製品デザイン・企画
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【EYEVAN×京都の職人】 EYEVANの眼鏡づくりを見て、体験する2日間 @鯖江

「THE EYEVAN 京都祇園店」が2021年5月にオープンされたことをきっかけに、KYOTO T5・ Whole Love Kyotoは、京都の職人さんと眼鏡にまつわるものづくり第一弾に関わらせていただきました。
第一弾が終わった2022年12月、眼鏡の街として知られる鯖江へ行き、EYEVANの眼鏡づくりを見せていただく機会がありました。鯖江の眼鏡づくりは分業制です。鯖江全体で眼鏡を作り、鯖江を一周して一つの眼鏡が出来上がっていきます。
このレポートは2日間に渡り取材させていただいた鯖江と、EYEVENの眼鏡の軌跡を巡る記録です。EYEVANの、職人へのリスペクト、鯖江の職人のクラフトマンシップを改めて感じた2日間の旅の記録を、どうぞお楽しみください。

EYEVANについて

EYEVANは、1972年に「着る眼鏡」をコンセプトとして生まれた、日本初のファッションアイウェアブランドです。世界中から収集したアンティークアイウェアをデザインソースに、当時のEYEVANデザインチームが美意識と感性を加え、熟練職人によって手作業で製作されました。当時は単なる視力矯正道具に過ぎなかった眼鏡ですが、EYEVAN独自のデザインから、そのネガティブなイメージが払拭され、ファッションアイテムとして「アイウェアを楽しむ」という新しい潮流と文化をつくったブランドです。


1日目 職人訪問

|初めて見る眼鏡製作。面白いものがたくさん。

1日目、初めに訪れたのは、プラスチック製の眼鏡を一貫して作る工場です。ここでは50名ほどが働いています。小規模での分業制というスタイルを持つ鯖江では、ここまで大規模に、最初から最後まで一貫して作ることができる工場はとても珍しいのだそう。

この工場は、鯖江に眼鏡作りを広めた増永五左衛門のもとで働いていた、現社長のおじい様が創業され、鯖江に眼鏡産業がもたらされた当時から製造を続けておられます。

EYEVANの10eyevanという商品は、セルロイドという素材からできています。このセルロイドは爆弾の材料にもなるくらい、非常に燃えやすく管理が難しいため現在ではほとんど製造されていないのだとか。そのためこの規模でセルロイドを使った眼鏡を作ることができるのは世界でもこの工場だけ。10eyevanもこの工場なしには作れなかったといいます。

この工場の社長さんも、実はEYEVANの大ファンなのだそう。10eyevanの図面を見て、かっこいいと一目惚れしたため、仕事を受けることを決めたと語っておられました。自分の商品に誇りを持って作業ができる、素晴らしい工場です。

ここではほとんどの工程が手作業で行われています。眼鏡の「生地」と呼ばれる、板状のセルロイドの素材から眼鏡の枠を削りだす作業が唯一の機械生産なのだとか。働いておられる方々も、何十年もこの工場で同じ作業を続けてこられたこの道のプロばかり。何百工程にも細かく分けられた工程を流れ作業で、1工程をものの十数秒で終わらせるという早業で、その職人技に驚きました。

この道数十年の職人さんの背中、かっこいいです。

これは「ガラ研磨」という工程で使われる「バレル研磨機(通称ガラ)」と呼ばれる機械です。このガラの中に石や木、竹などでできたチップが入っており、このチップと眼鏡のフロントを一緒に入れて回転させることによって眼鏡に磨きをかけていきます。

磨きの工程は4段階あり、それぞれ約20時間、全部で80時間もの間、眼鏡はこのガラの中を回り続けます。八角形の機械の中でガラガラと音を立てて回っている様子が、お祭りの福引機のようで何だか面白い。EYEVAN独特の丸みを帯びた眼鏡のフォルムは、この長い工程によって作り出されているのですね。

こちらは最終工程である、眼鏡の洗浄作業の様子。窓から射した光が洗浄機の中の水に反射して、とても神秘的でした。

洗浄の後、シルク印刷や「調子取り」という作業を終えると、傷や歪みなどがないか検品を行います。EYEVENでは特に、この検品を重視していて、各部署で検品されて集まってきたものをEYEVANの工場で再度検品します。素人には分からないぐらい小さい傷でも傷は傷。ここで丹念に検査をして、不良品を振るい落とします。

私も不良品を見せてもらいましたが、その傷は小さすぎてパッと見ただけでは私には分かりませんでした。それだけEYEVENの検品は厳しいのです。目が肥えたお客様を満足させることができるよう、検品も細部までこだわって行っています。

|「ぎりぎり」を攻める、技術とこだわり

次に訪れたのは、コンビネーションと言って、メタルとプラスチックを組み合わせた枠を作る工場。鯖江中に散らばった外注先の工場から材料を集めて最終的な組み立てと仕上げを行っています。

硬いメタルと変形しやすいプラスチック。異素材を様々な工場に発注し、それを組み合わせる作業は、管理が難しく技術とノウハウが必要な作業です。

こだわっているのは、パーツの細さ。細くしすぎてしまうと強度が無くなってしまい、かといって壊れないように太くしすぎてしまうとEYEVANらしいデザインにならない。そんなEYEVANの雰囲気を大切にした、機能性とデザインのぎりぎりを攻めた商品を作っています。

他にも、様々なところにEYEVAN独自のこだわりが。例えばテンプルに刻印された「EYEVAN」というロゴマーク。現在はレーザーで入れるという方法が基本ですが、EYEVANの商品だけは、雰囲気を大事にしてあえて昔ながらの刻印を使って印字しています。

このように細部までこだわり抜いて作られたEYEVANの眼鏡。そういった細かいデザインにこだわるかどうかで最終的な完成度や雰囲気が全く違うものになります。新しい技術で作ると簡単だけれど、あえて古い機械や手作業でしかできないような難しい方法で作ることで、繊細さと、アンティークから着想を得たという美意識を兼ね備えたEYEVAN独自のブランドコンセプトを再現することができるのです。

|半分工業製品で、半分伝統工芸。

眼鏡市場で多くを占める中国やイタリアでは、大規模な工場で一貫してものづくりをするため工業製品という側面が強いそう。しかし、鯖江では職人により一つ一つ現場で工夫しながら手が加わっています。

例えば、「磨き」という、眼鏡の製造工程の最終段階である一部の作業だけを専門にする職人さんもいるのだとか。限られた作業でも、職人によって全く違う仕上がりになるため、それぞれの職人の技術がとても大切にされています。鯖江のこのような分業の形はすごく独特です。

EYEVANの定番モデルのひとつは、長年付き合ってきた工場で作られていたのですが、ある時違う工場で作ってもらう機会があったそう。しかし出来上がった商品を見て、すぐに元の工場で作ってもらうように戻されました。図面では同じものでも、出来上がって来る品は全く違ったものになるのだそうです。素人目には分からなくても、作り手によって雰囲気が全く違う商品になる。「そういうところが、半分工業製品で、半分伝統工芸みたいな感じでちょっと珍しいところですね。」と仰っていました。


2日目 眼鏡づくり体験

|本当に手でつくられているんだと感じた眼鏡づくり体験

2日目はEYEVENさんの工場でメガネクラフトを体験させていただきました。眼鏡のフレームとテンプル部分の生地を自分で選び、職人さんに教えてもらいながら加工していきます。フレームもテンプルもたくさんの種類があり、選ぶのが大変でした。

これは「内径カット」に使う機械。内径カット・外径カットという工程で、眼鏡フレームの内側と外側の型、それから「ヤゲン」と呼ばれる、レンズをフレームに嵌めるための溝を削り出します。写真のようなオレンジの板で生地を挟み、板に合わせてカットしていきます。

一番難しかったのは、「カシメ」という作業。フレームとテンプルを接続するための蝶番にピンを通し、そのピンをつぶして固定します。一度ピンをつぶしてしまうと外れなくなるため、やり直しがきかない繊細な作業です。きれいにカシメをするには、ピンに対して垂直に機械を下ろし圧力をかけないといけないのですが、私は少しずれてしまい、左右でカシメの間隔が非対称になってしまいました…。

また、一番奥が深いと思ったのが、「磨き」の作業。細かい傷を取ったり光沢を出すために、「バフ」という機械にテンプルを当て、磨いていきます。この作業は完全に個人の力量。バフ機に当てれば当て続けるほど、テンプルは削られていき、つるつるになっていきます。明確な終わりがない作業のため、どこまで丸みや光沢を出したいかイメージを想像しながら磨いていきます。

初日に訪れた工場で伺った、「職人によって全く仕上がりが違うものになる」というお話は、こういうことなのかと、実際に自分で体験してみて腑に落ちました。これこそが「眼鏡産業は半分工業製品、半分伝統工芸」の所以なんだなあ。

私はこの工程が一番、地味だけど楽しい作業でした。

プラスチックフレームに鼻パッドを付ける作業も体験させていただきました。鼻の部分を削って、パッドの接着面を特殊な溶剤で溶かし、くっつける作業。1mm位置がずれただけで付け心地が全く変わってしまうのだそう。眼鏡作りとはこんなに繊細なお仕事なのですね。奥が深い…。


2日目 めがねミュージアム見学

|眼鏡がたどった歴史と変化を知った美術館

眼鏡づくり体験の次は「めがねミュージアム」に連れて行っていただきました。ここでは眼鏡の歴史と変遷を学ぶことができます。現在のように機械化する以前の、木製の原始的な機械を見ることができ、昔の人たちはこんな風に眼鏡作りをしていたのかと感動しました。また、江戸時代に使われていた、テンプルではなく紐を耳にかけて固定するような眼鏡や、有名タレントさんたちが昔テレビで着用していた眼鏡など、今とは全く違う素材・形状の眼鏡の展示に心躍ります。

昔の眼鏡は今見てもとてもお洒落。EYEVENさんとの今後の活動のアイデアになりそうなインスピレーションの宝庫でした。

|カツ丼を食べながら、EYEVANのはじまりのお話を聞く

2日目のお昼ご飯には、福井名物のカツ丼とお蕎麦をごちそうになり、EYEVANの歴史と眼鏡づくりへの熱い想いを伺いました。甘めのソースカツ丼にこしが効いた少し辛めのおろし蕎麦、温かいお吸い物にEYEVENさんのお話が楽しかったです。

今からちょうど50年前。EYEVANが設立された当初のお話。当時の日本の眼鏡は黒縁の学生眼鏡が当たり前で、単なる視力矯正器具としてネガティブなイメージを持たれていました。しかし、EYEVANの会長である山本哲司さんがヨーロッパの市場でファッションアイウェアとしての眼鏡に刺激を受け、当時流行っていたアイビールックのデザインを取り入れたお洒落な眼鏡を、日本で啓蒙活動を始めるようになったのだそうです。

現在はお洒落やファッションという側面が強い眼鏡ですが、当時はそれほど良い印象がなく、EYEVENさんがそれだけ革新的なことをしたのだということに驚きました。近いようで遠い半世紀前から、日本の眼鏡の歴史が動き出し、現在までつながっていく様子をお聞きし、とても興味深かったです。

今回工場を見学させていただいたり、眼鏡づくりを体験させていただいたことで、EYEVANを形作る職人の技術とデザインへのこだわりを感じることができました。

眼鏡づくりを機械化できるなら全て機械化したい。でもしないのは、多品種小ロットという製造方法と、眼鏡のデザインへのこだわりがあるから。一つ一つ手作業で工夫しないと自分たちの理想は作れない。だから眼鏡づくりは完全には機械化できない。

メガネクラフトで気づいたそういう部分が、普段私たちが関わっている京都の職人さんとは違う部分だと感じました。

そしてそれが実現できるのは、長年EYEVANの眼鏡づくりを支えてきた工場があるから。長年を共にしてきたからこそEYEVANが作りたいテイストを理解して、細かい要求も全てまとめて受け止める事ができるのです。だからこそ、EYEVANさんは鯖江の職人さんのクラフトマンシップを大切にしておられるのだと分かります。

その証拠に、今回の取材も、笑いが絶えない、EYEVANさんと職人さんとの和やかな雰囲気が感じられる素晴らしい取材になりました。

この2日間、非常に濃い時間を過ごさせていただきました。

改めて、ここまで読んでくださった皆さん、それからEYEVENさん、ありがとうございました!最後に鯖江からのちょうど帰り際、2日間ずっと曇り空だった空にいきなり虹が出てきた時の写真をおすそ分けします。

曇天に架かる大きな虹。これはきっとEYEVENと私たちKYOTOT5・Whole love kyotoの活動の今後を照らしてくれる明るい兆し。

「これからの活動がより良いものになりますように」そんな願いを込めて、私たちは鯖江を後にしました。

[案内してくれたEYEVANチーム]
高嶋さん、川﨑さん、八十岡さん、林さん、宇野さん、真柄さん

[参加したKYOTO T5・Whole Love Kyotoチーム]
稲村かおり(WLK/CHIMASKI)、西岡菫(KYOTO T5/歴史遺産学科)、串畑聖奈(WLK/空間演 出デザイン学科)、鈴木あゆの(WLK/空間演出デザイン学科)



製品デザイン・企画
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【EYEVAN×京都の職人】
EYEVANの眼鏡づくりを見て、体験する2日間 @鯖江

文:
西岡菫(文化財保存修復・歴史文化コース)

撮影:
稲村かおり

イラスト:
串畑聖奈(ファッションデザインコース)

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【EYEVAN×京都の職人】 EYEVANの眼鏡づくりを見て、体験する2日間 @鯖江

「THE EYEVAN 京都祇園店」が2021年5月にオープンされたことをきっかけに、KYOTO T5・ Whole Love Kyotoは、京都の職人さんと眼鏡にまつわるものづくり第一弾に関わらせていただきました。
第一弾が終わった2022年12月、眼鏡の街として知られる鯖江へ行き、EYEVANの眼鏡づくりを見せていただく機会がありました。鯖江の眼鏡づくりは分業制です。鯖江全体で眼鏡を作り、鯖江を一周して一つの眼鏡が出来上がっていきます。
このレポートは2日間に渡り取材させていただいた鯖江と、EYEVENの眼鏡の軌跡を巡る記録です。EYEVANの、職人へのリスペクト、鯖江の職人のクラフトマンシップを改めて感じた2日間の旅の記録を、どうぞお楽しみください。