温新知故
#14


岸田繁、初めて三味線を弾く

京都のアートやクリエイティブ活動の最新事情を訪ねてみると、その奥には必ず伝統という財産が豊かに広がっていたりする。
いわゆる「古きを訪ね新しきを知る」という視点からではなく、むしろその逆、新しいものの向こう側にこそ垣間見えてくる京都の先人たちの、技や知恵。

この対談シリーズでは、若い職人さんやアーティスト伝統文化の世界ではない人からの視点も交えた異色の対談集というかたちで京都の伝統文化に新しい光を当ててみたい。

──岸田さんは民族音楽とか
いろんな楽器とかお好きですよね。

岸田繁
楽器はすごく好きですね。
ギターとかもわりと変えるほうです。
三味線とかいわゆる3本弦のための曲というのは書いたことないですけども、たとえばオーケストラ楽器で書く曲は、バイオリンのチューニング、あるいはわれわれがふだんやるようなギターのチューニングだと、さっきでいうと真ん中の弦の調整が違うんですね。
4度で並んでたり5度で並んでたりすると指の動かし方が違うので、そういうときはやっぱり書くのに
ほんま考えて書かなあかんのですけど。
楽器によって気持ちのいい響きっていうのは違うんですよね。
4度のときと5度のときっていうのでだいたいその弦楽器ってわかれていて、ぼくらは4度の並びに慣れてるんですけどバイオリンとかはまた違いますよね。

──三味線とかは弾かはるんですか?

岸田繁
三線は持ってるんでたまに弾いてたりはしましたね。
三味線はまださわったことないです。
さわってみていいですか?

野中智史
もう、ぜひぜひ。
三線とほぼほぼ一緒なんですけど全長が長いので、指の感覚が広いかもしれないです。

野中智史
さすが。やっぱりすぐ鳴らさはりますねー、音。

岸田繁
こんくらいの感じなんですね。

野中智史
そうですね。
三線と比べたら感覚がちょっとずつ広くなっていってるんですね。

──昨年、野中さんも出演された小唄の会で聴かせてもらった時に、ちょっとバンジョーに響きが似てるなあって言う印象を持ったんです。なんかブルースみたいやって思って。

野中智史
小唄は爪弾きなのですが、たしかに皮をパンパンに張った三味線でバチで叩いて弾くと、バンジョーっぽい感じになるのわかりますね。

岸田繁
ああでも、たしかにさっきおっしゃったみたいに、思っているより音そんな大きないんですね。

野中智史
そうですね。叩けば出るんですけど。

岸田繁
中指はふつうに使うんですか?

野中智史
使います、使います。

岸田繁
なんか弾いてもらっていいですか?

野中智史
いいですよ。
僕は爪弾く(つまびく)ときもあるんですけど、結構バチ使っちゃいますね。

岸田繁
あー、なるほど。
バチが大きいっていうのもおもしろいですね。
しゃもじみたいな。

野中智史
これは長唄用のバチで、これ義太夫さん用なんですよ。
大きいズベンベンベンってやつ。

岸田繁
あんまりとんがってへんね。

野中智史
民謡になると鼈甲(べっこう)のバチ使ったり。
用途も変わればバチも変わってきて、いろいろですね。
津軽とかなると早弾きになるんですけど。

岸田繁
いわゆるアップ(下からバチで糸を弾く)のときって独特ですね。くるっと回すんですね。

──回すっていうのはどういうことですか?

野中智史
こういって、こう。

岸田繁
あぁ!くるっと返すんですね。

野中智史
そうです、そうです。

岸田繁
持ってみてもいいですか?

野中智史
どうぞ、どうぞ。
三本指こうしてもらって、横にかけて、手首グゥッと。
どっちかっていうと半身で胴の皮面が少し見える感じで、上からペタッと押してる感じですね。

岸田繁
けっこう手が痛いですね。

野中智史
そうですね、最初は。

岸田繁
小指はここに折り込んでおく?

野中智史
そうですね。折り込んどく。

岸田繁
うわぁ、全然できない。小指が出てまう。
これで早いの弾くってすごいですね。うーん、難しい。
ありがとうございます。

野中智史
やっぱり、勘所が掴まれるのが早いですね。
いいところの音だしはりますね。

岸田繁
いやいや。



温新知故
#14
野中智史×岸田繁

文:
松島直哉

撮影:
平居 紗季

岸田繁オフィシャルサイト
https://shigerukishida.com

くるりオフィシャルサイト
http://www.quruli.net

温新知故
#14


岸田繁、初めて三味線を弾く

京都のアートやクリエイティブ活動の最新事情を訪ねてみると、その奥には必ず伝統という財産が豊かに広がっていたりする。
いわゆる「古きを訪ね新しきを知る」という視点からではなく、むしろその逆、新しいものの向こう側にこそ垣間見えてくる京都の先人たちの、技や知恵。

この対談シリーズでは、若い職人さんやアーティスト伝統文化の世界ではない人からの視点も交えた異色の対談集というかたちで京都の伝統文化に新しい光を当ててみたい。