職人interview
#07


錺金具|01|神様、仏様が24時間、常に見てはる

伊勢神宮の遷宮も担当する「森本錺金具製作所」4代目 森本安之助さんにお話を伺いました。
お雛様や襖の取っ手、寺社仏閣やお城など幅広く金属を手がける錺金具師。
先代から受け継いだ、2000種類以上ある鏨(タガネ)の中から文様に合うものを探し、4つの打つ・1つの彫る工程で繊細な文様を作り上げます。
工房にはティーン カーンと金槌の打つ音が鳴り響いています。

神様、仏様が24時間、常に見てはる

──錺金具(かざりかなぐ)の素材はなんですか。

銅です。銅は昔、日本に産地があり調達しやすかったんです。銅は装飾的な加工に向いているけど、柔らかくて強度がないから、農耕具や漁具など生活用品には鉄が多く使われていました。

──神社仏閣ごとに錺金具の模様が違いますが、決まりや意味はありますか。

神社仏閣やお城にはそれぞれの紋があります。
徳川の三つ葉葵、豊臣家の桐紋、桔梗 は加藤清正の紋。菊と桐は日本古来の文様です。それ以外の文様的なものは唐草模様や唐花など、仏の世界に咲くという架空のものを仏教系は使う。神社関係は唐草や、波などを図案化したものを使っています。釘や大工さんの差した栓などを隠すためにも“釘隠”という錺金具が使われています。

──技を習得するのにどれほど年数がかかりますか。

個人差はあるけど、一通りの仕事の流れを理解するのにだいたい10年かかります。


20年に1回、遷宮を通じて技術が伝承される

──全部の工程を1人の方がやられるんですね。

そうです。
うちの重要な仕事のうちに、伊勢神宮の遷宮(せんぐう/今建ってると ころの隣に同じものを建てて、神様をお遷しする)が20年毎にあります。神様に常若の精神(常に新しい精神)で家に住んでもらおうというものです。
遷宮を通じて、20年に1回その技術が伝承される。20歳で見て、40歳でちょっと手伝って、60歳で自分が、という流れで仕事を覚えますから、10年で一通り分かるといっても20年経たないと遷宮の仕事を経験できない。
特に伊勢の仕事は非常に細かく、高度な仕事なので10年ではまだまだ。どれだけ年数を積んでも普段の仕事でこれほど高度なものは少ないので、伊勢の仕事に関わる時は手を慣らしてから本番に取り掛かります。
20年毎にお遷しするのに、錺金具の製作は約10年前から準備します。私は2回、伊勢神宮の遷宮に携わらせて頂きました。

──遷宮に関わる職人さん同士繋がりは、ありますか。

遷宮に関わる木工や、屋根を葺く人、金具、装束など関係者の繋がりは広く長いです。京都の職人が圧倒的に多い。やっぱり京都には、技や仕事が残っています。三千家十職あるでしょ、京都には。


毎日の信仰が形になる
神様、仏様は24時間、365日、常に見てはるわけやから、絶対にごまかしはできない

──“森本安之助”襲名するのは、なぜですか。

明治10年創業で、“森本安之助”という名前がある意味ブランド名のように昔から知られているから、技と共に名前を引き継ぐ、伝承するということを思って、2代目からこの名を戸籍から変えて継いでいます。

──一流になるために心がけていることはありますか。

大事なのは気持ちだと思います。
ものを作るんじゃなくて、結局この仕事は信仰なんです。神様、仏様を美しくお祀りする、崇める気持ちを製品として形にするんやけど、毎日の仕事に向かってること自体が信仰なんです。
毎日の信仰が形になるわけです。神様、仏様は24時間、365日、常に見てはるわけやから、絶対にごまかしはできない。普段の生活でも常に意識している、気持ちが大事やと思います。


職人interview
#07
森本錺金具製作所
森本安之助

文:
溝部千花(空間デザインコース)


森本錺金具製作所HP:
http://morimotokazari.co.jp/ja/

職人interview
#07


錺金具|01|神様、仏様が24時間、常に見てはる

伊勢神宮の遷宮も担当する「森本錺金具製作所」4代目 森本安之助さんにお話を伺いました。
お雛様や襖の取っ手、寺社仏閣やお城など幅広く金属を手がける錺金具師。
先代から受け継いだ、2000種類以上ある鏨(タガネ)の中から文様に合うものを探し、4つの打つ・1つの彫る工程で繊細な文様を作り上げます。
工房にはティーン カーンと金槌の打つ音が鳴り響いています。