京都学
レポート
10

京人形司 十四世面庄
面屋庄甫さんによる京都学

京都学レポート10

ゲスト 京人形司 十四世面庄 面屋庄甫さん

担当は文筆家・工芸ジャーナリストの米原有二先生と、
空間演出デザイン学科准教授・デザイナーの酒井洋輔先生です。

この授業では、毎回異なる職人さんがゲストとしてお越しくださり、
京都が育んだ手仕事とその粋、
京都のことや日本のことなどを教えていただきます。

京都の工芸には、日本の工芸と違って
ものづくりが他の文化と連動し、
繋がっているという特異点があります。

京都に住む70人に1人が伝統産業に携わりながら
生活しているこの京都という地で、
私たちはそんな京都の伝統について学んでいます。

そして、学生がそれぞれ授業を受けて考えた新しいアイデア(イノベーション)を
レポートとして提出してもらっています。

 

今日の職人さんは、京人形司 十四世面庄 面屋庄甫さんです。
作り方を変えずに「伝統的な人形」を守りながら、人形の本質を見つめて「今日的な人形」を模索されています。
実ははるか昔から私たちの暮らしに寄り添って、時には私たちに代わりとなってくれていた人形のことを初めてきちんと知りました。

京人形司 十四世面庄 面屋庄甫さん 京人形司 十四世面庄 面屋庄甫さん

 

“人形は魂の匣(はこ)”

人形というのは京都や日本だけでなく、世界中にあります。
その地域に根ざし、人間と一緒に歩んできた古いものです。
京都は千年の歴史を持つ都。だからこそいろんな文化の形が高いクオリティで残っている、と庄甫さんはおっしゃっていました。

面屋庄甫さんは代々「面庄(めんしょう)」の屋号を受け継ぎ、江戸中期から京都で続いてきた人形司です。
面庄さんの初代は元々武士で、その後能面司になられたそうですが現在では人形司として続けておられます。

京人形司 十四世面庄 面屋庄甫さん

人形は行事ごとに合わせて登場します。
特に昔からの行事を多く残している京都では、今でも人形が使われる場面が多くあります。

まず京都三大祭りと言われている葵祭や祇園祭では、祭りで作られる鉾の真ん中に人形が置かれます。
「稚児人形(ちごにんぎょう)」と呼ばれる子供の人形で、特に祭りの時は舞を踊らせるためにからくりの稚児人形が作られます。

また、6月30日に各地の神社で行われている「夏越しの祓い」では、大きな茅の輪を八の字にくぐり抜けて半年の間に自身についた邪悪なものを祓います。また12月30日にも「大祓」という名前でこのような祓いの儀式がありますが、

ここでは「撫で物(なでもの)」という人形が使われます。神社で名前と悪いところや願いを書き、水に流すための人形です。

「鏡餅」も人形の1つなのだそうです。お正月にお供えする鏡餅ですが、そもそもは年神さんが鏡餅にやってきて、その年神さんが寄り付いたありがたいお餅を大人も子供もみんなで分けるというものです。現代のお年玉というのはこのお餅から来ているのだそうです。

京人形司 十四世面庄 面屋庄甫さん

京人形司 十四世面庄 面屋庄甫さん

この他にもひな祭りや端午の節句など、日本にはたくさんの行事があります。それは日本に四季があることにも関係しているのだと面庄さんはおっしゃっていました。

年間で4度も季節を越えていくために、神様のパワーをお借りする。そのために神様が宿るものとして、人形は私たちの暮らしと共にあったのだと教えてくださいました。

また1番初めの人形は、生まれたての子供の枕元に置いておく「天児(あまがつ)」「這子(ほうこ)」と呼ばれる人形で、これらを枕元に置くことで前世からの怨念・汚れを代わりに受けてくれるとされていました。

そのように人々は人形というものが魂を宿すもの、魂の匣として大切にしてきたのだそうです。

京人形司 十四世面庄 面屋庄甫さん

 

“きゅんとくる現代の伝統の形”

人形には、江戸時代から伝わる3つの作り方があります。

「元原型製法」は粘土で原型を作る製法です。作る人形を粘土で立体的に作り、それを元にして外側の型を作って人形を成形する方法です。

「木型製法」は桐の木を粉にして、糊で固めた生地に胡粉(貝殻を焼いて作った白色の顔料)を塗り重ねます。そのあとに目や鼻、口を切り出して仕上げていく方法です。少しモケモケしているように見える人形などはこの方法で作られています。ですがこの製法は貼り重ねるという手間がかかることからも、今ではほとんどが石膏かプラスチックで作られているそうです。

「張貫(はりぬき)製法」は木型の外側に和紙を重ねて作ります。張子(頭に触ると動くトラの人形やだるまなど)はこの方法で作られているそうです。

大きな人形になってくると中をくりぬいて、さらに収縮しないために内側に和紙を貼ったりするそうです。
見えない中まで作られているのです。

「昔の人は自然のものを上手に使っていた。」と面庄さんは教えてくださいました。

頭の中のバネには鯨のヒゲを切って使ったり、指にはダメになった三味線の皮をもらってきて使ったりしていたそうです。そうすると、人形がよりしなやかな動きになるのだそうです。

面庄さんご自身もこのような作り方、素材を守っていくことを大切に考えておられます。

京人形司 十四世面庄 面屋庄甫さん

京人形司 十四世面庄 面屋庄甫さん

また面庄さんは野菜を用いた新しい人形の形を模索される作家としての活動もされています。

「伝統的な人形もきちっと作れないとダメだと思う。その中でハートがきゅんとくる心が必要。ないとあかん。野菜だろうがなんだろうが、生きるものは人形だと思う。その生き方を受け止めて、作品にしたい。人形は魂の匣だから。」

京人形司 十四世面庄 面屋庄甫さん

京人形司 十四世面庄 面屋庄甫さん

 

  • はるかの感想

お雛様や、五月人形など私たちの暮らしには人形が身近にいたけれど、実家の頃はなんとなく「昔から続いて来たものだから」という気持ちで、押し入れから人形を出してきて毎年飾っていました。

なんで人形を飾るのか。そのようなこともあまり深く考えたことがありませんでした。
そればかりか子供の頃は人形というと怖いイメージもありました。

ですがこのように改めて人形のこと、人形司の内側を知ると、そのような「なんとなくしてきた行事」を次から少し違った気持ちで迎えられるように思いました。

もしかしたら魂が宿るということや、人の形をしていることからも何か特別なものであることは子供ながらには感じていたけど、自分がそれを「よく知らないから怖い」と思っていただけなのかもしれません。
そこに宿るものの正体を知らなかったから怖かったのかもしれない、と思いました。

今なら、そこに宿る魂のおかげで私たちは季節を越えていけるのだと思うことができます。

 

・今回の授業を受けて、学生が考えたアイデアを少しだけご紹介京人形司 十四世面庄 面屋庄甫さん

・見守り京人形
面庄さんのお話で、「人形は森羅万象、命のあり方を現している。」
「病気の時、枕元に人形を置いて病気を人形に移す」というお話から、
人形は、昔から私たちを見守っている神様みたいな存在だったのだと思った。
そこで、一家の守り神として京人形を玄関のところに置いておく。
その京人形は、その日の気温や湿度などを教えてくれる。
ついでに目に防犯カメラもついている。
Idea:鈴木日奈惠


 

今回で2019年に開講された京都学のレポートは最後になりますが、私たちは和菓子という名前も知っているし、藍染も友禅染も、西陣織も名前は知っています。

舞妓さんも、抹茶、茶道も京都も知ってるけど、その内側を私たちの多くは知りません。

私自身も京都に住んでからこのような授業や、KYOTO T5の研究員として職人さんを訪問したりして、初めてその内側を知りました。

職人さんや、職人さんが守ってきた日本人の心を知ると、私はとても「日本人でよかった」と思います。

日本人であることを誇らしく思います。京都を知るということは、日本を知ることに繋がっています。

「伝統工芸」と聞くと古臭くてお洒落じゃない。
そのようなイメージがある中で、私はまだまだ片鱗ですが、その内側を知ってむしろ伝統工芸には新しさが潜んでいることを感じました。
知っていたつもりで何も知らなかった私には、とても新鮮なことがたくさんありました。

いいものを作るために何百年、何十年と日々試行錯誤を繰り返してこられた職人さんは、むしろとても新しいことをしています。変わらないものを、日々変わっていく世の中で守っていくために職人さんはいます。それってとっても本当の意味でお洒落だし、かっこいいし、価値がある。

本当に価値のあるものとは、いつも新しさを持っているのだと教えていただけた授業でした。

おわり

 

2019.09.01更新