京友禅の道
──友禅の道に進まれたのはいつ頃でしたか?
智之さん:
高校を卒業して、19歳で友禅の職人さんらが集う会社(工房)に入りました。
元々絵を描くのが好きだったので。10年ほど修業を積んで独立し、平成21年には伝統工芸士(京友禅手描部門)に認定して頂きました。結婚する前は京都市で生活していたけど、今はここ(亀岡市の自宅)で制作しています。
──友禅は工程が多いと聞きました。細井さんが担当されているのはどこでしょうか。
智之さん:
まず友禅には手描友禅と型友禅があって、私は手描友禅の仕事をしています。
友禅染のはじまりは手描友禅で、全ての工程を手描で行います。
そして型紙を使うことで大量生産を可能にしたのが型友禅。
それぞれたくさんの職人によって分業化されていますが、
模様部分に筆や刷毛を使い色を挿していく、挿し友禅の工程を担っています。
求められているものにどれだけ近づけるか、というのが我々の仕事になります。
──ご結婚されたことで変わったことはありますか。
智之さん:
仕事を続けていくうえで家族の支えは一番大きいですね。
全てを理解してくれていることにも感謝しています。
ただ制作の面では、極端に変わるっていう事は無かったです。
家で仕事をするという環境は変わったけど、仕事内容は全く一緒なので。
自分自身の仕事に対する気持ちも変わっていないです。
1人で制作していた時も、会社(工房)にいたときも、結婚してからも。
モノと向き合う仕事で、自分のペースを保たないと逆に出来なくなるので。
──一般のご家庭と比べて違うと感じる部分はありますか。
智之さん:
常に私が家にいること、それくらいですね。
その分、娘との距離感は近いかな。
幼い頃は仕事場で絵を描いていたりもしていました。
世間から見た職人さんというのは、サラリーマンとは少し違うものだから
特別視されている部分があるように思います。
だけど実際に会って話してみると普通の人と変わりない。
とても人間味を帯びた人たちばかりだという事を知ってほしいです。
それに私らが若い頃は、家で仕事をしている職人さんもたくさんいました。
──京都という町についてどう思われますか。
智之さん:
今、新型コロナウイルス感染拡大によって急速に世界が変わろうとしています。
どう変わるか、分からない。
終わりの見えない不安の中で、改めて思うことがあります。
大切な生命を繋いで受け継がれてきたものには、大きな意味があるという事。
伝統工芸や職人を支える家族の存在もそうです。
それが京都には残っている。
これからも変わらず、そういったものに寄り添う町であってほしいですね。
「お父さん何してはるの?」
──父が友禅の職人さんだったことでほかの人と違うと感じる部分はありますか。
咲恵さん:
親が会社勤めをされているお家では、仕事で家に帰ることが難しい方もおられると思いますが、私の家の場合お父さんが家にいて仕事をしているので、小さい頃はとても安心感を覚えていました。
あとは、友達や仕事先のパートの方と話をしているときに「お父さん何してはるの」と訊かれたときには、とても話が膨らむ話題になります。
──実際に友禅をされたことはありますか。
咲恵さん:
小学生の頃、お父さんが「みやこめっせ」で友禅の体験をしているときに、
私がそこに行って教えてもらったことはありました。
布に描くのと紙に描くのとでは全然違ったことを思い出します。
実際に友禅を経験することは少なかったですが、小学校の夏休みの自由研究で友禅の工程を書いて提出したことや、祖父も着物関係の仕事をしていたため、祖父に対してインタビューをしたことはあります。
──友禅の道に進もうと思われたことはありましたか。
咲恵さん:
友禅は父への憧れという意味で、小学校の頃までは「継ぎたい」と言っていたけど、ある程度大きくなってからは言わなくなりましたね。
今思うと大変な仕事なんだろうなと思います。今は飲食業界で働いています。
──身近に友禅があることで気付くことはありますか。
咲恵さん:
父のように、職人さんが手仕事で作っている着物とインクジェットプリントで作られた着物とでは、具体的に言葉で説明することは私には難しいけれど、どこか違うということは分かります。
お父さんほど目が良いわけではないから、単体で見たら分からない時もあるけれど、
皆で着ている集団を見たら一目で手描友禅は分かりますね。インクジェットプリントで作られた着物が悪いという事は決してないのだけれど、手描友禅と比べてみると「派手だなぁ」とか「情報量が多いなぁ」と感じます。
智之さん:
手描友禅には日本画と同じように、いかに無駄なものを省いて美しく見せるかという美意識があります。
受け手が想像するスペースを残す「余白の美」です。それが身に纏ったときの美しさにも繋がっていると思います。
今は染色方法も色々あってそれぞれの良さがあるけど、手描友禅の魅力は素材、工程、道具など工芸の技術から生まれる美しさと、ファッションであるということですね。
──咲恵さんは京都という町についてどうお考えでしょうか。
咲恵さん:
京都というよりも関西の特徴になるかもしれないけれど、テレビや新聞の影響を強く受けているイメージがあります。
自分が働いている飲食店がテレビで紹介されたことがあったのですが、突然その瞬間からお客さんが殺到しました。
逆に関東はSNSが影響力を持っているイメージがあります。
それこそ関西でもSNSを有効に活用できたらいいんじゃないのかなって思います。
お父さんが作っているような手描友禅の着物とはまた違うけれど、夏に女の子が着物を着て皆で写真を撮ってインスタグラムに載せているような、そういう流れに乗ることができたら、若い人たちにも知ってもらえる気がします。
智之さん:
着物も「映える」という意味ではインスタグラムとの親和性が高いと感じています。
それが若者には「かわいい」みたいで。
私が関わっているものは誰かの生活を直接的に救うものではないけれど、少し気持ちを豊かにしたり、心を支える一部になるんじゃないかと思います。
自分自身も救われたように。
そういう想いを共有するためにも、つくり手と使い手が直接つながれるSNSというのは、とても良いコミュニケーションツールです。
また、京都で着物に触れて、その楽しさに気づいてもらったり、制作体験などで奥深さを知ってもらうことでも、手描友禅の魅力を伝えていきたいですね。
──最後にお父さんの尊敬されているところなど教えていただきたいです。
咲恵さん:
みんなと違う、誰でもできる訳ではない技術を持っているというところですね。
私が成人式のときに着た着物はお父さんに作ってもらったものですが、そういったところはやっぱりこの家に生まれてきた特権だなと思います。
家族が職人
#01
細井智之さん
細井咲恵さん
文:
谷口雄基(基礎美術コース)
細井智之さん Twitter:
https://twitter.com/kimono_shokunin
細井智之さん Instagram:
https://www.instagram.com/satoshi_hosoi/
今回は、亀岡にお住まいの京友禅伝統工芸士 細井智之さんご家族にお話を伺いました。