京都のスープ
#09


まるき製パン所

「流行なんか追いかけてたら、すぐ古くなるやんか。ずっとこれやってたら、これがずっと新しい。」
車の整備士から一転、パン屋さんの道へ。社長 木元広司(ひろし)さんにお話を伺いました。

繋ぐ

大宮通りから松原通りへ入り、商店街を少し歩いたところに、まるき製パン所はあります。

昭和22年に創業したまるき製パン所は、今の社長 広司さんのお義父さんが始められました。
広司さんは、後継ぎがいないということで、当時お付き合いしておられた今の奥様と「どうせ2人で一緒になるんやったら、俺が後継ぎなる。」と自動車の整備士から一転、パン屋さんへと身を移されたそうです。

「京都にずっと住んでいて、僕が小さい時からここのパンを食べてた。だから、繋ごうと思ってここに来た。京都はものすごい古いものも、ものすごい新しいものもあるけど、ここは変わらない。僕パン屋やけど、ここのパンしか知らん。」

お店に来るお客さんは小さい子からお年寄りの方、近所の方や遠方から来られる方など、幅広くいらっしゃいます。

中には、小さい子がおつかいで来ることも。その場面はまるで昭和時代にタイムスリップしているようでした。

“まるき”という名前の由来は、木に○で○木。

京都発祥と言われる「ニューバード」。昔は京都全体のパン屋さんで売られていたが、だんだん作るお店が減り、今ではあまり売られていないそう。


優しいコッペパン

まるき製パン所では、お客さんのほとんどがコッペパンのメニューを頼まれるため、コッペパンのメニューが豊富に揃っています。

昔、お店の近くに高校があり、そこの高校生たちがたくさん来ていました。

元はコッペパンだけをたくさんつくるのではなく、色々なものをつくっていたそうですが、どうしても売り切れが出てしまっていました。そこで、コッペパンだったら売り切れにならず、なんにでも対応できるということで、コッペパンをたくさんつくられるようになったそうです。

「お客さんが100人来ても、コッペパンやったら挟むだけやからなんでも作れる。普通の丸いアンパンとか、ジャムパンもあんねんけど、コッペパンに挟んでって言わはる人が多いから、そういう風になってしもた。」

まるき製パン所のシンプルなコッペパンは、口に入れた瞬間、ふかふかとした食感にどこか懐かしく、安心した優しい気持ちになります。そのパンには、広司さんや作られている方達の人柄が現れているようでした。

「シンプルが一番ええのちゃう。赤飯やバラ寿司なんか毎日食べられへんやろ。白ごはんは毎日食べられるやろ。それを目指さなあかん。」


流行は追いかけない

京都は、パンの消費量が全国1位(2016年家計調査より)。職人さんたちの間で手軽に食べられるパンが人気になった、という説もあります。そんなパンが大好きな京都の人たちからも、まるき製パン所のパンは愛されています。

現代は、新しいものがどんどん増えて、目が回ってしまいそうになりますが、京都の中には、ものすごく古いものもたくさん残っています。それが京都のいいところだと、広司さんはおっしゃいます。

「京都にずっといて、“古いものは新しい”っていうのは、いつでも感じてるよ。今みんな新しいものになってるやんか。しゃれたパンとか。そんな時うちのパン見たら逆に新しく感じる。その繰り返し。そやし、流行なんか追いかけてたらすぐ古くなるやんか。ずっとこれやってたら、これがいつでも新しいの。」

京都で生まれて72年。

「どこでも買えるんじゃない、ここに来て欲しい。」

まるき製パン所は、いつまでもこのままの姿で京都にあり続けて欲しいパン屋さんです。

上:手前が木元広司さん、奥が息子さん。
下:広司さんの奥様。


京都のスープ
#09
まるき製パン所

文:
鈴木日奈恵(基礎美術コース)

京都のスープ
#09


まるき製パン所

「流行なんか追いかけてたら、すぐ古くなるやんか。ずっとこれやってたら、これがずっと新しい。」
車の整備士から一転、パン屋さんの道へ。社長 木元広司(ひろし)さんにお話を伺いました。