職人
interview
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畳の職人
太田成樹さんにお話を伺いました。

太陽が輝く夏のある日、以前からSNSで気になっていた京都の西陣にある畳屋さんに取材のアポイントメントを取った。どんなお話が聞けるのだろうと胸を躍らせ、軋むお店のドアを開ける。すると、まさに仕事中の畳職人・太田畳店 太田成樹さんがそこにいた。「狭い場所ですみませんね。どうぞこちらに腰掛けてください」イグサの匂いが漂う仕事場で取材は開始されました。
畳の魅力って何だろう?どういったことを考えて作られているんだろう?私たちと一緒に畳の世界を覗いてみましょう!

 

畳の魅力とは

今日はお時間をいただきありがとうございます。
早速ですが、畳の仕事を始められたきっかけについてお伺いしたいです。

きっかけは、自分の生まれた家が畳屋だったからです。うちの家の方針として、一度外に出て畳とは違う仕事を経験するというのがあるんですよ。だから高校を卒業して、社会勉強としてサラリーマンを4年間経験して、4年経ったから畳の仕事に戻ってきたいう形なんです。その時にやってた職業は電材屋と言って、電気工事の材料であるパイプや電線といったものを売る仕事をしていました。でも、僕にとっての道はこっちでした。

畳の仕事を始められてから、何年ぐらいになるのでしょうか?

22歳からなので、今年で18年になります。

18年の中で大変だったことや今まさに苦労されていることなどあったりされますか?

そうですね、一番苦労したのは仕事を始めた年でした。その年が和室が減ってきているピークの年やったんです。地獄からスタートしてるんです。だから今はまだありがたいことに仕事をいただいている感じですね。昔は畳のある家が普通やったんですが、それが減ってきたことで畳のない家がおしゃれだというふうになったんです。すると今度は畳のない家が普通になってきて。ですが、今はまた畳のある部屋が増えてきました。リビングの中に畳コーナーを作るような形で増えてきています。

ただ、そこで使用される畳は皆さんがイメージされるような畳の形ではなくて、半畳のへりなし畳というものです。半帖にした畳を互い違いに敷き込むことによって、畳の目が光の当たり方で市松模様に見る事が出来るものです。そして、これは和紙で作られているのでさまざまな色が付けられています。ピンクや緑、黄色の焼けたような色に見せるようなものまでさまざまなものがあります。畳の形が変わってきていますね。

和紙の畳はどのように作られてるんですか?

和紙をこよりにして樹脂でコーティングしてるんですよ。この上で水をこぼしても弾くようになってるんです。擦れる場合もイグサより3倍強いと言われてます。畳はイグサだけで作られている訳ではないんですよね。最近はビニールのやつもあるんです。ただ、ビニールのものは転けた時に火傷してしまうことが多いので、うちはあまり使わないですね。

実際に作業されてる中で、気を付けておられるところはありますか?

やっぱり寸法ですね。僕らの場合はこれくらいのものを作りますって言うたときに、1 mm の誤差があったら駄目になるんです。作った畳を和室の中に全て敷き合わせていかなあかんので、一つがずれると全てがずれてしまうからです。だからこんなに綺麗に縫えたとか、こんなに綺麗に切れたとか、そういったことよりも、まずそこにはまらへんかったら意味がないので、そこを一番気をつけてますね。
人間の目というのは大体3mm あったらもう完全に視認できるので、部屋の中で畳が少しずれてるだけでもカッコ悪いと思ってしまう。ヘリとかによっても膨らみ方が変わってくるものもあったりするので、そういったことも全て計算した上で仕事をしています。

今でも失敗されることはありますか?

そうですね、失敗することはあります。そのときは1から作り直しです。リカバリーできる場合は直したりもしますけど、多く切りすぎた場合なんかは僕は神様じゃないし、畳を生やしたりできひんから、もう一から作るしかないんです。この仕事を始めた頃は、1ヶ月で12枚の畳を手で縫っていました。朝から晩まで、それこそ始めてすぐなのでうまく縫えないですよね。なので、こっち側を縫っただけで1日が終わっちゃったりとかもしました。けど、それだけ余裕や仕事がないから本当地獄でしたね。

そういった苦労や努力を重ねられている中で、太田さんが考えられる「畳の魅力」とは一体なんでしょうか?

やっぱり触ったときの感触ですよね。手を置いたときにフラットじゃない、この自然とざらざらした感触。畳には隙間があるので、そこに空気が通りますよね。それでやっぱり感触が違うんですよ。畳の上で勉強した場合と、普通のフローリングで勉強した場合のテストの点数を比べた研究があるんですけど、畳の上で勉強をした方が、集中力が上がってテストの点数が向上したという結果も出ています 。足の裏から熱が放射されたことと、畳の香りによるリラックス効果だと言われているみたいです。

 

手に馴染むものを求めて

ホームページを拝見したのですが、イグサの産地の現地調査もされてるんですか?

はい、していますよ。
30年前まではイグサを育てている農家の数が5000件はあったのですが、今は300件を切るほど減ってきている状態なんです。もし、JA(農業共同組合)がイグサの畳の取り扱いをやめることになった場合、 直接農家の方からイグサを買うことになるじゃないですか。
そうしたら、関係性を築けていない農家さんに「お前んところのイグサ売ってくれよ」といきなり言っても売っていただけない可能性があると思います。だから、イグサの刈り取りなどの仕事をお手伝いさせていただいて、少しずつ顔を覚えていただくことで、またどうぞよろしくお願いしますという形で媚びを売りに行っていますね(笑)
イグサだけではない他の材料も数が減ってきているんですよ。例えば愛用している糸を作っていたところは辞めてしまって、もう手に入らなくなってしまいました。代用品を探したりもしているんですけど、やっぱり今まで使っていたものの方が縫いやすいなと感じます。

道具の問題はどうでしょうか?

道具の問題としては、機械の値段が高くなってきていると感じています。
大きな工場で作る人が増えてきているので、それに伴い素人さんでもボタンをポチッと押したら簡単に作れるような機械が増えてきました。そのため、私たちが使うような機械の値段も全体的に高くなってきているんです。僕なんかは切れて縫えるような機能さえあればいいんですけど、後座を引っ張って貼ったりといったような他の機能が色々と付いてきてしまって、昔だったら軽トラぐらいだった値段が、今ではベンツが買えてしまう値段にまで上がっちゃったりとかもしています。

機械で作られる部分も多くあるのでしょうか?

そうですね、うちもほとんどは機械が多いです。中でも2台、僕より年上の機械があります。使えるものが壊れてしまったときのために、他のところからいらない機械を貰ってきて、部品を取り換えるために古い機械をいっぱい置いているんです。後ろのすだれで隠してありますけど、そこにも機械はありますね。

機械と太田さんの手仕事が合わさって畳は作られているんですね。

そうですね。切る作業においても機械でできるところもあるのですが、機械はまっすぐしか切ることができないんですよ。平均的な力を加えることに関しては機械の方が優れていますが、細い寸法を合わせたりといった繊細な仕事はやっぱり手の方が確実ですね。

 

つづく

 

2021.10.7更新

Traditional Craftsman
interview 38

Tatami CRAFTSMAN


Text:
Taniguchi Yuki

Photo:
Nakata Kenta


「職人interview」#38
太田畳店 太田成樹

文:
谷口雄基(基礎美術コース 3年)

撮影:
中田挙太