──さて、いっぽうの望月さんは逆に、京都ではなくて横浜のお生まれ。年代的にはSHOWKOさんと同じくらいですよね?。
望月めぐみ:
わたしはSHOWKOちゃんより二つ年上ですね。わたしは1978年生まれなので。
──お生まれもごく一般的なご家庭だったんですか?
望月めぐみ:
うちは実家が商売してたんです。個人商店で、お酒の販売をしている小さいコンビニみたいなお酒の小売店ですね。だからわたしは SHOWKOちゃんとは対照的に、文化的なバックボーンがない、横浜の新興住宅地で育ったんですね。だからこそ京都のような歴史のある街や伝統行事への強烈な憧れが、それはもう子どものころからあったんです。
──1978年ということは郊外に新興住宅地やニュータウンが次々に造成されていった時代でもありましたね。
望月めぐみ:
そうですね。横浜の実家のある辺りは、1時間くらいかけて都心へ通勤する東京のベッドタウンでした。そこで小さな商店をしている家の一人娘だったっていう。
SHOWKO:
ひとりっ子?
望月めぐみ:
そうそう。
──たしかにおふたりが生まれた育った街が持つ背景や家庭環境は、まったくの逆ですよね。
SHOWKO:
ほんまやなあ。
望月めぐみ:
ただ、似た面もあって、うちもSHOWKOちゃんもいわゆるサラリーマン家庭の子どもではなかった。家が商売をしている家庭。わたしはそこのひとりっ子なので、お店を継ぐのかな?どうなのかな?みたいな意識はやっぱり子どもながらにぼんやりとではありますけど、なんとなくあったんです。
──ぼんやりと思っていたのは大体どのくらいから思っていたんですか。
望月めぐみ:
それはもう幼稚園の頃からだったと思います。わたしは酒屋の娘だっていうね。
──絵画との出会いはどんなかたちでもたらされるのですか?
望月めぐみ:
小学校入ってすぐ、6歳の頃に絵画教室に通うんですね。単純にいちばん仲よしの友だちが通っていたから、なんとなくという感じで。
──でも絵はもともとお好きだったんですよね?
望月めぐみ:
そうですね。やっぱり絵を描いているのが楽しかったんだとは思いますね。
──そのころはどんな絵を描いていたんですか。
望月めぐみ:
絵画教室に入ってすぐの段階で、風景の油絵を描きました。いまならアクリル絵の具かもしれないですけど、その教室ではホルベインの木箱に入った油絵の道具をひとり1セット用意することになっていて。親もちゃんとそれを買ってくれて。
──それは非常にうれしい経験だったんでしょうね。本物の絵の道具だっていう。
望月めぐみ:
うれしかったですね。木のパレットで、油の絵の具でキャンバスに描くという経験を6歳7歳のときにしていたことは、いま振り返ってみても、やはりありがたかったなというのはありますね。
──その絵画教室は6歳から通いはじめて、どのくらい続けられたんですか?
望月めぐみ:
その絵画教室は小学生のあいだまでで、中学に入ってからは美術部に入るんです。それで絵画と同時に、わたしは音楽に目覚めて、ロックンロールが好きになったんですね。ちょうど小学生のときに「イカ天」というテレビの深夜番組があって、いろんなバンドが出てくるんです。それを録画してお昼に家族で観るというのがわが家の団欒でした。
SHOWKO:
家族みんなで観るんだ。
望月めぐみ:
そうそう。もともとロックは父が好きだったので。その影響でよくライブに行くようになったんです。それで、わたしの音楽の原点が、たまだったんですよ。人生経験のすごく深い喜びとして中学2年生のときにたまのコンサートに行って「あぁ!これが楽しいっていう感情なんだー!」って、ものすごい強烈な実感として得てしまったんですね。いわゆる厨二病の原点ですね(笑)。
──たしかにたまってヒットした「さよなら人類」はなんとなくポップですけど、アルバムなんかをじっくり聴いてみるとだいぶユニークというか前衛的ですよね。
望月めぐみ:
そうなんですよ!それこそビートルズみたいにメンバー4人がそれぞれが作詞・作曲してて、演奏能力も高い。それが原体験だったんです。さらにたまを通じて演劇にも出会うんですね。
SHOWKO:
ロックコンサートから演劇に出会うんだ。
望月めぐみ:
ええ。たまが名古屋の少年王者舘という劇団のお芝居に出ていたことを知って、それをきっかけに劇場に行くことになるんです。
それを観てすぐ、とにかく将来は演劇をやりたい!って思ったのを覚えてます。最初は中学生の時に文化祭とかでやって、それが非常に快楽であったっていうのがありますね。
──ちなみに、それは役者としてですか?
望月めぐみ:
役者ですね。プレイヤーのほうです。少年王者舘もそうですけど、松本雄吉さんの大阪の維新派もすごく好きでしたね。
──中学生で維新派ですか?
望月めぐみ:
はい。
(一同爆笑)
──中学生の同級生に言ってもあんまりわかってもらえないですよね。
望月めぐみ:
まあそうでしたね(笑)。
──それとは別に10歳くらいの頃、すでに源氏物語とかにも惹かれていたんですよね?
望月めぐみ:
源氏物語は、最初は漫画から入ったんですけどね。源氏物語絵巻とか百人一首のお姫様とか。とても美しくって、自分でもわからないうちになぜか惹かれる部分があって、そういうものを漫画を通して見ていたっていうのがありましたね。
──どういうところに惹かれたんですかね。
望月めぐみ:
やはり根源として「女性の美しさ」への憧れだったんだとは思うんですけれども。でもそれが京都に関心が向くことのきっかけでもあったのかしれないですね。
──そうですよね。望月さんの興味が京都へとつながっていく最初の部分っていうのは、もしかしたらそこにあるのかもしれないですね。
望月めぐみ:
はい。なぜか子どもの頃から、お神輿とか伝統行事とか、京都に来たら本当に身近なものなんだけれど、それがないところで育って、なぜか強烈に惹かれるものがあったなあと思います。
SHOWKO:
おもしろいですね。じゃあ、いまはもうウハウハですか?
望月めぐみ:
最初はね。ウハウハだった(笑)。
SHOWKO:
ちょっと慣れてきちゃった?
望月めぐみ:
慣れてきたというよりは、わたしなんかよりも、もっとさらに好きな人たちがいるじゃないですか。「神社大好き!」だったりとか「仏像フェチ」のようなもっと人生かけている方々が。だからその部分はその人たちに任せていいんじゃないかなと思えるようになってきた。
(一同爆笑)
SHOWKO:
余裕が出てきたのかな? 望月めぐみ:そうかもしれないね。
──たまと維新派と源氏物語。なんとなくつながってるような気もします(笑)。
温新知故
#25
望月めぐみ×SHOWKO
文:
松島直哉
撮影:
福森クニヒロ
望月めぐみ HP:
http://www.mochime.com
SIONE HP:
http://sione.jp
いわゆる「古きを訪ね新しきを知る」という視点からではなく、むしろその逆、新しいものの向こう側にこそ垣間見えてくる京都の先人たちの、技や知恵。
この対談シリーズでは、若い職人さんやアーティスト伝統文化の世界ではない人からの視点も交えた異色の対談集というかたちで京都の伝統文化に新しい光を当ててみたい。