
自分の価値観でものをみること、選ぶこと
「mingei+◯」について
お話を伺いました。(1)
「イノベーション」とは、
新しいものを生産する、
あるいは既存のものを新しい方法で生産することであり、
生産とはものや力を結合することと定義される
(『経済発展の理論』Schumpeter)。
本研究センターでは、
伝統文化におけるイノベーションの創造を目指すと共に、
イノベーションを起こしている
様々なクリエイター / 企画者を取材することにより、
発想やきっかけが生まれた物語を記録、発信していきます。
「民藝」を考えることで、
「自分の価値観でものを選ぶこと」へ向かっていく。
ワークショップを行うことを通して、
参加者と共にご自身も考え方を育んでおられます。
京都造形芸術大学 歴史遺産学科卒、また大学院の卒業生
河野ひかるさんにお話を聞きました。
「伝わらないのがもったいない」
ー河野さんの学生の頃の制作について、またこれまでの活動について教えてください。
学部生の頃は歴史遺産学科という、歴史や文化財の保存修復などを勉強する学科に在籍していました。その中で伝統産業とか伝統工芸の工房に行くような授業があって、その時に伝統産業や工芸、そしてそれを作る職人さんに興味を持つようになりました。
卒業論文は醤油屋さんとか染物屋さんとかにお話を聞きに行って「伝統産業のブランディング」をテーマに書きました。
もちろん伝統的な技術を使って古き良き技を伝えていくっていうのも大事だけど、そこに今までずっと使ってきたもの、例えば醤油屋とかだったら木桶を使って醤油を仕込んでいらっしゃるところだったんですけど、桶で仕込んで作る前に、その桶を作る職人さんがいないから醤油屋さん自身が自分たちで木桶を作ろうってされてるところがあって。
そうやって領域を超えつつも職人をされている方々にインタビューをして論文を書いているうちに、これを論文で書いてもあんまり外に伝わりづらいなって思うことがありました。
歴史遺産学科の展示って入りづらい雰囲気があるし、デザインを学ぶ学科ではないので、研究の内容を伝えようとしてもどうしていいかわからなくて、良い研究をしてても見てもらえないっていうのがあって。
それは伝統産業とか工芸だけじゃなくて、歴史遺産学科って文化財の保存修復とか古美術品の修復の研究もしてて。
今アートとかデザインを学んでいる人たちの作品が、いつか本当にアーティストになった時に100年後も残るかもしれないって思ったらそういう美術品の保存修復の研究とかもすごく大切なはずだけど、
なかなか伝わらないなっていうのがすごいもどかしかった。
私、大学院からデザインの勉強をし始めたんです。それで、服部先生と丸井先生(大学院生時代の先生方)に担当していただいて。
最初は、1年生の時に日本の伝統文化である「家紋」をテーマに制作をしていました。今って自分の家の家紋が何を使ってるかとか知らない人も多いですよね。それをファッションに落とし込めないかなって思ってそういう服を作ったりしたんですけど、自分は「作る人」じゃないから、なんていうかそういうことをしてもあんまり意味がないんじゃないかなって思ってしまいました。
元々がデザイナーの人だったらよかったのかもしれないけど、私は「作る人」っていうよりは「伝える人」だなって思った。
その後にもう1回、じゃあ伝統産業とか工芸を若い人に伝えるにはどうしたら良いかなっていうのをすごい考えて。それを考えてる時に「民藝」ってものに出会ったんです。
「民藝運動(1926年に柳宗悦・河井寛次郎らによって提唱された手仕事の日用品の中に用の美を見出す生活文化運動)」っていうのが工業化が進もうとしてた大正の時代に始まって、その中心人物だった柳宗悦さんたちが言いたかったことって私の中の解釈としては、
工業化が進もうとしてた社会に対するアンチテーゼ(ある主張に対して否定する理論や主張)だったんじゃないかなと思っていて。
「民藝」と言われてるものは今だと地方のお土産品とか、その時に活躍していたスターの人たちの河井寛次郎さんの器とか濱田庄司さんのものとかそういうふうにカテゴライズされがちだけど、そうではなくって。
「もの」っていうよりかは運動だったので、私は思想的な部分が強いんじゃないかなと思っています。
社会の流れが良いって言ってるから工業品良いねって言ってることに対するアンチテーゼなんだとしたら、すごいかっこいいなって思った。
私も今の時代って、どっちかっていうと星の数だったりいいねの数とかで「あ、これ人気なんだ良いね。」とかで気にしたりとかしていて、良いものを本当に自分の価値観で良いって言ってるっていうより、周りの人のいいねを気にしつつ、ものを見てるんじゃないかなって思ってしまって。
工業化が進む時代に対するアンチテーゼと、無銘の職人が作るものの中から用の美を見出そうとしていたところから「自分の価値観でものをみること、選ぶこと」っていうのを「民藝」っていうことに捉え直して、現代に生きる世代なりに民藝を解釈していくための活動を始めました。
それが「mingei+◦(民藝と)」です。この活動では様々なイベントを開催してきました。
「mingei+◦(民藝と)」
現代を生きる私たちのようなミレニアル世代(2000年代に成人あるいは社会人になる世代)と呼ばれる人たちは、工業製品やデジタル製品に囲まれて育ちました。民藝品や工芸品に触れる機会が少なかったから、ものを購入する時にどうしてもそれらが選択肢に入りにくい。
しかも民藝品や工芸品は工業製品に比べて高価なものじゃないですか。だから今すぐ購入することができなかったとしても、将来購入の選択肢の一つになるようなフックを作ることを目的に「mingei+◦」という名前でイベントなどを開催してきました。
普段使ってる自分たちの器とか、そういうものの中に美しさを見出そうとすることも「民藝」だと思うから
工業製品とかも伝統工芸と対立構造によくなりがちだけど、実はそうじゃなくって工業製品であっても、ちゃんと背景を持って作ってる人たちもいらっしゃるので、そういうものも大事にしつつ、伝統工芸とか産業とかをもうちょっと身近に感じてもらうことが大事なんじゃないかなと思いました。
そういう考えから、「今の時代の民藝とは」というタイトルでスタンダードブックストア心斎橋さん(2019年4月閉店)でトークイベントを開催しました。
私が民藝を思想として捉えるようになるきっかけになった「民藝のインティマシー「いとおしさ」をデザインする」の著者、鞍田崇さんとネオ(新しい)民藝を掲げるアーティストの松井利夫さん、大学院生当時の担当教授であった服部滋樹さんをゲストにお呼びして、今の時代の民藝感をそれぞれの立場からお話いただきました。
このイベントでは、幅広い年齢層の方に来ていただくことができて、いわゆる「お土産品」って思われがちな民藝品のイメージを変えられたんじゃないかなと。
他にもトークイベントとしては福井県で開催されてる作り手たちとつながる体験型マーケット「RENEW」で木地工房ろくろ舎さんと一緒に「奥会津の木地師」の上映会&トークイベントを開催しました。
漆とロック代表の貝沼航さんと、ろくろ舎代表の酒井義夫さん、あと大学院生当時のもう1人担当教授であるデザイナーの丸井栄二さんに登壇いただきました。
過去の木地師(ろくろを用いて椀や盆等の木工品を加工・製造する職人)たちがどうやって器の木地を作り出していたのか紹介してもらったり、トークでは漆器をめぐった「今」の話をしてもらいました。
参加者の方に木地師のことや、「最後の木地師」と呼ばれている酒井さんの想いにも触れてもらって、より漆器の魅力とか、現代の消費のあり方についても考えてもらえるきっかけになったんじゃないかなと思っています。
初めのファッションを作っていた時の話に戻るんですけど、やっぱり私は「作る人」ではないので伝統産業や工芸の技術を使って、新しく 一から物を作ったりするのは自分のやるべき活動とはちょっと違うなと思ってて。
それよりはもうちょっと民藝品、工芸品との接点を、特に若い人たちに増やせるようなことがしたいと思ってイベントを行ってきました。
つづく
2018.09.01更新