
Whole Love Kyotoと
HANAO SHOESの誕生(1)
「HANAO SHOES」を生んだWhole Love Kyotoの代表である
酒井洋輔さんに、ブランドの誕生秘話についてお話を聞きました。
(酒井さんは株式会社CHIMASKI代表、KYOTO T5の研究センター長、空間演出デザイン学科ファッションデザインコース准教授も務めています)
Whole Love Kyotoは「OLD IS NEW 古いものは新しい」をテーマに、
京都でつくることにこだわっています。
ファッションという観点から、
Whole Love Kyotoのルーツをお聞きしました。
(1)_ 京都にいるのに、もったいない
人は「遠く」へ憧れてしまう
溝部:Whole Love KyotoやHANAO SHOESはどのように誕生しましたか。
酒井:京都造形芸術大学のファッションコースの問題から話さなければなりません。
ファッションの持つ力は、「新しい服を買うことによって新しい自分になれる」ことです。
ここ最近、ファストファッションという安価なものが流行って、
いろんなことが変わりました。
今までのファッションはどんなブランドでも
新作の発表は年に2回(SS、AW)だけだった。
しかし、ファストファッションのブランドは
年に50回以上も新作を出すんですよ。
それによって人はどんどん新しい服を買うようになった。
溝部:新しい服をどんどん買うことによって、
新しい自分になる機会が増えたということですね。
酒井:そう。新しい服がどんどん増えて、どんどん捨てるようになった。
その「新しい」を作っているのは発展途上国で、
そこでは公害がたくさん起きている。
僕らの知らないところで、水や空気が汚染されて苦しんでいる人たちがいる。
そして、その人達が作った服を着ているのが僕ら。
そしてうちのファッションの学生の抱える問題が、
そんなことを知らずに服の作り方を学ぶということ。
もう一つの問題が、
僕らは京都に大学があるのに、みんな東京を見ていること。
人の消費を煽って、「新しく・可愛く・素敵に・かっこよくなれる」ということは都会が考えること。
そこからトレンドが発信されて、
新しいファッション、新しいブランドが生まれて、
今も星の数ほど生まれ続けている。
新しい服を着て素敵になれた、という経験があるからそういうことをやりたいと思う人がいるということは当然のことで、
変な犠牲や数が多すぎなければとても素敵な仕事です。
都会の人たちはそういうことにチャレンジしてて、
雑誌も全部、都会が作っている。
とても表層的で「今!」というブランドが東京やヨーロッパに沢山ある。
学生らは、そういうものをかっこいいと思う。
京都にいるのに。もったいないですよね。
溝部:みんな流れていってしまうんですね。
酒井:そう。もったいない。
溝部:それは京都にいるのに、ってことですか?
酒井:なぜ「京都にいるのに」なのかというと、京都は日本で一番人気の都市です。京都は世界の中でも、唯一無二の都市でしょう。
京都には、ここにしかないものがいっぱいある。
例えば京都の大学の学生って地元に帰った時や旅行に行った時、
知らない人に「どこの大学なん?」と聞かれて「京都です」と言ったら
「え、いいね!」ってぜったい言われる。
溝部:確かに!「ええとこに住んでるね」って言われて、盛り上がります。
酒井:「京都?どこそこ?」なんて言われることは、ない。
かならず「いいね」って言われる街。
その時点で学費の10%くらいはペイしている。すごいこと。
みんなが知ってて、みんなが行きたいって思う街には、その理由があるはず。
ずっと人の心を惹きつける理由。
それを歩いて探せる環境に自分たちはいるのに、
東京や欧米「遠く」に憧れてしまう。人間の悪い癖ですね。
溝部:表層化されてる都会やブランドを見ているということですね。
京都をファッション化させる
酒井:ほとんどの学生には“京都=歴史・伝統・古い”のイメージしかない気がする。
もっと踏み込んで、京都を見て欲しい。
だけど“歴史・伝統・古い”って、おしゃれじゃないから、
おしゃれな学生は興味を持とうとしない。
それなら、おしゃれにしたらいいって思った。
それでやってみた授業が、「京都をファッション化させる」というもの。
溝部:京都をファッションに落とし込むってことですか?
酒井:例えば、スターバックス。
あの紙コップを持って街を歩くとおしゃれになる。
お持ち帰りの紙袋を持って歩くのも。
それからフランスパンのバケットの先端を、紙袋から少し出して小脇に抱えて歩くのもおしゃれ。
それって“コーヒーが好き・コーヒーに詳しい”ってことも「ファッション」になるってこと。
でもフランスパンは元々ファッションじゃなかった。
ヨーロッパの写真を見て、おしゃれだと思ったんだろうね。
コーヒーもファッションじゃなかった。
コーヒーをファッション化させたのがスターバックス。
Whole Love Kyoto(以下WLK)は京都・伝統というファッションじゃないものをファッションにしようとしているんです。
ファッション化させることは、とても大きな力を持っていて、大きな人数が動く。
溝部:『京都をファッション化させる』ことでHANAO SHOESが生まれたんですね。
酒井:その授業の時に僕は、「京都のお土産屋に行ったら面白いものが全然売っていない。京都でなくても作れるものばかり。I LOVE KYOTOと書いてるだけでお土産になる。京都が有名だから。実際にお土産として売ってる物の大半は京都で作られていない」という話をした。
このことは唐長の千田さんが「今は、京都とさえ言っておけばいい時代」という風にも仰っていた。
そんな授業で、ある学生が作ったものが、鼻緒をスニーカーにすげたもの。
それがHANAO SHOESです。
溝部:ではこのブランドの活動は、京都に住んでいるけど、東京の表層的な部分を見たり、流行に流される学生に向けた想いから始まったんですね。
酒井:そうです。「もったいないよ」という気持ちから始まった。
京都で撮影をしようと思った時に東京にいたら、新幹線代払って時間をかけてこなくちゃダメ。
重いカメラと、自分の作ったものと、モデルと共に。
そんなのやりたくても中々できない。
それに比べて、京都に住んでたら自転車だけで済むのに、
こんなことにも学生は気付いていないようにも感じた。
本当にもったいない。
学生に背中をおされて、ブランドへ
溝部:このWLKは2017年の「都をどり」の際に誕生しましたが、何か当時のエピソードはありますか。
酒井:「都をどり」は舞妓・芸妓さんの舞台。
年に1回、春の風物詩として京都の祇園 歌舞練場で行われてきたのですが、
耐震工事の関係でうちの大学の劇場で2017年と2018年に開催されることになりました。
その時に、あのHANAO SHOESをズラっと並べたものを大企業の偉い方が見たら何か起きるんじゃないかという気持ちで展示をしました。
その結果、考えていたような美味しい話にはならなかったけど、
思いも寄らないほどの反響があったんです。
そしてその時に藤井大丸(京都四条)の方が来て、催しが決まった。
すると制作した学生らが「ブランドにするべきだ」ということを言い出して、アレヨアレヨと…。
HANAO SHOESを4月に展示して、発売したのが7月。
約3ヶ月の間にブランドになっていきました。
「都をどり」でのウェルカムアートとして学内に展示した様子
溝部:懐かしい…。早いですね。
ブランドになる際に、新メンバーの募集があり
私は2期生ということになります。
この靴が欲しいという沢山の反響と、藤井大丸という最初の目標ができてブランド設立に至ったんですね。
酒井:あと、学生の熱意が大きいです。
学生の背中を押すのが教員の仕事です。
でも学生に背中を押されたのは初めてでした。
ブランド作るなんてめんどくさいし、とても大変。
ホームページを作ったり、商品を入れる箱や紙袋、ショップカード作ったり、プレス・リリースをかけたり諸々必要で。そんな大変なことやりたくない。
でも学生らがとても嬉しそうに見えたし、それもいいかなと思った。
その初代の3人は引き継ぎをして今はもう別のこと?恋など?に忙しく関わっていませんが。
つづく
2019.06.01更新