
釣りと職人?!
「boil」について
お話を伺いました。
(2)
「イノベーション」とは、
新しいものを生産する、
あるいは既存のものを新しい方法で生産することであり、
生産とはものや力を結合することと定義される
(『経済発展の理論』Schumpeter)。
本研究センターでは、
伝統文化におけるイノベーションの創造を目指すと共に、
イノベーションを起こしている
様々なクリエイター / 企画者を取材することにより、
発想やきっかけが生まれた物語を記録、発信していきます。
「釣り」と「職人」を掛け合わせて、
ルアーをつくる「boil」という制作。
京都造形芸術大学 空間デザインコース4年 稲田弥也くんに
そのイノベーションが生まれた話と考え方を聞きました。
(2)_「釣り」と「職人」
他にも色々な種類のルアーがありますね。
はい。色々な場所に尋ねていきました。
京都に着き、京都タワーの次に目に入るもの、そう東寺の五重塔です。
そんな東寺を嵯峨天皇の強い願いにより完成させたのが
空海というお坊さんです。
そんな空海が誰にでも豊かな勉強ができるようにと
次に渡った地が和歌山県伊都郡高野町通称、高野山です。
ということで次に訪れたのが
高野山の御神木霊木杉を使用し、数珠づくりを行う職人さんのところです。
ここでは数珠に使われるパーツを
うまくルアーに組み込めないだろうかと思い、
特注のサイズで珠(たま)を削り出していただきました。
しかしその玉は、まん丸ではないのです。
数珠づくりを行う職人中前さん(光木阿字館館長)に、わけを尋ねると、
中前さん「ここからはご自身の手で磨き上げていただいております。
生を受けた時のように我が身の心が清く正しくなる様に
磨き上げていただきたいです。」
私「なるほど。磨くことで心を清めながら自分と向き合うということですね。」
中前さん「そうですね。また角をとることで、人としての角を落とすという意味合いもあります。なので実際に磨いていただくことを大切にしております。」
中前さんのご好意で数珠に使われる貴重な霊木杉を
少しだけ譲っていただけることになったので、
帰宅後パーツに合わせてルアー本体を削り出す作業に取りかかりました。
後日もう一度、高野山を訪れ完成したルアーに
干支の刻印を彫っていただき完成となりました。
「ルアーのあれこれ」
ひとつのルアーをつくるのにもたくさんの工程があります。
まず木を選ぶところから。
今回漆塗りしていただいたルアーはすべてバルサという木を使っています。
この木は最も加工しやすい木と言われ、とても柔らかいです。
錺金具に使用した木は様々で、金具の模様と木の木目がマッチし
さらに金具の形によって変わるアクションに適切な浮力になるよう
全て違った種類の木を使用しています。
使用した木は松、ピーラー、アガチス、ヒノキです。
次にカッターで角材の状態から削り出します。
通常のルアーは旋盤などで削りますが
職人のパーツに合わせてミリ単位の調整をするので
ほとんどカッターのみの作業になります。
次に磨きの作業。
80~3000 番のヤスリを使い磨き上げていきます。
ここが一番根気のいる作業になります。
そして、磨き終わると重りを入れる穴やビスを刺す穴を開けます。
そして最後に水に強くする溶液にどぶ漬けしては
3 日乾かしを 6 回ほど繰り返し、水に強い艶のあるルアーの完成になります。
この制作を通じて感じたことを教えてください。
職人は怖いとか、頭が硬いというイメージがあります。
しかし本当はとても柔軟な考えを持ち、
自分の技術が新しいことに使われるのを
とても楽しみにしていることが今回の制作を通じてわかりました。
ルアーなんて “おもちゃ” だと思う方も多いかもしれません。
しかし、釣り人からすれば、大切な “道具” です。
天気、気温、風 にあわせてルアーの種類を変え、魚を探します。
それは職人が、用途に合わせ道具を持ちかえるのに似ています。
こんな遠いどこか似たもの同士の二つの文化が合わさったとき、
「伝統工芸」あるいは「釣り」どちらの文化にも
新しい可能性をあたえるのではないでしょうか。
おわり
2019.05.15更新