小山 薫堂さん
熊本県天草市出身。1964年生まれ。放送作家、脚本家。京都芸術大学副学長。京都市「京都館」館長。大学在学中に番組制作アルバイトを経験し、放送作家として活動開始。映画「おくりびと」で第32回日本アカデミー賞最優秀脚本賞、第81回米アカデミー賞外国語部門賞を獲得。他、下鴨茶寮主人、2025年大阪万博では、テーマプロデューサーを務める。熊本県公式PRキャラクター「くまモン」の生みの親でもある。
──使用前のイメージや予備知識はありましたか?
そもそも木桶は僕、普段から日々使っています。お風呂で。なので、どんな桶がくるのかなと思って、楽しみにしていたんですけど、もっと分厚い桶がくるのかなと思っていました。江戸の桶っていうのはね、もっと分厚いんですよ。厚かったりとか、もっとこう男っぽかったり。
そう思っていたら、すごく繊細で。たる源さんの桶に似ているなってものがきたんで、あぁ、こんなに繊細なものだったんだって思いましたね。シュッとしていて。でも、華奢なんだけど決して脆くはない。しっかりとしているんだろうなって見て思いました。
──軽いんですか?
軽いですね!思ったより断然軽いし。あとやっぱり香りがとてもいいですね。僕がもともと使っていた桶も薄いんですけど、桶屋近藤さんの師匠である中川さんの息子さんが作られたものを使っていました。
──桶を生活にどのように取り入れましたか?
桶は日頃から当然、お風呂の中で使う湯桶としてはもちろん。そのために作られているのですけれども。あれくらい繊細で美しかったら、やっぱり飾っときたくなるんですよね。鑑賞するとしても非常に価値があるというか。普通、鑑賞するものは絵もそうですし、彫刻もそうですし、見るだけじゃないですか。それ自体に、実用性はあまりないと思うんですよ。
もしあるとしたら、ブロンズ像みたいなもので頭殴るみたいなね。殺人事件になるとかそういうのはあるかもしれないけど、それ以外はなかなか無い。でも桶は「実用性を持った美術鑑賞品」であると思うんですよ。だから、僕はまずこの桶を飾ったんです。どういう風に飾ったかというと、こんなふうに飾りました。
これ、知っていますか?アマビエっていうんですよ。熊本の疫病を鎮めたと言われる妖怪。お寺の中で見つかった、熊本で描かれたといわれる妖怪で、すごく全国的にも流行っていたんですけど。それを陶芸家の村田真さんが作って、売っていたんですよ。
それを買って置いていたんですけど、ただ一個アマビエがあるよりも、この桶がひとつのフレームとして存在したらアマビエのお家みたいにも見えるし。神社的空間にもなっている感じがして、桶の中にいい気が流れてる感じがするじゃないですか。そういう意味があって立てて飾るっていうのをやってみました。
──アマビエを隠してみてもいいかもしれませんね。
あぁ、おもしろい!本来、そういうものって神社とかでも隠されているものですもんね。
──フレームとして使うっていうアイデアはいいですね。他にもありますか?
あとは、すごく実用的な方法です。これは、まあ誰もが一番使いやすいやり方かと思うんですけど、僕はこのとっくり。フラスコなんですけど。とっくりだと中が見えない。熱燗にはとっくりって向いている気がするんですけど。冷やす時には、これくらい薄いガラスのほうがよく冷えるし。ガラスのとっくりもあるんですけど、このフラスコがすごく安定していて、安い。これ、800円だったかな。
──小山さんにとって、安いことが大事なのは驚きました。でも、間違った使い方をするのを面白がっていますよね。
いやいや、間違ってない。これ本当に使いやすくて、何ミリリットルがあんなに正確に示されているわけだから。で、ちょうどこのフラスコにあう大きさのものがなかなか無いんですけど、この桶がぴったりだったわけですよ。
──フラスコを入れて冷やすっていうのは、どういった理由で思いついたんですか?
これは、ベネチアのホテルチプリアーニのプールサイドで白ワインを頼んだら、こういう感じに出てきたんですよ。それは、もちろん木桶でもないし、フラスコでもないんだけど。こう、デキャンタっていうかカナフェに氷をはって、大きなボウルがあって、それに白ワインが注がれて、割って入れて飲むっていう。それがとても心地よかったわけですよ。それで、真似してみたっていうのが理由です。
──最後に独自の視点でこの工芸品に星をつけてください。
そうですね……「華麗な所作になる」で★★★★★です。
これはね、祇園の芸妓さんに聞いたんですけど、ものを扱う時にそのものに想いを馳せて、そのものが壊れたりしないように大切に扱う。そういう所作をすると自然にとても華麗に見えると教わったんですよ。
だから、なんでもいいけど、普段使っている携帯とかでも、ものすごく壊れやすいものを扱うように扱うと、全然違うでしょ。だから、この桶もなにかそういう「触れる人に丁寧に触れさせるオーラ」がある。それによって、この桶でお湯を被る時も、バーンって被らないと思うんです。ゆっくりになりますよね、動作が。
京都の大徳寺近くに工房を構える「桶屋近藤」。
この桶には、一目ではわからない気遣いという美しさがあります。
そのひと手間かける気遣いが使いやすさとなり長く愛される品となっていきます。。
【桶屋近藤】吉野杉湯桶
使いやすさは、素材の肌触りや軽さだけではなく、計算されたサイズからも感じます。
例えば本や小物を入れたり、果物を入れるバスケットの代わりにもなります。シンプルだからこそ用途や場所を選ばない使い方ができるのも魅力です。
つくるひと、つかうひと
#16
京都芸術大学 副学長
小山薫堂
文:
則包怜音(油画コース)
撮影:
小山薫堂
そして、「つかい手」として工芸品を生活に取り入れ、使い続けることもまた、伝統をつないでゆくことと言えるかもしれません。
今回お話を伺ったのは、今回お話を伺ったのは、京都芸術大学の副学長を務める小山 薫堂さんです。日々、丁寧な暮らしを心がける小山 薫堂さんの"工芸品のある暮らし"をお話いただきました。