京都学
レポート
8

漆職人 
村田好謙さん

漆職人
村田好謙さんによる京都学

Kyotostudy Report #8
Lacquer craftsman
Murata Koken

by Takenouchi Haruka
  Mizobe Chihana
  Suzuki Hinae
 

漆職人
村田好謙

空間デザインコース3年 竹之内春花
空間デザインコース3年 溝部千花
基礎美術コース3年 鈴木日奈惠

京都学レポート8

ゲスト 漆職人 村田好謙さん

担当は文筆家・工芸ジャーナリストの米原有二先生と、
空間演出デザイン学科准教授・デザイナーの酒井洋輔先生です。

この授業では、毎回異なる職人さんがゲストとしてお越しくださり、
京都が育んだ手仕事とその粋、
京都のことや日本のことなどを教えていただきます。

京都の工芸には、日本の工芸と違って
ものづくりが他の文化と連動し、
繋がっているという特異点があります。

京都に住む70人に1人が伝統産業に携わりながら
生活しているこの京都という地で、
私たちはそんな京都の伝統について学んでいます。

そして、学生がそれぞれ授業を受けて考えた新しいアイデア(イノベーション)を
レポートとして提出してもらっています。

 

今日の職人さんは、漆職人 村田好謙さんです。

作品をつくる中で、自分自身を見つけてきたという村田さんのお話は、
その随所に、ものづくりへの愛情と情熱を感じました。

やはりどこか職人さんたちはストイックで、
それは先代からの技を真似て追求していく方向だったり、
自分自身がそれを習得していく中、職人としてどうありたいのか。
その熱量に溢れていました。

そんな職人さんたちのエネルギーが、
今を作ってきたということを改めて強く感じた授業でした。
また私たちが忘れてしまいがちな何かも、
思い出したような気持ちになりました。

 

“漆は英語でJapan”

日本の漆芸は産地の数だけあると言われるほど多様です。
漆の上に螺鈿(貝殻の内側の真珠色をした光る部分)を刻んだり細かくして漆器の表面に装飾する技法や、
蒔絵という金銀粉などで表面に絵を描く技法など様々です。
特に蒔絵は日本独自の技術です。

また、漆表面の表現も、艶のあるものから光沢のないようなものまで、
その加飾技術の高さはとても魅力的です。

漆というのは樹液です。
漆の木は日本・中国・朝鮮・ベトナムなど東アジアにのみ生息しています。
中国などでは「殺し掻き」といって木を伐り倒すことで漆液を採取します。
ですが日本では漆の木が少ないため、
保存していくために「養生掻き」と言われる傷をつけて採取する方法をとっています。

木の表面に傷をつけると、木が傷口を塞ごうとして樹液を分泌するのだそうです。
花が咲く6月から10月ごろに傷をつけ、
4、5日木を休ませて元気にしたらまた傷をつけるということを繰り返し、
最終的に木を伐ります。
このように森を守りながら循環していくように漆を採取しています。

10年から20年ほどかけて大切に木を育てても、
1本の木からはわずか200ccから300ccという
コップ一杯ほどしか採れないのだそうです。
漆というのはとても貴重な自然の産物なのです。

 

漆職人 村田好謙さん

漆職人 村田好謙さん

また採取した段階では私たちの知っている黒や赤といった漆の色ではなく、
実は少し白っぽい透明色をしているのだそうです。
漆が鉄分を含むと黒に変色する性質を利用してつくられている色なのです。

また赤い漆には辰砂(しんしゃ)という鉱物を混ぜたりしています。
黒い漆をつくる技術はヨーロッパには存在していなかったため、
黒い漆器というのは大手貿易相手として特に力を入れて輸出されました。
マリー・アントワネットなど、フランスの上流階級の人々が
日本の漆器を好んだと言われています。

日本独自の蒔絵(金箔などを表面に施したもの)は特に好まれていたそうです。
漆は英語で「Japan」と呼ばれるほど世界から求められ、
日本を代表する輸出品でした。

 

“ものを大事にする人は人も大切にする”

「今は使い捨ての文化。買い換えたらいいと思われがち。」
以前村田さんは4人のお子さんに、漆を使って自分が使うお茶碗を自分たちで作らせるということをしたそうです。

漆という良いものを使って、良いものを作る。
そこには素材の高級さと、
自分の手で作ったという体験から生まれる愛情の価値が加わります。
村田さんはお子さんたちに、
1つのものを大事にするということを教えたかったのだそうです。

もし欠けたりしてもまた直して、
お子さんたちは30年経った今でもそれを使っているとのこと。
直して使うという文化も、手で作ってきたからこそのものでもあります。
機械によって高度な技術で作ってしまったものは、
簡単には直すことができません。
職人さんの手によって直してもらったり、
自分で直したりしていくと使えば使うほど味になり、
ものに対する愛情は増していきます。

そのような気持ちを取り戻すことができる要素が、
工芸には潜んでいると教えてくださいました。

漆職人 村田好謙さん

 

“作品を作りながら、自分を作る”

村田さんは学生の頃に漆と出会いました。

20代からたくさんの受賞を重ねていましたが、
いつからか、その成績のために作品を作っているような感覚になっていた。
と当時を振り返っておっしゃっていました。
教わって来た技法の範囲内で、
あまり挑戦的ではないような作品を作ってきたそうです。

ですが30歳を超えたあたりで、
その教わってきた範囲内でのみ作っていく作品は、
自分の作品と呼べるのかという疑問にぶつかりました。

そこから絵を描くことや彫刻にも関心があった村田さんは、
これまで頼ってきた技法を全部捨てて、新しいものを作ることを始めました。
金属や陶器はどんなものでも表面に描いたり、加飾することができます。
それを生かして独創的で斬新なオブジェ作品の制作を始めました。

漆職人 村田好謙さん

漆職人 村田好謙さん

展覧会などを開催すると、
これまで受賞を繰り返してきた頃とは違い評価は下がり、
元の作風に戻すことを強く勧められたと言います。

それでも村田さんは作風を変えませんでした。
蒔絵の加飾技術をベースに、高蒔絵と呼ばれる南極の砂を混ぜて
表面を盛り上がらせる技法も取り入れていきました。
そのきらびやかな蒔絵から、漆で光や、
蜘蛛の糸を表現した作品などを作られました。
金箔や黒箔(銀箔などを加工して黒く変色させたもの)を貼ったり、
木の上に和紙を漆で貼り付ける技術を使った作品なども制作されたそうです。

漆職人 村田好謙さん

漆職人 村田好謙さん

漆職人 村田好謙さん

漆職人 村田好謙さん

特に蒔絵は、顔料を混ぜることで何色でも作ることができます。
しかし、白色というのは今まで作ることができませんでした。
そこで村田さんは、卵の殻を漆で貼り付けることで白色を生み出したりもしました。

「私はこれらの制作によって、漆作品を始めた頃の楽しさや、まだ見たことのないものを生み出す喜びを思い出すことができました。
人生は縦の糸と横の糸があります。そこで出会うものがあります。その中で自分がどうありたいかを私は作品を作ることで見つけています。
作品を作っているようで、自分を作っているのです。」

村田さんは自身が制作する喜びを感じ続けていけること。
初心を忘れないでいること。
職人、芸術家として作品を作り続けることで、
自分自身を見つめているのだと教えてくれました。

漆職人 村田好謙さん

  • はるかの感想

漆というのは、私たちにとってはすごく身近なものだったと思います。
家に必ず漆の器というのはあったし、生活の様々な場面で目にしていました。

だけどそれが木から採れることであったり、実は透明であったり、
ましてや木を傷つけて採るなんて不思議な方法をとっていることなんかは
知らない人がほとんどだろうなと思いました。
バシバシ伐採して採取するのではなく、
ちょっと採ったら休ませて森を守りながら、
木を守りながらというのも面白いことだなと思いました。

このように私たちの暮らしで当たり前であることの中にも、
知らないことが潜んでいるということが
往々にしてあるのだろうなということを思いました。

職人さんたちというのは、いつも私たちの予想を軽々と超えていきます。
何百年と試行錯誤をされているのですから、当たり前ですが…
それだけ長い時間が作ってきた伝統というのは、
どんな最新技術を使っても簡単には超えられないのだろうなと感じます。
今生まれている最新の機械も、
仕組みは職人さんが手でやっていた技法を機械でできるようにしているものです。
つまりその職人さんがいなければ機械は生まれていません。
そう思うとますます職人さんというのはすごいのだと感動せざるを得ません。

そんな職人さんだからこそ、
たどり着いた新しい伝統の形として村田さんのような作品を
生み出していけるのだとも思います。
そこには伝統に対する、ものづくりに対するあたたかい愛情を感じました。

はるか

 

・今回の授業を受けて、学生が考えたアイデアを少しだけご紹介

子ども向け漆製品/漆口紅カバー

・子ども向け漆製品/漆口紅カバー
小さい頃、お祝いの時に出されていた器や、
「すごく高いんだよ~」とか、「大事な器だよ~」とか
言われていたけれど、何が高いのかも、どれほど大切なのかもよく分からなかった。小さい子が大事に使いたくなるようなものはやっぱり、
自分の好きなものだと思ったので、ちゃんとした席で
子どもが楽しめる高級感のある上質な食器を考えてみた。
口紅は、木のカバーなどがあるので、漆塗りの口紅カバーなど。
Idea::藤谷綾音

漆クリスマスツリー

・漆クリスマスツリー
漆塗りのものは日本の工芸限定の印象が強いため、
西洋の文化や小物を漆の工芸品としてアレンジしてみたいと思った。
idea:鈴木美咲緒

漆タイムカプセル

・漆タイムカプセル
数年経って、より味が出る。
未来の自分へ送る漆製品制作サービス。
例えば、5年後の自分へ送る漆製品など。
idea:榎櫻

 

2019.07.01更新