職人interview
#63


京弓|今やってることが一番大事

日本で唯一の京弓を製造する柴田勘十郎弓店21代目 柴田勘十郎さんにお話を伺いました。
約490年もの長い歴史を紡いできた「御弓師 柴田勘十郎」の弓は、日本だけでなく世界中で使用されています。
古くから受け継がれてきた高度な技術と、伝統という言葉におごらない姿勢。時代を超えて、柴田勘十郎さんの弓が世界で愛され続けている理由が少しずつ見えてきました。

今やってることが一番大事

──まずはじめに、創業についてお話いただけますでしょうか。

1534年。そう天文3年。その年は織田信長が生まれた年。

でも分からへんよな。実際見てないのでね。初代から7代目まではちょっとあやふやなんやけども、8代目から今までははっきり過去帳が残っているんです。
過去帳っていうのは、お仏壇の誰々がいつ死んだか書いてあるやつ。それは8代目だから元禄ぐらいからやな。もうボロボロになっているけれども、かなり古いことは確か。

──柴田勘十郎さんは21代目になるんですね。すごく歴史が長いですね。

長いのは長いね。全然想像もできないじゃない。
20代続いている確証があるんですかって言われたらそんなん分からへん。そんな全てが明らかになってるわけないけれども、古いのは古いと思いますよ。でも、古いから何なん。せやろ?
今やっていることが一番大事やんか。

──竹についてのこだわりなどお聞きしたいのですが、どこの竹が使われているんですか。

あんまり産地にこだわると竹が無いので、こだわってはいない。
ホンマは京都の竹がいいけどね。例えば君たち京都出身?

──私は京都の長岡京市出身です。

長岡京市の竹林は食べれる竹が多くて、我々が使うのは真竹といってもっと細いもので、タケノコを食べる竹ではない。

──種類が違うんですね。

全く種類が違う。

──いろんな所を回っていい竹を選定するんですか。

まぁいい竹があれば。
京都って寒いよな、暑いよな。そういう厳しい所で育っている竹が一番本当はいいんだけどね。大きく育たないんだけれども、どうも気候のせいで繊維密度が高い。繊維密度が高いということは、硬くて粘りがある。
そういう竹で作るのがいいんだけど、この京都の竹でこだわっているとなかなか竹が生えにくいので、値段も高くなってしまう。

──竹を選ぶ時のポイントはありますか。

この竹でないとダメっていうことはある。
節の数が決まってんねんか。
弓のところにぽつぽつあるの分かる?大体同じ数でしょ。
竹は下から上に向かって、節と節の間が少しずつ広がっていくんです。同じ間隔じゃないです。だからある程度の場所1カ所しか使わへん。大体10mぐらいの竹で2m50cmから3mに切ってる。

──弓1本の長さはある程度決まっているんですね。決まった長さの中で節が合うものを探すんですか。

弓1本の長さは約2m20cmなんだけれども、その中で使うのは竹の節の数が6つ、外側が7つと決まってる。

──竹を加工しやすい時期とか季節はありますか。

それはないね。

──採ってきた竹を3年くらい乾かすと伺ったのですが、なぜ3年なのですか。

3年経たないと、竹は弓を作る材料として使える竹にはなれない。
まずは1年かけてゆっくり乾かす。乾かしてもまだ青いままなの。青いままのものを紫外線の多いときに、屋根の上にあげる。そしたら紫外線で青さが抜けるの。
人間は日焼けすると色が濃くなるけれども、竹は色が白くなる。

──紫外線の多いときだったら今の5月下旬くらいですか。

今の時期から夏にかけてぐらいかな。
1年かけて竹を白くして、その翌年に火を入れて、最後の1年で油抜きって言って油を抜くんですよ。そういう作業が1年ずつで大体3年かかる。

──弓がどのようにできているのか教えていただいてもいいですか。

まず、弓は竹と竹の間に一枚のハゼノキでできた板が入った構造でできている。ハゼの実、つまりロウソクの実が採れる木やな。
弓ではその木の幹の部分を使用している。

木の両側を竹で挟むのだけど、間に接着剤を入れててな。それを、麻の縄で上から下まで巻いていき、さらに上に巻き戻ってくると、麻の縄の交差ができる。その交差したところの間に竹の楔を入れると、竹と木が圧着される仕組みになっているんや。

圧着しながら曲げている工程

──竹を曲げるためだけにこの工程があると思っていました。

違う違う。この作業で面同士が圧着するんや。
だから隙間が空かずに、ぴったりくっついているやろ。

──この作業はそういった意味があるのですね。その時巻く縄は、麻でないと駄目なのですか。

他の縄は伸びてしまうねん。
合成繊維の縄とか、綿の縄はすぐ伸びてしまうけれど、麻は繊維が硬いから伸びないし、緩まない。うちでは東南アジア産のジュート麻かマニラ麻を使っているね。

──間に打ち込む楔は、柴田さんご自身で作られているのでしょうか。

そうや。弓に使う竹の余りが絶対出てくるし、捨てる端材がいっぱいある。その端材をこの楔に使っているね。

──この楔は消耗品なのですか。

消耗品やな。でも1回2回は大丈夫。
1回で駄目なものもあるけど、結構使い回しできるものもある。その竹による、ということやな。竹の楔は、圧着する作業に100本から110本くらいは使うかな。

──そんなにたくさん打ち付けているのですね。この次はどのような作業になるのですか。

次は、麻の縄を解いて弦を張る作業や。
この時、弓を形になっている曲線と反対側に反り返すねん。ほとんどの人は、反対側に返すとは知らないと思う。弓って先端の木の素材と本体が繋がっていないから、形に沿って曲げると折れるのよ。これだけ曲がった竹を色々調整しながら、一気に反対側に曲げて弦を張っていく。
その時に使う道具が張り台と呼ばれるものや。

──この張り台っていつからあるものなのですか。

もうわからへんな……。
これが壊れてもまだ替えが2つあるねんけどな。

──弦を張る時、とても力がいりそうです。

その弓の弓力によるけどな。
その弓に応じて硬さや強さは変わってくる。


使う人の手を見て

──弓にはいろんな大きさや太さがあるのですね。

そうやな。
使う人に応じて、使う手を見てあげて、全部オーダーで決める。オーダーで作る時は手幅とかも合わせてあげるんや。

──弓はオーダー品が多いのですか。

オーダーだけではないよ。
弓を作るだけじゃなくて、修理の仕事もある。
弓は、使っていると竹が割れてしまうことがある。そういうのは、一度全て取って削り直し、新しい竹を付けて、また同じように麻の縄で巻いて楔を打っていく。

──つまり、リユースをしているということなのでしょうか。

リメイクとも言うね。
例えば、先々代が作った弓をYahoo!のオークションで買う人がいる。けれど、その頃の弓は本当に強くて、今の人には使いこなせないものが多い。それを、うちはその人に合った弓力にするねん。弓の力を落としていくのや。だから私はリメイクという。
弓って、何回も長く使えるように作られているねんな。材料がもったいないとか、いつまでもその弓を生かすとかいう意味もあるけれども、そんな弓を扱うのなら、何よりも自分たちが弓を直せる技量を持っておかないといけない。
それができる技術を自分達で保持しておかないといけないな。

──柴田さんが行われているワークショップはかなり本格的ですよね。

本格的ですよ。初日は弓の形も何も無いですから。

竹から作る。材料しか用意せん。
じゃないとワークショップにならへんもん。他のところがやっているのとか見たけれども、できかけの弓をサンドペーパーで仕上げてとか部分的に行っているところが多いですよ。だから、そういう風なワークショップをイメージしている方は「こんなことまでやるんですか」と言われる方が多い。
でも、やってもらわないとワークショップの意味がないから。

でも全部はできない。
弓打ちは私も毎回どうしようと悩むくらいやから絶対できない。例えば楔を濡らしながら持たせてもらうとか、べったり横にいて私の補助をしてもらいながらやる。でもそれまでの竹を削ったりとか段取り仕事は、こうしてくださいと我々が指導しながら。

僕らは1日に竹20枚ぐらい削るんだけども、ワークショップの人は竹1枚削るのに1日かかるかもしれない。それでもいいねん。それを経験してもらいたいんだから。ワークショップはそういう意味で全部やってもらう。

──そういう経験をしてもらいたいという思いがあるんですね。どういう方がワークショップに来られるのですか。

弓道のことが好きで、弓のことをもっと知りたいという人が多いよね。ワークショップも参加費が20万近いので。
そして1週間行う。
ところが、うちで販売する大体12万ぐらいの弓が一張(ひとはり)手に入る。

──自分の弓を自分で作れるんですね。

もちろん。でないと意味ないやん。
ワークショップの初日に家の玄関をまたいでもらったら、最終日は玄関をまたぐまで一銭もお金はいらない。食事も飲み物も泊まるところも全部こちらで用意してます。
だから皆さん安いと言われるね。

──そう聞いたらとても安く感じますね。

夏の暑い時だから十分飲み物も用意しているし。逆にこっちから熱中症やら脱水症とかならんように飲んでくださいと言いますしね。おやつも出るよ。スイカも出るし、アイスも出る(笑)

──夏の時期だけやっているんですか。

夏の時期だけ。
今年で17回目くらいになるねんけども、不定期にするとややこしいんで8月10日から16日までって決めてる。でもわりと参加していただけるんで。ブログやインスタに上げると1週間から10日くらいで予約が埋まってしまう。だから先着にしてるの。

──普段のお仕事の中で、何をしている時が一番楽しいですか。

竹を思い通りに刃物で切れた時かな。
こんな感じで使っていってると削れてだんだん刃が小さくなる。


手から手へ

──最後に、柴田さんが思う手仕事の魅力はなんですか。

お金が稼げること。
僕は綺麗事言うの嫌なんや、お金が稼げるからやってる。現実は厳しいよ、家族を食べさせていかなあかんから。
その次にいいものを作ろうと思うね。いいものを作らないとお金も稼げへんし。

──柴田さんも実際に弓を引かれるのですか。

もちろん。弓を実際に引かないとどんな弓を作っているかわからないからね。
我々の作った弓が、お客さんの手元に行って物理的な仕事をする。弓は引っ張る力で矢を飛ばすから材料にすごいストレスがかかるのよ。調子も悪くなるし、壊れる。
だから我々も弓を引くし、お客さんと繋がって「今弓どうですか?」とかやりとりしてる。

【取材を終えて……】
弓に向き合っている時の柴田さんの目はとても真剣で、家族を支えているお父さんの目をしていました。顔も名前も知らない誰かが作った物を購入する事が当たり前の世の中になりましたが、最後までお客さんと弓に寄り添う柴田さんを見て、これが本来の物を売るということなのかなと感じました。


職人interview
#63
柴田勘十郎弓店
柴田勘十郎

文:
滝井智恵(クロステックデザインコース)
山田恵美(基礎美術コース)
桝田菜月(ファッションデザインコース)

撮影:
中田挙太

柴田勘十郎弓店 HP:
http://shibakan.site

職人interview
#63


京弓|今やってることが一番大事

日本で唯一の京弓を製造する柴田勘十郎弓店21代目 柴田勘十郎さんにお話を伺いました。
約490年もの長い歴史を紡いできた「御弓師 柴田勘十郎」の弓は、日本だけでなく世界中で使用されています。
古くから受け継がれてきた高度な技術と、伝統という言葉におごらない姿勢。時代を超えて、柴田勘十郎さんの弓が世界で愛され続けている理由が少しずつ見えてきました。