
一つの餡で一つの商品
京阪出町柳駅から徒歩7分。ここ京都という場所で大きな看板を掲げ、連日お菓子を求めて来るお客さんは絶えません。看板商品の阿闍梨餅をはじめとし、数々のお菓子が今や京都のお土産では欠かせない存在となっています。
京都でお店を構えている和菓子屋さんの多くは常に十種類から数十種類のお菓子を取り扱っています。それに対して満月さんは現在、阿闍梨餅、京納言、満月、最中の4種類のお菓子しか扱っていません。四種類それぞれ異なる炊き方の餡が使用されています。
「いろんな考えがあるけどね、うちは一つのお菓子は一つの餡で作りましょうということでやっているんです。餡というのはやっぱり菓子屋の命なんですよ。だからみなさん自分のとこのお菓子にあった餡の炊き方をしている。だからこそ、やっぱりその一つひとつのお菓子に合った餡を別で炊くのがいいかなと私は思っているんです」



数少ない商品だからこそ、一つ一つのお菓子にかけている想いやこだわりが、満月だけの無二の味を作り出しているのです。
阿闍梨餅
阿闍梨餅は、旨みが凝縮されながらも後味はあっさりとした餡を、餅粉を練り込んだ香ばしくもっちりとした生地でやさしく包み込んだ和菓子です。その姿は、阿闍梨と呼ばれる修行僧がかぶる笠の形を模しています。
今でこそ満月さんの看板商品となっている阿闍梨餅ですが、創業当時からあったものではなく途中で開発されたお菓子なのだとか。
阿闍梨餅が生まれる以前、満月のお菓子は旧九條公爵家の御用を務めるなど、限られた方々のためのものでした。
「当時は非常に高価で庶民が食べるようなものじゃなかったんです。でもやっぱり、うちは普通の人が普通に家で食べられるようなお菓子を作りたいということで、作ったのが阿闍梨餅なんです」
誰もが普通にお菓子を楽しんで欲しいという思いから誕生した阿闍梨餅は、看板商品となり今もなお多くの人々に親しまれ続けています。

食べ物商売をするということ
食品を扱う仕事で大切にしていることについて西浦さんはこう語ります。
「店の子でも箱詰めしたりするんですけど『あんたは 1日に百箱詰めてるかも知れないけど、買われるお客さんは 一人ですよ。だからそれをないがしろにするということは、100人のお客さんをないがしろにしてることと一緒のことやから、それは絶対やめなさい。』ということは口酸っぱくして言っています」
一つの商品をないがしろにするということは、その先にいるすべてのお客様をないがしろにすることと同じであると、西浦さんは考えています。そうした当たり前の意識を忘れることのないよう、日頃から繰り返しスタッフに伝えているそうです。
「当代初代」
インタビューしている中で西浦さんが何度も口にしていた言葉があります。
それは、代々受け継がれてきた歴史を守りながらも、その時代に生きる当主として新しい価値や変化を生み出していくという覚悟を示す言葉でした。
伝統をそのまま守るだけではなく、その時代に合った形でお菓子を届けていく。それが“当代初代”。西浦さんのあたたかい人柄が垣間見える素敵な言葉です。

和菓子屋を営む上で京都という場所はどういう存在なのかお聞きしました。
「京都ブランドですよ。これは、非常に大きいです。ただだからこそ、そこにあぐらかいたらあかんなと戒めを持ってやっています」
特に京都の人は目ざといから、手を抜けないし抜くつもりもない。常に美味しいものを、常に良いものを作りたい、と西浦さんは言います。
終始、笑顔でお話される姿が印象的でしたが、その目は私たちを力強く捉え、真剣にこちらの話にも耳を傾けてくださいました。目の前のお客さん一人ひとりを大切にする西浦さんの思いが、仕草や言葉の節々からあふれているのだと感じます。そういった思いがお店のあたたかい雰囲気や私たちに寄り添うような優しい味のお菓子を作り出しているのでしょう。
京都というブランドを背負う責任にも負けない覚悟と、力強い瞳で話される姿に「満月」という大看板の風格が見え、圧倒されました。
京都のスープ
#44
阿闍梨餅本舗 満月
HP:http://www.ajyarimochi.com/
文:
河上創祐(情報デザイン学科)
写真提供:
阿闍梨餅本舗 満月
井岡玲奈(情報デザイン学科)

その中で、1856年からそんな文化を支えてきた阿闍梨餅本舗満月さん。満月の5代目当主である西浦裕己さんにお話を伺いました。