伝統文化研究員の本棚
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仕込みもの

八幡はるみ先生のススメ
「仕込みもの」

Traditional culture researcher's bookshelf
Yawata Harumi

伝統文化研究員の本棚
八幡はるみ

伝統文化(工芸)や、職人さんについて「知らない人」だった私たちは職人さんや 京都の物事に出会って、知らないことを教えてもらい驚きと感動の毎日を過ごしています。
知れば知るほど「もっと知識を増やしたい」「メンバーの中でも知識を共有したい」 と思い、人類が研究してきた膨大な情報にアクセスするため、私たちは本を読んでいくことにしました。

 

京都について、職人さんについて、伝統文化について、工芸 について
KYOTO T5
の研究員へ、様々な先生方からおすすめしていただいた本を紹介していきます。

 

仕込みもの

手塩にかける

料理の本である。

しかし、タイトル「仕込みもの」が示すとおり、内容は料理を超えてとてつもなく深い。目次には「梅仕事」と「仕込みもの」の2つしかなく、酢で、塩で、味噌で、麹で、糠で、粕でなどと並んでいるだけ。次に、らっきょう、塩辛、たくあん漬け、魚の糠漬け、なすの粕漬けなど、やっと聞き覚えのある言葉にたどり着く。

作者の辰巳芳子さんは、90才を越えてなお現役の料理研究家である。
材料や料理法について、日本の風土―まわりを海に囲まれ温暖で多湿―を理解する重要性を説き、日本人として何を食するべきかを唱えておられる。
おいしさには3通りあり、1つめは果物のようなそのものの味わい、2つめは調理したもののおいしさ、3つめが本書で扱う熟成したもの、ねかせたもののおいしさだと語る。

「保存食」は「仕込みもの」と呼ばれ、国や地域に独自のものがある。熟成した味とは、ものと人間と風土と時間とのかかわりによって作り出された底力のある旨味だと付け加えている

私は以前から、作品を作ることと料理することは似ていると思っている。近年、干し柿、切り干し大根、ぬか床をつくりはじめたことで、この思いは決定的になった。しして出会ったのがこの本である。

個性を発揮して作る創作料理ではなく、昔ながらの日本の食である。例えば干し柿。皮をむいて軒下にぶら下げる、陽に当てたり、風に吹かれたり、雨を防いでやったり、ほんの少し手をかけるだけで、時期がきたら食べられる。合理的である。「風仕事」という言葉どおり、風が仕事をしてくれるのである。私ががんばったのではない。ものが欲することを察し、従い、収まるべきところに収まるようにする。作り手は手を貸すのみと心得る。ものづくりに通じる。

私はここまで悟ることはできないけれど、「染め」という工芸的な仕事を続けるなかで、この考えはよくわかる。素材、技の潜在力を利用したときに、よい作品が生まれる。法則にかなった手のかけ方が必要なのだ。食べ物をつくることと芸術作品をつくること、それは地続きだとつくづく思う。もっと言えば、食から出発した作者の哲学は、これからの人類の生き方を教えてくれている。


 

タイトル:仕込みもの
著者:辰巳芳子
出版社名:文化出版局
出版年月:2013年 12月


 

【紹介下さった方】
八幡はるみ
1982年京都市立芸術大学大学院美術研究科修了後、個展やグループ展をベースに活動。同時にプロダクトとして、シャツやパンツなどのウェアや浴衣、革製品などの商品開発も手がけ、「染め」の汎用性について実践し多様な楽しさを示している。

 

2018.08.01更新

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