
樂茶碗づくり〈黒樂編〉
学生による授業レポート
(6)_「冷静に熱く頑張っていきましょう」
お待たせいたしました。
ついにお茶碗の最終工程、窯焚きです。
〈窯の組み立て〉
前日のうちに窯を組み立てておきます。
赤樂茶碗の時は、
耐火レンガを蓋のないはこのような形で並べましたが、
今回は、耐火レンガを筒のような形に組み立てていきます。
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椿昇先生のコメント
炎と土って人間の根本にある大切な
「何か」なんだけど、
もう誰もその在処がわからなくなってますよね。
めちゃ凄い薪ストーブだと思って
炎を見たらデジタルだったりとか笑えない・・・。
人間はどこへ向かっているのか
不安になったら炎を眺める機会を持ちたいですね。
レンガは、組み立てやすいように
凸凹している面をコテなどで削っておきます。
この作業がなかなかに大変でした。
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椿昇先生のコメント
再利用してゆく賢さを身体化することは、
これからの君たちにはとても大切。
ガリガリガリガリ。
腕がめっちゃ疲れました。
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椿昇先生のコメント
液晶画面から世界を見るだけじゃ
身体はどんどん遠くへゆく。
でも人間は病気をしたり怪我をしないと
その事に気づかないのですね。
そういう僕もこうやって
液晶画面にコメントを書き込んでいます(笑)
テレコになるように積み上げて、
その隙間をモルタル
(セメント1に対して2~3の砂を混ぜて水で練ったもの)で
埋めていき、
作った内窯を入れ、炭を敷き詰めて準備完了です。
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椿昇先生のコメント
セメントは日本で豊富に採取できる資源のひとつです。
下の方には、風を送るため隙間を
4箇所空けておきます。
黒樂の窯では、
“ふいご(人工的に風を送る装置)”によって
窯の焼成部に空気を送り、
窯内部の木炭の焼成を一気に高め、
温度を急激に上昇させます。
私たちはこのふいごの代わりに、
ブロワー(送風機)で風を送ります。
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椿昇先生のコメント
さすがにここは電気を使うんだね。
足踏み式ふいごもありますよ~。
お茶碗の授業が行われたのは、
夏真っ盛りとも言える時期。
盛夏の引き出し黒はなかなかに過酷です。
油断したら、火傷、一酸化中毒、熱中症、
命と隣り合わせの窯焚きになります。
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椿昇先生のコメント
危険を丁寧に現場で学ぶ教育が
消えて久しくなりました。
基礎美の先生たちはひるまない!
赤樂茶碗は900度くらいですが、
黒樂茶碗はより高温の、
1250度くらいまで温度を上げます。
なので、覚悟を持って臨まなければいけません。
普段私たちが入っている
お風呂の温度が大体42度くらいだとすると、
だいぶ熱いことが分かります。
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椿昇先生のコメント
爆笑!!!
服装は、
ツナギ、もしくは長袖長ズボン、
サンダル以外の靴、サングラス、
顔と頭を覆うためのタオル。
手は軍手の上から皮手をして、限界まで守ります。
見た目はあれですが、
こうでもしないと、火傷したり、
髪が燃えてしまったりするのです。
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椿昇先生のコメント
「あれ」とは何を指し示すのかな~~~。
チコちゃんより。
冷静に熱く
〈窯焚き〉
先生方は朝8時から準備をしてくださいました。
私たちも授業が終わった人から合流。
私たちが作った内窯を使った直炎窯と、
清水先生が持ってきてくださった
清水窯(先生自作)も使い、
一人2碗は焼けるようにどんどん焼いていきます。
炭を入れています。
火を起こしています。
お茶碗を焼く前に、
高台(お茶碗の底の部分)がくっついてしまわないように、
“メ”という粘土を小さくめるめたものを3つ程くっつけます。
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椿昇先生のコメント
僕は高台に残る“メ”の跡が結構好きです。
そして、
お茶碗を窯の周りに並べて温めます。
温まったら、火ばさみでお茶碗を挟み、内窯の中に入れます。
直炎窯は3碗ずつ、
清水窯は5碗ずつ焼いていきます。
先生も私たちも必死です。
しかし、ここで事件発生。
私たちが作った内窯が、
2回目を焼いている途中で崩壊してしまったのです。
そのため、途中で清水窯に引っ越しし、
その後は清水窯のみで焼いていくことになりました。
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椿昇先生のコメント
その瞬間のエネルギーの移動する様を忘れないでね。
清水窯
30分おきぐらいに入れ替えて、
火を落とせないので
その場にいる人からどんどん焼いていきます。
温度上昇がイマイチだと感じたら、
炭を追加していきます。
蓋を開けて、炭を入れたら、すぐ閉める。
そしてまた炭を追加したら、すぐ閉める。
温度が下がってしまわないように、
作業はスピーディでなければいけません。
さらに、樂焼は窯の中で温度が下がるのを待つのではなく、
釉薬が溶けたらすぐに引き出し冷却します。
つまり、急熱、急冷するのです。
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椿昇先生のコメント
なぜこの方法になったのかな?先生に聞いて見た?
必死のパッチですが、この暑さです。
無理な人は頑張り過ぎず、動ける人が動いて、
みんなで助け合うしかありません。
「冷静に熱く頑張っていきましょう。」
革手袋をせずに火に近づくとこうなります。
軍手では弱すぎた、、、。
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椿昇先生のコメント
危機一髪!でも純綿の軍手って万能です。
窯場のすぐ近くに休憩場所として教室をお借りして、
ポカリなどの水分もたくさん用意していただきました。
あと、記録もしっかりと。
鎮火作業を終え、帰る頃には外は真っ暗になっていました。
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椿昇先生のコメント
このホワイトボード現場感がすばらしい!
この環境も作品といえるかもしれません。
一瞬の美
「私達は明日マジでやります。
協力して下さい。宜しくお願いします。」
清水先生は窯焚きの前日、
私たちにこの言葉をおっしゃいました。
この瞬間、私たちがこれから行う作業が、
どれだけ過酷なことなのか
ハッとさせられました。
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椿昇先生のコメント
先生を「マジ」にさせるのは学生次第です。
そこが現場で忘れられている。
教育は共同作業で
先生が一方的にするものではないのですね。
良い噺家と良い観客がいてこその芸能です。
授業もひとつの芸能の美学に基づくのが僕の理想です。
当日は万全の準備をし、臨んだため、
怪我人は出ませんでしたが、
先生方はいつもこんなに大変なことをしているのかと思うと、
改めて先生方のすごさを実感します。
まさに身体知。
また、
引き出したばかりのお茶碗は
「俺に触れると火傷するぜ」と言わんばかりに赤く、
太陽のように輝いています。
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椿昇先生のコメント
地球誕生の時の輝き!
遺伝子に反応するんだろうな~。
その後、まるで日食のようにそれは漆黒へと変化します。
その過程は、
目を離せなくなるほど美しく儚いものでした。
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椿昇先生のコメント
すばらしい表現だね!
窯焚きの時、
先生方の纏う空気は普段よりもピリッとしていました。
それは、先生方が本気でやっているから。
清水先生も小川先生も、
私たちに対して本気で向き合ってくださっているからだと、
後から気づきます。
それが私たちにとってどれほどありがたいことなのか。
「学生だからやる気がなくてもしょうがない。」
「学生だからできなくてもいい」
というような理屈は通用しません。
先生方が本気だから、私たちも本気で答えねば。
というか、私たちが先生方以上に本気でなければいけない、
と思ったのでした。
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椿昇先生のコメント
うーん。
ありがたいと思っているうちはダメだね。
永遠に先生には届かなくなる。
反発して乗り越えて先生たちの上に行くぞと思わないと、
ますます距離は遠くなってしまいます。
悪い意味で良い生徒にならないように。
つづく
2019.04.15更新