京都文化
あ、うん通信

#01 “漢詩・篆刻”とは?

京都芸術大学 基礎美術コースでは、さまざまな分野の先生方から実践的な授業を受けます。

それは、授業というより “稽古” といった方がふさわしいかもしれません。そんな稽古さながらの授業の内容をお伝えするのが、この「京都文化あ、うん通信」です!

基礎美術3期生のふたりが息を合わせて学びを深めていくという意味を込めて「京都文化あ、うん(阿吽)通信」を始めました。

私たちと一緒に、先生方から日本文化を学びましょう!

*今回は、基礎美術コースの椿昇先生にもコメントをいただきました。

篆刻の美意識

基礎美術2回生初回の授業では、漢詩、篆刻(てんこく)、和綴じ本を学びます。
本来は3月末頃から授業が開始され、大学で学ぶことができる予定だったのですが、新型コロナウイルス感染防止のために少し遅れてのオンライン授業となりました。
先生方も生徒の私たちも慣れない授業形態だったので、初めのうちはうまく進まないこともありましたが、慣れてくるとオンライン授業も集中して学べる楽しさに気付きました。

椿先生:
聖人之制事也、轉禍而為福、因敗而為功
戦国策という中国の文献にこのようにあります。コロナも前向きにとらえる事は大切ですね。

講師は佐藤峰雄先生。
どんなときも私達の作品に対してよい部分を見つけて褒めてくださる優しい先生です。

さっそく家に届いていた石や道具を出してきて、篆刻を始めることになります。
そもそも篆刻とは、印材(木や石など)に印刀で漢字の元となっている篆書体を刻することをいいます。簡単に言えば、中国の昔の字をハンコにするということです。
地中に埋まったり風化されたりすることで寂びた篆刻には、自然に依った美しさがあるように思います。   

椿先生:
江戸時代に志賀島の農民が、水田の耕作中に偶然発見した国宝「金印」これが篆刻で一番有名かな?「漢委奴國王」印の最後の所有者は卑弥呼であったという説もあるね。

彫る字は佐藤先生が予め決めてくださっていました。
陶淵明(とうえんめい)という中国の魏晋南北朝時代の詩人が書いた『飲酒 二十種 其五』という詩の中から、1人2文字が割り振られて制作していきます。
陶淵明は、若い頃に下級役人として出仕しましたが、41歳で役職を辞して故郷の田園地帯で隠居生活を送りながら多くの優れた詩文を遺した詩人だそうです。

今回篆刻をする「飲酒二十首」は、まだ役人として都に住んでいた最後の時期に書かれたものとされています。人物像を知ると、詩から読み取れる世の喧騒から逃れて自然の中に安らぎを見出す陶淵明の姿が見えてきそうです。

椿先生:
陶淵明は高校の授業でも出て来るね、ただ記憶しているだけから、こうやって篆刻をしたり詩作をするとぐっとこの時代が身近になります。
基礎美術コースは実技には教養が、教養には実技がセットされて、知恵が身につくカリキュラムなのですよ。

谷口
僕は「悠然見南山」の一文にある『悠然』という言葉を刻することになりました。
落ち着いていて少しも慌てない様という意味です。
悠然は、これだけで独立した言葉なので今回以外の場面でも使えそうだと思いました。
とても気に入った言葉です。

椿先生:
1回生の書の授業でも字通を学んだと思うけど、漢字の成り立ちはとても神秘的でハマると楽しい。是非白川静さんの文庫本も読んでください。「漢字 生い立ちとその背景 (岩波新書)」 Kindle版あります!

下尾
私は「采菊東籬下」の一文の『采菊』を彫ります。力を強く加えると一瞬で深く彫れてしまうので、注意して進めていきました。「東側の垣根に咲いている菊を采る」という意味の文なので、
「菊」の文字が花咲いているように意識して制作していきます。

椿先生:
加減とか塩梅とか日本語には素晴らしいニュアンスを含む文字がある。もっと言葉の授業が必要ですね。

篆刻には「朱文(または陽文など)」と「白文(または陰文)」の2種類があるそうです。
朱文とは、字の周りを彫ることで、文字の部分が印肉によって現れる印章をいいます。
白文とは、字を彫ることで印字が白抜きで現れる印章をいいます。朱文の方が多く彫られているそうです。

椿先生:
陰刻の方が陽刻より古いね。
古代に粘土板に使われていた円筒形のものとかもある。陽刻は紙が普及すると同時に発展してきたと言われてる。

制作手順は大きく見て
①印面を磨く
②印稿を作る
③字入れ
④彫る
⑤捺印
の5つがあります。
今回は先生に③字入れまではしていただいて、④彫るから制作が始まります。私達はどちらも朱文でした。

彫り方にもいくつか種類があります。
「単鉤法(たんこうほう)」と「握刀法(あくとうほう)」などです。
握刀法とは、握りしめて持つような方法で大きいところを彫るのに向いています。
単鉤法とは、鉛筆を持つような方法で小さいところを彫るのに向いています。
先生のようなプロの方や慣れている方だと握刀法で彫るのが自然だそうですが、
まだ初心者の私たちが握刀法で彫ると怪我をする恐れがあるので、今回は単鉤法で進めていくよう先生に教わりました。

椿先生:
AO入試もいきなり茶杓を小刀で削るというチャレンジだったけど、上海の友人が3歳から子供に包丁をもたせると怪我をしないと言ってました。危ないからと言って過保護にすると返って大人になった時に大怪我するのですよね。

下尾
文字の部分を何カ所も誤って彫ってしまったので完成が心配だったのですが、朱肉をつけて押してみるとしっかり捺印できたので安心しました。逆に文字が削られていることで、捺印に味が出ることを学びました。

椿先生:
お〜アップが美しいね、天然石の持つ独特の品格のようなものを感じます。

椿先生:
いいね!篆刻はその人が出ると言われてます。将来大物になる??(^^)

谷口
慣れないことばかりで大変でしたが、実際に彫ってみると熱中できたので楽しめました。
ミスをしないよう、それこそ悠然と彫り進めていくよう心掛けました。
先生に斉白石の篆刻に似ていると言っていただけたのが、とても嬉しかったです。

椿先生:
シャチハタとどこが違いますか?みんなの作品早く観たいね!

出来上がった篆刻をそれぞれZoomの画面に映して先生にコメントをいただくことで、講評を終えました。同じ印材、同じ印刀で彫ったのにも関わらず、どれ一つとして似たようなものはありませんでした。作った人の個性がとても反映された印が次々と出来上がっていきました。

次に自分の名前から1字、または2字を選んで篆刻することもしました。
今度は自分で②の印稿を作るところから始めます。
先生に漢字の成り立ちから教えていただけたので、自分の名前についてより一層関心が持てました。是非皆さんも自分の名前にある漢字の成り立ちについて調べてみてください。

下尾
私は「藍子」の文字を彫りました。様々なデザイン案を考えましたが、最終的に先生に良いと言っていただいた印を採用しました。
「藍」の文字の成り立ちは、並んで生えた草としっかり目が開いた人が水の入ったたらいを覗き込む象形を意味しています。
「子」の文字は、胎児の大きな脳みそと両手を振り回す様子を表しています。
「采菊」と比べて、文字の部分まで彫ってしまった部分が多く、自分が予想していた捺印とは違うものになってしまいました。やはり一筋縄ではいかず、篆刻の難しさを痛感しましたが良い経験になりました。

椿先生:
下絵の線描も良いね〜

椿先生:
最大の画数いくつか知ってる? 台湾や中国の漢字文化圏の文字デザインのとても良いドキュメンタリーがあります。「HANJI」(漢字)是非観てください。

谷口
僕は名前の「雄基」を彫りました。
一辺1.5cmの四角形の中に彫るには文字の画数が多く、難しい部分も多かったのですが何とか完成することが出来ました。
実際にこの刻印は自分の作品にも使っていきたいと思います。
自分の名前への愛着がより一層深まりました。

椿先生:
ほんとに漢字は奥が深すぎるね〜。無人島に持っていく本はなににする? という質問あったけど、僕は「字通」かな(笑)
漢詩を詠じて空海の時代にひとっ飛び〜

今回はここまで!
次回の「あ、うん通信」では、和綴じ本と漢詩の制作をレポートします。

 

つづく

2020.12.1更新

Kyoto Art class Report “Aun”
#01 “What is Kanshi,Tenkoku?”

Text by:
Taniguchi Yuki
Shimoo Aiko


京都文化あ、うん通信 #01
「“漢詩・篆刻”とは?」

文:
谷口 雄基(基礎美術コース 2年)
下尾 藍子(基礎美術コース 2年)