家族が職人

#5 漆職人の家族 (前編)

漆の精製職人堤卓也さんと
奥さまの綾子さんにお話を伺いました 。

職人といえば、頑固で、無口でと、どこか固い印象を持たれることが多いですが、いつもそばにいる「家族」から見てみるとどうなのでしょう?

「家族が職人」では、職人さんとそのご家族の方に伝統工芸や手仕事の魅力についてお聞きしつつ、「職人は家に帰ったら何をしているの?」「職人の奥さんって大変なのかな?」など、工房や作業場からは見ることのできない職人を覗かせていただきます。

今回は創業明治42年漆精製をする堤淺吉漆店で4代目を務められる堤卓也さんとその奥さまの堤綾子さんにお話を伺いました。

 

家庭に微笑む漆

奥さんに質問です。旦那さんと一緒になられてお変わりになられたことはありますか?

綾子さん
私の実家は自分が大学生になった頃から帯地卸(おびじおろし)を始めた小さな問屋でした。
家を出入りされる織屋さんというのは皆職人さんで、その殆どの方が50代以降、時には100歳になられた方とも会わせてもらったりしたことがありました。「後継者がいない」という悩みも皆さん共通のもので、西陣織の業界にも後を継ぐ人が増えてほしいと思っていました。伝統産業に携わる業種の家業だったので、職人さんと呼ばれる人たちが京都にいっぱいおられるということは知っていたつもりでしたけど、夫に初めて会ったときに「漆屋やねん」と言っていて、素材として漆を作っている人やなんて想像もつかず、漆を塗ってはる職人さんやと思っていたんです。お茶道具とかに塗ってはるんかな、でもその割にはゴツゴツした手をしてはるし、何でなんやろうなと思っていてよくよく話を聞いてみると「漆を精製してる」と言わはって。すごく面白い、特殊なお仕事やなと思いました。結婚してから最初の頃は配達を一緒に回らせてもらってお仏壇関係の職人さんやお道具の職人さんにお会いできたりして貴重な経験でした。昔から工場で使われ続けている機械などを見て、京都にはまだまだ自分の知らない産業があるのやと気づきました。

ご家庭でも漆を塗られたりされることはありますか? 

職人 卓也さん
家のガレージで祖父が使っていたボロボロの机や、奥さんが使っているまな板などを小学1年生になった息子と漆を塗ったりしてますよ。塗るといってもペチャペチャ遊びながら、落書きみたいに、最後は綺麗に拭くのでムラも気にならないです。

綾子さん
息子達とよく行く喫茶店で使われているカトラリーが端材で作られていて、使い捨てで提供されているんです。出してもらっても使わなかったものを持ち帰ってきて、これに漆を塗ってみたらどうなるんかなと思って塗ってもらったら、強度がとても上がって(笑)。何度か使うと割れてしまう様なものが、漆を塗ってもらうと果物なんかの固いものに大胆にグサッと刺しても潰れなかったから、漆ってすごい!と思いましたね。丁寧に美しく塗られているお茶道具のお棗(なつめ)のイメージが漆塗りにあったけれど、身近な木製のものに塗っていってもらうと「え!」って思うぐらい雰囲気も強度が上がるし永く使い続けられるという魅力を見つけました。普段の生活でも子供や自分たちの食器に漆のうつわを使っているんですけど、漆器はちょっと水につけておいてお湯で流すだけで綺麗になるし、水切れもよくてさっと拭いてすぐ片づけられるから、朝のバタバタする時間でも片付けがそんなに苦痛でもないんですよね。結婚してもう10年くらい経つんですけど、夫の仕事や活動を見てるだけでどんどん面白くなってきますね。自転車に塗ってもらったりして、こんなんにも塗れるのかと思ったり。

職人 卓也さん
漆塗りの自転車、2台目のものは奥さんに合わせたサイズで作ったんです。フラダンスとビールが好きなので、ヘッドに家紋、シートチューブにはウクレレとビールを飲んでる鳥の蒔絵が入っています。

使っていく上で漆の見え方などは変わったりするのでしょうか?

職人 卓也さん
変わってきますね。まな板などは特に消耗品だから分かりやすいです。紫外線が当たると色が透けてくるので、漆が塗られた下にある素材の様子が見えてくる。家族が使うコップに漆を塗ったときも、焼きペンで家族へのメッセージを入れたことがあったんです。そのコップを使うたびに漆が透けていって、何年後かに出てきたらいいかなと思って。でも、ある展示会でそれを非売品として展示していたのですが、かなり気に入ってくれた人がいて売ってしまったんですけどね(笑) 

綾子さん
今頃どうなってるんやろうね(笑) 

職人 卓也さん
そういう楽しみ方は使ってみないと分からないものですね。 コロナ禍で家での時間が増えたとき、家族と過ごす漆時間というものはひとつの楽しみだなと思っています。もちろんカブレのリスクはあるけれど子供たちと漆や木に触るということや、森の中で遊ぶということだとか、そういうことは家族単位でやるからこそ価値があるのかなぁと思っています。家族ができたことで僕も仕事の在り方が変わってきたようにも思います。 

 

つづく

 

2021.6.1更新

Craftsman family
interview #5
URUSHI CRAFTSMAN
Takuya Tsutsumi
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「家族が職人」#5
漆職人
堤卓也さん
堤綾子さん

文:
谷口 雄基(基礎美術コース 3年)