家族が職人

#6 漆職人の家族 (後編)

漆の精製職人堤卓也さんと
奥さまの綾子さんにお話を伺いました 。

職人といえば、頑固で、無口でと、どこか固い印象を持たれることが多いですが、いつもそばにいる「家族」から見てみるとどうなのでしょう?

「家族が職人」では、職人さんとそのご家族の方に伝統工芸や手仕事の魅力についてお聞きしつつ、「職人は家に帰ったら何をしているの?」「職人の奥さんって大変なのかな?」など、工房や作業場からは見ることのできない職人を覗かせていただきます。

今回は創業明治42年の漆精製をする堤淺吉漆店で、4代目を務められる堤卓也さんとその奥さまの堤綾子さんににお話を伺いました。

 

「考える素材」と広がっていく

ご家族が出来たことで一番変わったことは何でしょうか?

職人 卓也さん
死にたくないと思うようになりました(笑)。
サーフィンが好きでよく海に行くのですが、無茶して死にたくないというか、家族のもとに帰りたいって感じ。もともとサーフィンから自然のどうにもならない力や素晴らしさを教えてもらっていたけど、家族ができて一緒に海で遊んでるうちに、きれいな地球を残したいって思いと漆を残したい思いがいつの間にかリンクするようになってました。

奥さんが考えられる手仕事の魅力について教えてください?

綾子さん
私の実家が帯問屋だったので、家に色んな帯がずらりと並ぶ環境でした。
どの帯も素晴らしく美しいんです。その中でも手織の帯は、少なくなってはいるけれど手仕事のものは手触りから締めたときまでの感覚が違う。手仕事の魅力は直に触ってもらわないと分からないものだと思うので、若い人に限らず色々な世代の人に身近なものでも何でもいいから手に触れて感じてもらいたいと思いますね。京都は身近に工芸が多く溢れていますから、触れることができる機会がたくさんあると思います。

少しずつ工房を開放してもらって、子供が直接見に行けたり職人さんのお話を聞いたりできる環境ができて、お互いにもっと近しい関係になれるのが京都で盛んになっていったらいいなって思います。

給食食器に漆器を取り入れられた「こども園 ゆりかご」のような取組みは、まさに子供の頃から漆に触れることができる良い経験になりそうですね。

職人 卓也さん
そうですね。子供の時に漆器を使っていたという経験は、いずれ忘れてしまったとしても漆を触っていたという感触が肌とか脳みそに残っているというのが大きいと信じています。

漆の塗膜って「しっとりさらさら」とか「赤ちゃんの肌みたい」とかよく言われるんですが、これって漆が水分を保持したまま固まる塗膜で、人の肌ととても親和性がいいところから来てるんですよ。漆の塗膜って弱いイメージがあるかもしれないけれど本当は硬くて、硬いものを赤ちゃんの肌みたいって感じたり、しっとりサラサラするって相反する感触を感じたり、これって人の体がほとんどが水分でできてて、自分に近いものを気持ちいいと感じる脳の勘違いからくるみたいです。

こんな漆を縄文時代から使ってきたからこそ、日本人らしさと言われてるような「モノを大切に長く使う」、「先祖に手を合わせる」といったような感覚がDNA的に残っている気がして、それってやっぱり触れる機会がないと無くなっちゃう。僕ら世代が作っていかないと子供たちは知らないまま、気づいたら漆とともにそんな感覚も無くなってしまうと思うんです。

僕らが伝えなかったら消えるんですよね、たぶんギリギリの世代。本当に気付かないうちにすーと消えてしまいそうで、工芸と呼ばれているような自然素材を使った人の手によるモノつくり全体に言えることのような気がします。

「植えて」「育てて」「採取して」「作って」「使う」「直して使い繋ぐ」
自然素材が持ってる、こんな循環する小さくても強い輪っかをもう一度繋ぎなおしていきたいなって思っています。

〈参考〉
給食食器に漆器を取り入れられた「こども園 ゆりかご」のようすhttps://www.urushinoippo.com/blog/2016/11/2/-

最近漆が持続可能(サスティナブル)な素材として見直されているように思うのですが、漆の素材が持つ役割についてどう考えられていますか?

職人 卓也さん
漆が見直されているのはとても嬉しいけど、漆が循環可能なエネルギーだからといって、みんなでいっぱい作ってそれを使い捨てしたなら、同じかなって。
モノを永く大切に使うこと、モノへの愛情を育むこと、未来のことを考えて行動すること。
そういった心を育むのが漆の素材としての役割かなとも思います。

一万年前の土壌から綺麗な状態で出てくるぐらい強い漆という物質を大量生産して、人が大事に扱わないのであれば何をやっているのか分からなくなってしまうじゃないですか。
プラスチックだって石油という自然のものから作られた素晴らしい素材。全て人間がどう捉えてどう動くかといった問題で、そこを考えなおすきっかけに漆がなれたらいいなと思う。
そしたらきれいな地球とともに漆も次世代に残っていける気がするんです。

今の世の中って、どうしても経済を大きく回そうすると大量生産になるじゃないですか。SDGsは素晴らしいと思うんですけど、それを大量生産するための道具にしちゃうというか。根本のモノを大切にするというところを育てたいなって思います。
バランスとりながら、どうやったらみんなが幸せに暮らせるのかなって結局そこだけ。

この子らが幸せになるにはどうしていけばいいか
素敵な世界を作るために僕らができることはなんなのか。僕らは漆の世界に長くいるから頭がカチンコチンなんですよね。世界を作っているのは10代20代の人やと思う。いっぱいアイデアもらって僕らもがんばりたいです。

綾子さん
若い人の感性ってすごいもんね。ハッとする。子供の感性がまだ残っているしかな。

職人 卓也さん
ようガキっぽいガキっぽいって言われるけど、もう頭カチンコチンやわ(笑)

綾子さん
でもこないだ気持ちよさそうにサーフボードに乗って海で遊んでたやん。まだ子供の心は失ってらっしゃらないとおもいますよ。大人にあの笑顔は出せないよ(笑)。そんなに笑う?って。

綾子さんから見た職人さん(卓也さん)の格好いいところを教えてほしいです?

綾子さん
ひょうひょうとしているようでぶれへんなっていうところは凄くありますね。一個こうしたいっていう気持ちを周りに伝えて巻き込んでいってワーって行く人やなって。周りの人にも支えられながら乗せていくじゃないけど、それが凄い上手な人だと思います。

職人 卓也さん
上手やないよ(笑)

綾子さん
自分ではそう思うかもしれんけど私から見ればそうやなって思いますね。面白いなぁって思う。サーフボードの木の板に漆を塗りたいって言ってはったのもずっと前から言ってはったことで。そんなん無理ちゃうかと思っていたし。これからまた面白いことが続くと良いなぁと思います。こういう人やから、こういう主人みたいな考え方に共感したら「やろう」って言ってもらって早いなって。パパパッと話が進んでいくからね。

やっぱり考えていることに共感してもらうことが大事やし、いっぱい色々な人に助けてもらいながら自分も楽しくやっていかれるのがええわって思います。結局職人さんも自分軸というのか自分が楽しいのが一番やと思うんですね。
それをちゃんと持ったまんま色々な可能性とか、将来のこととか考えてくれたらいいなとおもいますけど(笑)?

職人 卓也さん
怖いですね(笑)

 

おわり

 

2021.6.1更新

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堤卓也さん
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文:
谷口 雄基(基礎美術コース 3年)