京都文化
トリハダ通信

京都文化トリハダ通信 4

「花をすることは生きることそのもの」
学生による いけ花授業レポート(1)
〈茶室空間プロデュース編〉

Kyoto Art class
Report 4
“Ikebana”
Text by by Suzuki Hinae

学生による いけ花授業レポート
基礎美術コース 3 年
鈴木 日奈惠

(1)_繰り返しとは、積み重ねること

基礎美術コース2回生、今回の授業は立花(たてはな)
教えていただくのは、花士(はなのふ)である珠寳(しゅほう)先生です。

花士(はなのふ)である珠寳(しゅほう)先生

京都の慈照寺(銀閣寺)にて初代花方を務め、
2015年に独立し、草木に仕える花士として、大自然や神仏、時、ひとに
花を献ずることを国内外で続けられています。

音楽や現代アーティスト、工芸、建築などの分野で
国内外のクリエーターとも協働されています。
私たちが珠寳先生にお花を教えていただくのは今回で2回目。
稽古とは、繰り返しの実践。
お茶碗や漆、立花、お能など基礎美術コースでは、
同じ先生に同じことを習う授業がほとんどです。
稽古という繰り返しの中で、自分自身の軸を積み重ねたものが自分の糧となります。
1回生では自分が作った竹花入に花を生けるという授業でしたが、
2回生のゴールは、自分で茶室の一空間をプロデュースするというものでした。
〈場づくり〉まず初めに私たちがすることは、掃除。

  • 椿昇先生のコメント

    掃除はスポーツで言えば
    ウォーミングアップとクールダウンに当たります。
    本番の試合をイメージしながら脳内でシミュレーションを行う貴重な時間。
    禅の修行では作務(さむ)と呼ばれて大切な修行の一部ですから怠りなく。

 

気持ちよく作業ができる空間にするための空間づくりは、とても大切なことです。
なんでもそうですが、汚れてるところで何かをしても、
捗るどころかストレスがたまりますよね。

特に珠寳先生の稽古では場づくりに気を遣います。
なので、部屋の隅々までホウキ掛けから雑巾掛けまで、徹底して行います。

これは毎時間の稽古が始まる前に必ず行います。
私たちが1年間やってきた授業は、どれも「まずは掃除」を実践してきました。
みんな誰かに言われなくても「まずは掃除」をします。

ほうきで床をはいてから、雑巾がけ。

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この光景、小学校の掃除の時間を思い出します。

また、荷物はまとめて風呂敷につつみ、隅に並べておきます。
風呂敷に包まれた姿が、なんとも可愛いです。

  • 椿昇先生のコメント

    風呂敷も日本独自の空間意識から生まれていますね。
    リュックやバッグと言った目的に応じて
    多種多様な製品を作るという考えではなく。
    一枚の布を様々な用途に転用する。
    とてもエコな考え方なのですよ。

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「見えないところまで美しく」を常に意識します。

そして、稽古開始。
珠寳先生からいけ花の心得、所作などのお話がありました。

その後、コミ藁(こみわら)という、
稲から作られるお花を留めるためのものを作ります。
コミ藁は、剣山が無かった遥か昔から使われているもので、
その歴史は古く、室町時代にまで遡ります。

 

命がかかった空間づくり

遣唐使以降の大陸との交流によって盛り上がった
唐物至上主義の集大成が、
『君台観左右帳記(くんだいかんさうちょうき)』
という足利義政の東山殿での書院飾りを、能阿弥や相阿弥などの
同朋衆(室町時代以降将軍の近くで雑務や芸能に当たった人々のこと。
1866年に廃止された。)が記録した伝書です。

  • 椿昇先生のコメント

    舶来好きの日本人は昔から変わりませんね〜。
    遣唐使の頃から室町時代の朝貢貿易も、中国に渡るのは命がけでした。
    数多くの船が東シナ海に沈んでいて、
    空海が一年で戻っているのは奇跡に近いです。
    当時の辛苦におもいを寄せてみましょう。

 

これが和洋の美意識を育てる種となり、
さらに日本の様々な様式の基準となって行きます。

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当時の同朋衆たちは、今でいうクリエイティブディレクターでした。
しかも殿中行事となれば、成功するかしないかで
自分の首が飛ぶという生きるか死ぬかの世界。
命がけですから、自分の持つ全ての教養とセンスをかき集めなければいけないので、
人々を魅了する空間を作ることができたのでしょう。

  • 椿昇先生のコメント

    能の大成者として21世紀の現代においても
    世界から尊敬されている世阿弥も、
    権力者の寵愛が去ると流罪になったり散々な目にあっています。
    しかしその苦境のなかで今に伝わる謡曲の傑作を生み出しています。
    それらの波乱万丈の人生経験が「花伝書」や「花鏡」という古典を誕生させました。
    時系列から進歩という価値観で歴史を見るのではなく、
    その時代の経済や政治や都市構造を考えて
    横軸で歴史を体感することが重要です。

 

私たちはまさに室町時代の同朋衆になって、今回の課題に挑みます。
〈コミ藁つくり〉使わせて頂く稲は、
立岩農園さんで作られる無農薬・無化学肥料の稲です。

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  • 椿昇先生のコメント

    日本は日本農薬に対して、先進国のなかでは恥ずかしいくらいに鈍感です。
    特にネオニコチノイドという除草剤の成分は、
    みつばちの方向感覚を狂わせると言われ、
    ヨーロッパなどは全面禁止ですが
    日本はホームセンターで普通に売られています。
    若いきみたちが声を挙げて欲しい。

 

立岩農園さんには、珠寳先生がお稽古やお献花をされる際に使用する
専用の田んぼがあります。
コミ藁用の「花士(はなのふ)の田」です。
珠寳先生は毎年、立岩農園さんに出かけて、
有志の方々と手植えで田植えをしておられます。

  • 椿昇先生のコメント

    多くの受験生が基礎美術の「基礎」を間違えて理解していますが、
    このコースは原点を大切に、本物を志向する日々を送ります。
    態度として「基礎」に敬意を払って生きるという事が重要ですし、
    日々答えの出ない「基礎」とは何かを自問する姿勢を続けてゆく「構え」を4年で体得して欲しいと思います。
    それはきっと一生を通じてみなさんを支える背骨になってくれます。

 

コミ藁はまず一本ずつ藁から葉鞘(ようしょう)(鞘のように茎を包んだ葉の基部)を外し、綺麗にします。

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  • 椿昇先生のコメント

    藁の匂いのレポートも欲しいね。

 

それを適量ずつまとめて束にし、切り揃えます。

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本来はこの後、小さい束を寒い時期に水にさらし、
ある程度あくを抜き、よく干してよく乾燥させるのですが、今回ここは短縮。

こうして作られたコミ藁は、一回きりではなく使用後もよく乾燥させ、
丁寧に扱えば数年は使うことができます。

珠寳先生の授業では、現代では考えられないような原始的な材料、
原始的な方法で全て行います。

  • 椿昇先生のコメント

    原始的では無いよ(^^)
    いまも僕たちはお米を食べていますからね。
    若い農業者で原点に戻って農作をしている人は、
    左京区の大原にも数多くいます。
    意識を高くすればまわりにそういう人はたくさんいます。
    目を閉じてはいけない。

 

化学調味料や添加物にまみれた生活が当たり前になったこの時代で
こんなに自然に寄り添ったことをしているのが、とても幸せに感じました。

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先生が持ってきてくださった稲を、
私たちはひたすら、ただひたすらに束にしていきます。

作りながらも、頭を、五感をフルに使わなければいけません。
早く正確に葉鞘を抜くためにはどうしたらいいか?
時間が限られている中、私たちはその貴重な時間をどう使うか考えねばなりません。
先生の動きには無駄がなく、綺麗で見惚れます。

  • 椿昇先生のコメント

    「所作」がその人を形作ります。
    所作から心が磨かれてゆくのがこのコース。
    見惚れるだけでなく同じ所作ができるよう
    徹底して家で鏡の前に立っているかな???

 

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黙々と作業をしていく中、
いつの間にか部屋の中は稲の良い香りに包まれていました。

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部屋の中はハサミのシャキンという音と、葉鞘を抜く音、藁を置く音しかありません。

  • 椿昇先生のコメント

    スマホをさわらない時間の豊かさに気づいて欲しいね。
    この経験を気づくか通り過ぎるか・・すべては君たち次第なのです。

 

静かで外からの光がキラキラと差し込み、稲に囲まれた空間。
この時間は、私にとっても、きっとみんなにとっても大切な時間となったでしょう。

葉鞘を抜いた藁を束ねるための紐は、畳を縫うときに使う畳紐。これは麻100%のものです。
少量をとり、底をきっちり揃えます。そして束ねるのですが、この時
「とっくり結び」という結び方をします。

  • 椿昇先生のコメント

    麻は綿布が到来する以前の日本人を支えていました。
    麻と絹について調べると日本の成り立ちに面白い事実が見えてきます。
    卒論のテーマにしてもいいね。

 

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とっくり結びとは、一回結ぶと取れない、
しかしあるところを引っ張ると簡単に取ることができるという素晴らしい結び方なのです!
習得するのはなかなか難しいのですが、覚えてしまえば簡単です。

  • 椿昇先生のコメント

    世界中に伝統的な紐の結び方の事例があります。
    調べてみるとパズルのようで面白いし、
    比較文化の対象にもなります。これも卒論テーマかな?

 

何回も使用するため、
解けにくく、解きやすい結び方にしています。

こみ藁作りを2日間行い、次は竹花入作りが始まります。

 

使い捨てではなく、使い続ける

日本人は昔から「もったいない」精神を大事にしてきました。
使わなくなったタオルや服は雑巾にしたり、ちょっとしたところを拭い
ものを長く大切にする工夫をしてきました。

その精神は今の私たちにも流れていると思うのですが、それが難しくなっていると感じます。
使い捨ての紙コップ、ストロー、スプーンやフォーク、箸など
一回きりで捨てるものがあふれています。

でも、世界で機械化やAIが発展して、便利になるのはいいことだと思うのですが、
私たちは身近にある地球の資源に気づくべきだと感じました。
気づいていないだけで、素晴らしいものがたくさんあるのだと。
それに気づくと、些細なことでも感謝の気持ちを忘れないようになると思うのです。

わざわざ自分の体に害のあるものを使わなくても、
材料というものは私たちの身近にあるのだと気付かされます。
前ばかり見ているのではなく、たまには足元を見ることも必要だと思いました。

私も便利すぎる世の中に流されすぎないように、気を引き締め直します。

  • 椿昇先生のコメント

    同じ気持ちを持った人々は世界にも多くいます。
    2月にみんなで訪問したニューヨークには、
    特に意識の高い人々が多く住んでいます。
    その人達が日本に注目しているのに、今の日本はオーガニック後進国。
    なんとかしなければなりませんね。

2日間でコミ藁を完成させ、その後は花入作りの構想に入ります。

つづく

 

2019.06.01更新