職人interview
#68


庭大工|自然を目利きすること

お庭は毎日みるものだからこそ、あまり派手ではない、落ち着きのある空間を。
そんな想いを胸に、様々な庭園を手掛けていらっしゃる「京の庭大工 植司」さん。
幅広い年齢の方々に日本庭園の魅力を感じてもらうために、寺社仏閣や町家の中に伝統工芸などを展示するイベント内で室内庭園を手掛けたこともある2代目庭師 皆川拓哉さんにお話しを伺いました。

自然を目利きすること

──創業は何年目でいらっしゃいますか?

創業38年、私で2代目になります。

──継がれたきっかけ、お仕事を始められたきっかけを教えていただけますか?

22歳の頃まではプロのサッカー選手を目指していたんですけど、うまくいかず、親父がこの仕事をやっていたことをきっかけに継ごうと思いました。
元々、物をつくることが好きだったので、始めてから徐々に興味も出てきました。
京都って、有名なお庭が沢山あるじゃないですか。だから、庭をやり始めたときも、京都で1番になったら、全国で1番かなとか、海外でも一番じゃないかなと思ってやってたっていうのはありますね。サッカーをやっていたときも一番になりたいという思いでやってました。

──技術はお父様から教わったのですか?

そうですね。それこそ、見よう見まねで。
教えてもらったっていうよりも技術を盗むっていう感じでしたね。

──道具の中で一番大切にしているものであったり、お父様から受け継がれているものなどはありますか?

一番大切なのはハサミですかね。ハサミに関していえば、父からもらったものもあるんですけど使っていないです。めちゃくちゃ高くて良い道具なのですが、少し使いにくいんですよね。良いハサミって使いにくいものが多いんですよ。使い方にも技術がいるので使うのが難しいんです。

──制作されるときの道具はどちらで仕入れていらっしゃいますか?

昔からある道具屋さんで、中西園材というところや、東山三条辺りにある坪田商店などで仕入れています。

──何かを作る上で「ちょっと使いづらいな」と思ったら、ご自身で道具に手を加えることはありますか?

それはないですね。自分にあった道具を探す感じです。
持ってみて、手に馴染むやつを選んでいます。

──お庭を構成している石はどちらで仕入れていらっしゃるのですか?

解体屋さんですね。昔の古い家を潰して更地にするので、そのときに昔の石が出てくるんです。それを買うようにしています。
でも、やっぱり目利きができないと解体屋からも石を買えないんです。

──どのようにして目利きができるようになったのですか?

とにかく有名なお庭のある場所に行って、良いものを見て、それをインプットしていく感じです。あとは自分の感性ですね。
僕は元々、庭の材料屋に勤めていたんですよ。そこで色々教えてもらいながら石のことを勉強しました。

──ひとりで一通りの作業ができるようになるまでどのくらいの期間がかかりますか?

そうですね。10年くらいはかかります。10年でもやっと半人前くらいじゃないですかね。造園ってやることがすごく幅広いので、その中でも街路樹とか、木を切ったりしているところだったら、もっと早く覚えたり、独立できるかもしれないです。
けれど、僕のところは庭づくりをメインでやっているので、かなり技術が必要で、覚えることもたくさんありますね。

──海外でもお仕事をされていると伺ったのですが、例えば、日本庭園を海外で作る場合は日本の材料を持って行かれるのでしょうか?

それは色々ですね。やっぱり日本のものを持っていきたいんですけど、なかなか費用がかかるんです。この間も日本から中国に20トンコンテナ20台分ぐらい持っていった時は3,000 万ぐらいかかったと思います。

──海外のお客様は、日本のお客様よりも大規模な庭園を頼まれる方が多いのでしょうか?

そうですね。海外では大規模な庭園を依頼されることが多いです。
2年かけて作った大きなお庭に関しても、これで日本庭園に興味を持ってもらって「私の家にもつくってください」みたいなことになれば嬉しいなと思っていたのですが、日本ではそう簡単にはうまくいきません。海外のお客様と比較すると、日本は個人の方やお寺からの依頼が多いです。


夢中になれるもの

──お仕事の中で特に大変だったことはありますか?

本法寺っていうお寺に毎週日曜日、2年間通って結構大きめのお庭を作りました。
月曜日から土曜日までは会社の仕事をして、日曜日は庭をつくる。
毎日ずっと仕事で大変でした。

──そのお庭は全て一人でつくられたのですか?

そうです、ほとんど全てひとりでつくりました。大きな石も一人で運べるように三又という道具を利用してつくりました。元々このお庭は小さい子ども達とか、海外の人たちを呼んで一緒に作る予定だったんですけど、それがコロナでできなくなってしまって、2年間ずっと一人でつくることになったんです。

 

皆川さんが2年かけてつくった本法寺のお庭

──お仕事を続けられていく中で、自分の心情の変化などはありましたか?

今は始めたころよりも、楽しくお庭をつくることができるようになりました。
いつも夢中になって仕事をしています。

──やっぱり、「好き」という気持ちがあって、その気持ちを糧にお庭をつくっていらっしゃるという感じですか?

そうですね。好きですね。
僕、昔は他の仕事をしていたこともあったんですけど、結構すぐに飽きちゃって。
でも、この仕事は本当に楽しくて、ずっと続いていますね。

──どういったところが楽しいですか?

やっぱり、時間を忘れて集中して、没頭できるところですかね。
作業をしていて、気が付くと「あ、もうこんな時間や」ってなるんです。

──力仕事なので、集中力を保つことが難しそうな気がします。

いや、案外続きますよ。集中力はない方なんですけどね。

──お仕事をされてる中で、嬉しかったことや、印象に残っていることはありますか?

嬉しいのはやっぱり、お客さんに喜んでもらえることですね。
それこそ、お寺とかにつくったら、これから何百年と残って、いろんな人に見てもらうことができるので、そういうところが嬉しいですね。

──お客様の客層は限られていらっしゃるんですか?

やっぱり年齢層は高いですね。

──皆川さんは、「丸ごと美術館」という寺社仏閣や町家にて伝統工芸やアートを展示した複合型・地域発信型展覧会の中で、室内庭園を制作なさったという情報を拝見したのですが、そのような活動も含め、様々な活動をされていく中で年齢層を広げていきたいという思いもありますか?

そうですね。今の時代ってやっぱり、庭付きの土地を潰して、ガレージを作ったりすることが多くて。そんな時代に、どうしたら庭の良さをみんなにわかってもらえるかなと考えたんです。
その結果、色んな人に見てもらえたらいいなと思ってこのイベントに参加してみました。少しでも多くの人に見てもらえて、少しでも庭が増えていったらいいなと思っています。


日本庭園の広がり

──お庭のデザインはどのように考えていらっしゃるのでしょうか?

まずは、つくりたい庭のイメージや、人生のストーリーなどをお客様にお聞きして、それらを庭で表現しています。アイデアは造園を見て考えるのではなく、日頃から景色を見て「これ面白いなあ」とか「これヒントになりそうだなあ」と感じたものをインプットするようにしています。あとは「この材料めちゃくちゃいいな」というものを見つけたときにデザインを思い浮かべたりしますね。

──お客様から依頼があってお庭を作り終えるまで、だいたいどれぐらいかかるものなのでしょうか?

規模によって色々ありますね。それこそ石を置いて、木を植えて、最短1日でつくれるお庭もあれば、最長で何年もかかるお庭もあります。

──お仕事をされる上で、大切にされていることはなんですか?

一番はお客様に喜んでもらいたいと思って仕事をしています。それに、お庭をつくるには結構なお金がかかるので、安く、しっかり良いものを提供したいと思ってます。
その点では職人と商売人の間で考え方の差があるので、そういうときがしんどいですね。

──手仕事の魅力というのはどういったところだと思われますか?

やっぱり、自然にずっと触れ合えているというのが大きいように思います。ストレスがたまりにくいというか。なので、木を切ってお庭を作るときも、人が切ったというよりもフワッと自然な樹形を保てるように切り、自然を大切につくっています。

──京都で仕事されている良さはありますか?

京都での良さかどうかは分からないんですけど、お庭はどこにでもつくりたいと思って仕事をしています。全国どこでも、世界のどこにでもつくりたいです。やっぱり圧倒的に減ってきているんでね。家庭って家と庭って書くのに、もう、その庭がなくなってきてるじゃないですか。それが少し寂しいなと思っています。

──今後、何かしてみたいことはありますか?

とにかく、もっと日本の庭園を広げていきたいですね。日本だけでなくて、世界中に日本庭園の魅力を知ってもらえたらと思います。


職人interview
#68
京の庭大工 植司
皆川拓哉

文:
工藤鈴音(クリエイティブ・ライティングコース)

撮影:
谷口雄基(基礎美術コース)
北結衣(文化財保存修復・歴史文化コース)
工藤鈴音(クリエイティブ・ライティングコース)

京の庭大工 植司 HP:
https://ueji.web.fc2.com

まるごと美術館 HP:
https://www.kyoto-marugoto.com

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#68


庭大工|自然を目利きすること

お庭は毎日みるものだからこそ、あまり派手ではない、落ち着きのある空間を。
そんな想いを胸に、様々な庭園を手掛けていらっしゃる「京の庭大工 植司」さん。
幅広い年齢の方々に日本庭園の魅力を感じてもらうために、寺社仏閣や町家の中に伝統工芸などを展示するイベント内で室内庭園を手掛けたこともある2代目庭師 皆川拓哉さんにお話しを伺いました。