「ものづくりがしたい」
──この仕事に就いたきっかけはありますか。
自分の家業では無いんですよ。もともと料理人をずっとやっていました。ただ、料理は好きで始めたので、仕事にするのが嫌になっちゃったんです。好きな食材で好きなものを好きな人に作る、これでいいなって思っちゃったんです。それで料理をやめました。その時にたまたま付き合ってたのが今の奥さんで。サラリーマンになるって言うイメージが自分にはわかへんくて、「ものづくりがしたい」っていう思いはあったんです。ただ何がしたい、っていうような明確なものはなくて。家業がこういう仕事って聞いていたので、見に来たのがきっかけですね。
──「職人」になる不安はありましたか?
そういう伝統のある仕事っていうの見たことがなかったので、興味があったんですよね。そして、鋳造を見に行って衝撃を受けたんです。あと、おりんの音が自分の家の仏壇にあった音と全然違うことも衝撃的で。「こんなん作れるようになったら凄いよな」って思いました。バイトとして何週間経ってから、正社員になって2年くらい働いた後に結婚したので、外から職人の世界に入った後継さんとは、入りかたが違うかもしれないですね。
──全く違う業種をされていたんですね。
僕が最後にやっていた分野の料理は「新しいジャンルの料理」なイメージでした。日本料理みたいに伝統を守る料理っていうよりかは、新しいものをどんどん生み出すようなものに近かったですね。そこがこっちの世界は、「今までの仕事を着実に守っていく仕事」。ここは全然違うなって初めのうちは思っていたんですけど、今は、仏具や仏壇もどんどん新しいデザインやスタイルが作られきて「新しいものを作らなあかんな」って考えるようになりましたね。そう考えると、あまり変わらないかもしれないです。ただ、そこに伝統の作り方であったり、素材であったり、いかに「変えずに守りつつ、維持できるか」って考えています。
ここはちょっと違うかもしれないですね。
調整する技術
──どのような作業工程なのでしょうか。
おりんの作業工程は大きく分けると4つあります。型作り、鋳造、加工、最後に仕上げ。基本的には分業制で、持ち場持ち場を職人さんがやっています。鋳造と仕上げの作業は全員でやらないとできないんです。月に3回、鋳造をやって、月に2、3回仕上げをする仕事配分ですね。8割位は型作りと切削加工をしています。鋳造日は、朝からお昼過ぎまで鋳造工程で、そのあとは鋳造した鋳物の後処理をしています。
──型作りも手作業で行われているんですね。
そうです。中子作りっていう作業から始まります。中子っていうのは、おりんの内側の面になる型です。これはおりんひとつ作るたびに、1個壊れていくんです。何回も使えないので、これはひたすら作って貯めておきます。おりんの大きさごとに中子の大きさ、深さも変わってきます。暇があると、土と粘土と籾殻(お米の皮)をこねて型取りしています。天日干しして、乾いたら1回焼いて完成。
中子ができると次は「回し」の作業があります。中子と主型(外側の型)がきっちり合わさるように調整をします。きっちり合わさることで中の隙間が均一になるんです。この隙間がおりんの形です。反対側にある穴から金属を流し込む仕組みですね。
手作業なので時間はかかるんですけれど、この作業できっちりとした正確なものが作れるんです。
コーティングをして掃除をした後に、「型合わせ」をします。型同士を合わせる作業。周りを土で外れないように固めていきます。少し歪んでいるものもあるので、この時点で職人さんが型を削って、微調整して合わせていきます。ここがきれいに合わせていないと、隙間に金属が流れ込んでしまって、おりん自体の形が変になってしまうので、下まできれいに合わせるように調整する必要があるんです。漏れてこないように止めて、その後に土で周りを固めていきます。しっかり止めておかないと、鋳造したときに型にけっこう圧力がかかるので、ゆるく止めてしまうと外れてしまったり、浮いて漏れてきたするんです。結構しっかりと土を塗りこむことが大切ですね。
「捨てる」ものがない
──土の水分量とかによっても左右されるんでしょうか。
これはもう職人さんの大体の加減ですね。型作りって、やっぱり制作過程の中で重要な部分なんです。手が変わると、人によって癖が出ちゃったりとかもするので。一言に土と言っても、私たちが使っている土はお米の籾殻が入っているんです。秋になると農家さんのところに行って、籾殻をもらって貯めておくんです。籾殻が入っていないとなかなかいいものができないんですよ。これは昔からのやり方ですね。
──土に関しても、籾殻や水、すごくナチュラルなもので作られているんですね。
だからこそ、私たちはあまり「捨てる」ものがないんですよ。今の工房も建ててから50年ぐらいになると思うんですけど、よく考えられていて。天井から雨水が溜まるようになってたりとか。土をこねる時って水が必要なんですけど、水道で水を足す事はほぼないですね。おじいさんが作った工房なんです。よく考えられてるなあって。型を固めた土たちは鋳造の後、型からおりんを取り出すために砕くので1回全部まとめて、ローラーでつぶして、ふるいにかけます。ほんまに硬くて潰せないものは産業廃棄物として捨てるんですけど、後のやつはもう一回リサイクルしてコーティングの下地材に使ったり、型の周りを固める土として使ったり、ずっと繰り返し使えます。繰り返し使う方が良いものができやすいんです。
これが終わると鋳造作業に進みます。社長以外に僕と、あと3人職人さんがいて、1人の職人さんはもう80歳以上の方なんです。次の人に受け継がせていくために、監督をしてもらっています。簡単にいうと、型を250個位並べて巻で火をつけて焼く作業。このやり方は私たちの特徴の1つですね。形を焼いてから鋳造する、焼き型って言われる鋳造法の1つです。私たちみたいなおりんで焼き型をやっている工房は、日本で数件しかないと思います。とくに薪を焚いてやっているのはうちぐらいですかね。大体2〜3時間位かけて焼いていきます。ゆっくり焼くって言うよりは、どんどん焼いていくって言うイメージで。薪も、広葉樹ではなくて、松や杉みたいな針葉樹を使っています。針葉樹はばーっと燃えて、火力がすぐ上がるんです。
職人の勘と経験
──温度はどのぐらいになるんですか。
僕らもあんまり測ったことないんですよ。職人の勘とか経験で判断していますね。色や形を見ながら、「もうちょっと火を出したほうがいいな」って、そういった感じでやっていくので。500度よりは上なので、700度から800度くらいですかね。焼けてなくてもだめだし、焼きすぎると形が割れちゃうので。そのちょうどいい具合を見ながら、考えながら、ですね。手順を決めても、その日の温度とか湿度とかによって、どうしても加減が変わっちゃうんですよ。薪は木の湿り具合とか、水分量によっても変わってくるので、あんまりマニュアルみたいなものを作っても意味がなくて…。こればっかりは、経験がものをいいます。だから教えてもらう部分と数をこなして経験を積んでいくことで、「伝承されていく」っていう感じですね。
──うまく焼けるようになるまでどれくらいかかりますか。
5年とか、結構長い間かかります。人にもよりますね。体調が良いことが大前提です。温度の感じ方とか、全部狂ってしまうので。万全な状態で挑まないと、なかなか良い状態には持っていけないです。型においても、積み方によって空気の流れも変わってくるので、やっぱりその時その時によって、形も変わってくるんです。それをリカバリーできるかどうか、っていうのが職人の経験になりますよね。一応、火をつけて器を入れたら燃えることは燃えるので。ちゃんときれいに焼けるところもあれば、あんまりうまく焼けてないところもあるって言うのが最初。そこからいかに全体をきれいに焼くか、っていうのが職人さんの腕になってくるんですね。
職人interview
#49
南條工房
南條和哉
文:
川口水萌(ビジュアルコミュニケーションデザインコース)
撮影:
中田挙太
南條工房HP:
https://linne-orin.com/
その音を作り出すために、様々な工夫と研究がされていました。
今回お話を伺った南條工房さんは、まさに「おりんを作るために構成された工房」。
おじいさまから代々受け継がれてきた技術が、ギュッと詰まっています。
「良い音が作れたらそれが1番なんです。」 そうおっしゃる南條和哉さんに、おりんの魅力についてお話を伺いました。