか
織機ではおることのできない西陣織の生地を、
店内を飾る壁紙ほどの大きさに広げられるのか。
といった様々な不安が浮かんだそうです。

西陣織職人 株式会社細尾商店 金谷博さん

当時、海外には
織物の生地を壁紙に用いている内装会社があったりと、
そのような大きな幅を織ることのできる織機を
導入している会社がありました。
せっかく日本の技術を褒めてもらったのだからと、
海外の織物と日本の織物である
西陣織の差別化を測ることを金谷さんは考えました。

まず、150センチもの幅の
西陣織を織ることのできる織機を開発しました。
また細尾商店は当初、
葉っぱの模様や花の模様など
古くから伝わる日本の柄を大切にしていましたが、
ピーター・マリノが好むテクスチャーのような
模様のオーダーを忠実に引き受けました。

「そのような模様は店内で
商品を引き立てるのだ」と彼は言っていたそうです。
そのようにして壁面を飾る大きな西陣織を製作したことにより、
北京にある『Christian Dior』が
西陣織で空間を演出した第1号店としてお披露目されました。
この出来上がった内装を見た時、
金谷さんは「これが西陣織の本来の姿だ」と感じたそうです。

また「京都というのはおあつらえの文化。
素材は近隣の地域が作って、
それを京都は最後に仕立てて天皇に献上していたのです。
お店があって、商品があって、
最後に空間を華やかに飾る西陣織の姿は、
それが本来の姿だと感じました。」と教えてくださいました。

現在では壁だけでなく、店内のソファの張地など、
小物も全て細尾商店が引き受けておられます。
銀座にある『Christian Dior』の店舗では、
内装を細尾商店が引き受けて12,3年目となるのだそう。
また『CHANEL』や『LOUIS VUITTON』の
内装も手がけておられるそうです。

西陣織職人 株式会社細尾商店 金谷博さん

西陣織職人 株式会社細尾商店 金谷博さん

そういった活動から再び帯へと立ち返り、
新しいデザインの帯も発表していくことになりました。
その新しいデザインの提案の中で
『MIHARAYASUHIRO』が「西陣織のスーツ」という形で
ファブリック(織物)のファッションをデザインし、
パリ・コレクションにてお披露目しました。

これは大変な好評を呼び、
翌年も新しいデザインで、
パリ・コレクションのランウェイを歩きました。
そのスーツには
箔糸(和紙に金・銀・アルミなどの箔を貼り付け細く裁断したもの)を
切れないように織り込むという
西陣織でしかできない難しい技法を用いて、
独自のデザインを生み出したそうです。

西陣織職人 株式会社細尾商店 金谷博さん

西陣織職人 株式会社細尾商店 金谷博さん

 

“日本は図案を作るのが得意”

金谷さんは「メゾン・エ・オブジェ」で
作ったものを紹介したい、売りたいという思いで
何年も挑戦をしてこられましたが、
会場内で他の海外ブランドの展示をよく観察すると、
商品だけでなく展示もとてもカッコよく、
ギリギリの資金で凝った展示すらできない自分たちに、
戦えるほどのものなど無い。とさえ思ったそうです。

ですが、こうしてメーカーと共同して製作を行う中で
毎年異なる図案が届くものの、
ほとんど新しい工程もなく、
あまり変わらないものを作っているという
現状に気づいたのだそうです。

「デザインと色を少し変えるだけで、
とても違う印象の西陣織を生み出すことができていました。
先代が作ったものをベースにして
デザインや色を変えることだけで、
たくさんの図案が生まれていました。」
「その時、日本は”図案を作るのが得意だ!”と気づいた。
様々なリクエストに応えて
多種多様な図案を作ることができるのは、日本だけです。
日本はこういう海外にはできないことができる。
これらを使って海外のものと
日本のものとの差別化を行いたいと思っています。」

西陣織職人 株式会社細尾商店 金谷博さん

西陣織職人 株式会社細尾商店 金谷博さん

西陣織職人 株式会社細尾商店 金谷博さん

 

  • 春花の感想

伝統工芸の職人さんが
このようなブランドに関わっているということに、
とても驚きました。
また、パリの見本市にも出品されていたという事実も、
職人さんのイメージと異なっていてとても驚きました。
ですが、それは細尾商店の金谷さんが
常に新しい西陣織の提案を模索され、
挑戦をするといった試行錯誤を繰り返してきていたことから
結びついていった結果なのだろうと感じました。

古いことばかりをただ繰り返しているのではなく、
時代が変わって求められるものが変わる中で、
どのようにデザインして
人々の生活用品であり続けるのかを
探求している職人さんがいるということを知るきっかけになりました。
新しい提案の中に、
そのものの本来の姿を見つけていくということは、
今後のどんな伝統工芸にも求められていると感じました。

また、日本が図案を作ることが得意というのも、
私たちがこのKYOTO T5の活動などで
海外の方と関わる中で何人もの方がおっしゃっていたこと。
四季があることで、他の国の人々よりも
季節の違いを意識する経験の多い日本人にとって、
そのように季節や自然を感じて
図案に表現できる心は
これからも大切にしていきたい宝だと思います。

伝統工芸がその土地の気候や風土によって
養われていくということの意味を深く感じました。

 

・今回の授業を受けて、学生が考えたアイデアを少しだけご紹介

学生アイデア

・西陣ベルト
レディース・ニットワンピのアクセントに。
絶対に可愛いなと思う。
余計な装飾をつけず、紐だけでくくって使う。
Idea:佐藤綺

 

学生アイデア

Premium Japan Taxi
東京五輪に向け、「JAPAN TAXI」として
従来のクラウンに代わる新しい車種が開発されたが、
よりおもてなしとして、
西陣織の内装に用いた「
Premium Japan Taxi」として
限定的に走らせたい。
(ハイヤー的な立ち位置)
私用の車としてもおそらく高くて多くは売れないだろうが、
限定販売ならば売れるのではないかと思う。
Idea:高浦拓宣

 

学生アイデア

・民族衣装 × 西陣織
海外の伝統衣装に西陣織の装飾を施す。
金谷さんが海外のデザイン事務所から受けたお仕事では、
きらびやかな図案よりも
その背景を求められたというお話から、
今度はその逆をやってみようという発想。
イラストのような民族衣装は布の繋がりや構造も独特なので、
西陣織の質感とも良い反応をして、
面白い服ができるのではないか。
そうしたものを集めてショーを開くと、
他とは異なる展開ができると思う。
Idea:奥津陽彦

 

2019.04.01更新