温新知故
#30


サードプレイスとしての作家

京都のアートやクリエイティブ活動の最新事情を訪ねてみると、その奥には必ず伝統という財産が豊かに広がっていたりする。
いわゆる「古きを訪ね新しきを知る」という視点からではなく、むしろその逆、新しいものの向こう側にこそ垣間見えてくる京都の先人たちの、技や知恵。

この対談シリーズでは、若い職人さんやアーティスト伝統文化の世界ではない人からの視点も交えた異色の対談集というかたちで京都の伝統文化に新しい光を当ててみたい。

──最後にこれを読んでいる若い大学生に対してのアドバイスはありますか?

望月めぐみ
もしあなたが、ほんの少しでもなにかに興味を持ったとしら、その瞬間に動いてほしいなと思います。小さなことでいいんです。たとえば海外に興味を持ったら、すぐにスマホで検索してみる。

すると、アーティスト・イン・レジデンスやワーキングホリデーや、いろんな可能性が見つかる。興味を持ったその瞬間の勢いがあるうちに1アクション起こす。まず自分が動くことで、必ず状況や環境も動いていきますから。

SHOWKO
同感ですね。20代というのは、結果的にあれこれつまみ食い、みたいになってしまってもいい時期だと思うんです。中途半端になってしまうことを恐れずに、とにかくいろんな経験をしてほしいですね。

わたしも20代のころは「え?もう28?」なんてことに焦ったりしてたんですけど、いま考えると28歳なんてめっちゃ若いやんって思うもん。とくにいま企業勤しながら副業したり、ネットでなにか発信したり、あれこれ並行してできる良い時代でもありますから。やりたいことが見つかったら、迷わずやってみることですね。

──いまの若い人は子どものころから「なにをやってもいい」「なんにでもなれる」と言われ続けて育っているから、逆になにをしていいかわからなくなっているのかなと感じることもありますね。

望月めぐみ
先にゴールや結果を設定しすぎちゃうのかもしれないですね。でも、たとえばわたしぐらいの年齢になっても、仕事そのものより趣味でやっていることのほうが、その人の世界をつくっている大きな要素だったりすることがあるなあ思っています。

だから、もちろん好きなことを仕事にしてもいいけど、仕事とは別の趣味として好きなことを追求する人生も楽しいと思うんですね。

──それで思い出したんですけど、ぼくが中高生のころはちょうどバブル絶頂期だった。ある日、高校の先生がクラスのみんなに「やりたいこと仕事にするか、仕事はそこそこでアフター5を楽しみたいか、どっちや?」って聞いたんですよ。そうしたら「やりたいことを仕事にする」って答えたのはクラスでぼくひとりだったんです。当時は会社の経費で遊べる時代っていうのもあったと思うんですけど、いまだったら真逆の結果になるでしょうね。

SHOWKO
いまはどちらかというと、やりたいことをしよう!っていう時代ですもんね。でもあんまりそう言われすぎると、やりたいことがない子たちは困っちゃうんだろうなあ。

──考えてみれば10代そこそこで、やりたいことなんて、そんなかんたんに見つかるわけないんですよね。

望月めぐみ
やりたいことはあっても、それで生活していくというのとは別で、そのことをいまの若い人は知りすぎてしまっているというのも、あるかもしれないですね。やっぱり若いぶん先が長いわけだから、いろいろと不安があったり、心配だったりっていうのがあるんだと思うんです。

わたしも不安だったしね。でもけっきょくは覚悟です。どう転んだってわたしは大丈夫。そう思って進むか進まないかだと思うので。

──先ほど望月さんは「10年は続ける」と決めていたいうお話もされてました。一定の期間、なにかひとつのことを懸命に続けていれば、仮にその本命の道では成功できなくても、そのちょっと横とかに別の進むべき道が拓けたりすること、あるんですよね。

望月めぐみ
そうですね。最初に決めたものだけが正解ではない。わたしはたまたま切り絵とフィットした。でも違う道を進んでいる途中で出会ったわけですしね。やっぱり自分の心が差し示した道を往くのがいいと思う。そのときは「遠回りかな?」と思っても、けっきょくはいちばん近道だと思います。

SHOWKO
わたし、その「やりたい」という気持ちを、どこかに書いておくのも大事だと思うんです。これをやりたい!とそのとき思っても、日々の日常のなかで気持ちが薄れたりしてしまうこともあるし、やりたいことがいっぱいあることもある。

だからそれをまず紙に書いて、この気持ちはどんな想いから来てるんだろう?とか、どうやって実現しようか?って書いて、置いておく。誰にも見られない「聖域」みたいなノートをつくって。

望月めぐみ
やっぱり?書くよね?

SHOWKO
もう、めっちゃ書きます!やりたいと思った理由を探って行って、最後に出てきた答が「モテたい」とか、しょうもない理由でもぜんぜんいいんですよ。どうせ自分しか読まないんだし。むしろそのしょうもない自分に正直に向き合ったほうがいい。だってそれがいまの純粋な気持ちだから。

望月めぐみ
SHOWKOちゃんは、それマインドマップにするの?わたしは考えをまとめる時マインドマップを書く。

SHOWKO
いえ、わたしにはわたしだけのやりかたがあります。まず新月の日に『NOT TO DO』リストっていう自分の人生からなくしたいことを書きます。

望月めぐみ
へえ、NOT TO DOリスト。いいなあ。わたしもやろっかな。

SHOWKO
それから次にやっと『TO DO』リストを書きだして、そこでもうちょっと具体的な目標なんかも書いて「よし、やるぞ!」となりますね。

望月めぐみ
書くことって大事よね。

SHOWKO
そう、どうしようもなくモヤモヤしているときは書きなぐったりするよね。

望月めぐみ
手で紙に書くっすごく大事なこと。わたしは元日にも書くなあ。

SHOWKO
わたしも!

望月めぐみ
今年1年の大まかな目標とか、実現したいこと、いまこの瞬間に考えていることなんかを、わーっ!と書き連ねる。

SHOWKO
わたしは年が明けてすぐ、その深夜に書く。朝が来るともうわちゃわちゃしちゃうから(笑)。

望月めぐみ
でも書くのはほんと大切だよね。

──みんなめっちゃ書いてるんですね。

(一同爆笑)

SHOWKO
わたしはそのノートを『明け暮れノート』という名前をつけてて。明け暮れというのは源氏物語に出てくるんですけど、日が昇る前の一瞬のちょっと暗くなる時間、これから日が昇るぞっていう時間ね。

望月めぐみ
いちばん暗い時間から、どんどん明るくなっていくと。

SHOWKO
そうそう。これからだよっていう。

望月めぐみ
でも、それ大事ですよね。

SHOWKO
めっちゃ大事です!

──部屋でも、あれは本棚、これは食器棚と片付ける場所を決めていくと、納まりやすくなりますよね。頭のなかもそうやって書くことで整理できるし、自ずと進むべき道もなんとなく見えてくるんでしょうね。

望月めぐみ
書き出すことで整理されるというのは確実にありますね。あとはじめは見えてなかったものも書くことで見えてくる。

SHOWKO
地図をつくってるんですよね。

──若い人に向けてということでいうと、今後おふたりは弟子を取ったり、自分の後継者を育てたりするようなことはお考えですか?

SHOWKO
それについてはちょっと考えがあって。というのも、わたしの実家は父が六代目になるんですけど、父は「六代目というのは五代目のことだけ継いでるわけやない」というんですね。もう、それまでのいろんな人の知恵や経験も受け継いで、それで七代目というものを継承しているのだと。

望月めぐみ
ああ、そういうことなのね。

SHOWKO
そうなんです。わたしがこのブランドを立ち上げたときは「自分は一代目だ」という変な気負いがあった。わたしは一代でこのブランドを築いてがんばるぞ!と張り切ってたんです。

でも数年経ったころに、ふとさっきの「七代目の話」を思い出しました。わたしというのは、親や師匠や友人など、いろんな人に教わったことでできているんだ、と。だから「わたしは一万代目」くらいの気持ちでいようって決めた。

──いいお話ですね。

SHOWKO
だから答としては具体的に誰かを育てるというのではなく、自分の技術や、ものづくりの姿勢などが、それこそずっと先の未来に出土した土器の欠片みたいに、誰かのなかにほんの少しでいいので残っていけばいいな、くらいに思っています。

望月めぐみ
わたしも弟子を育てるというよりは、作品を通して創作のエッセンスのようなものが伝わっていけばいいなと思っています。いまは自分という素材を限界まで使い切りたいっていう気持ちがあるので。

ただ、子どもたち向けのワークショップをしてきて感じたことがあって、先生と生徒というより、友達になる感覚なんですね。わたしが子育ても弟子の指導もしたことがないからかもしれませんが、教えるというよりは、一緒に遊ぶという感覚でした。

その感覚は大事にしたいと思っています。そういう関係だからこそ、受け取ってもらえるものがあると思うし、そうであれば、やはりそれはかけがえのないうれしいことでもありますからね。

──直接弟子とかということではなくて、そういうフラットな場でじんわり伝えてていければ、という感じですかね。

望月めぐみ
そうですね。それはけっこう意識してやってるかもしれません。お母さんでもお父さんでもなければ先生でもなく、同い年の友だちとも違う存在。大人だけどなんかちょっと不思議なポジションにいる人、という役割があってもいいなと思っているんです。わたし自身もその役割は楽しんでやれているし。

──親や先生の意見には反発するけど、第三者の意見は素直に聞けたりしますもんね。

望月めぐみ
そうですね。それも作家やアーティストが子どもたちにしてあげられることのひとつかなと思いますね。子どものためのサードプレイスみたいな。

──親戚にひとりはいる、ちょっと変わったおっちゃんみたいな存在。

SHOWKO
でも子どもにとっては、そういう大人の存在ってすごく大事なんですよね。

──次世代への継承という面でも、一子相伝的に受け継いできた職人と、サードプレイス的な場所で広げていく作家。そういう役割の違いがあるということでしょうか?

望月めぐみ
それもひとつ、あるかもしれないですよね。

──家業として、家と仕事を継いでいく職人さんの世界でも、今後はそういうかたちの継承も増えていくのかもしれませんね。職人の技術継承の観点からも興味深いお話でした。今日はありがとうございました。


温新知故
#30
望月めぐみ×SHOWKO

文:
松島直哉

撮影:
福森クニヒロ

望月めぐみ HP:
http://www.mochime.com

SIONE HP:
http://sione.jp

温新知故
#30


サードプレイスとしての作家

京都のアートやクリエイティブ活動の最新事情を訪ねてみると、その奥には必ず伝統という財産が豊かに広がっていたりする。
いわゆる「古きを訪ね新しきを知る」という視点からではなく、むしろその逆、新しいものの向こう側にこそ垣間見えてくる京都の先人たちの、技や知恵。

この対談シリーズでは、若い職人さんやアーティスト伝統文化の世界ではない人からの視点も交えた異色の対談集というかたちで京都の伝統文化に新しい光を当ててみたい。