組紐の仕事
──普段どういったお仕事をされているのか詳しく教えていただけますか。
富士太さん:
紐が出来上がる前の、機械に糸をセッティングをする仕事をしています。
紐は機械が作ってくれるんですが、セッティングや様子を見ておくことは必要ですので。
機械に糸を付けるための作業で、下ごしらえみたいなものです。
僕の他に6人担当者がいるんですけど、他の人は染めをやっていたり、房を作っていたりなど、その人その人に得意の分野があって自分が向いているものをしています。
──組紐の職人になられたキッカケを教えてください。
富士太さん:
この「昇苑くみひも」という会社に面接させてもらうことになるまでは組紐のことを知らなかったんですけど、工場を見せてもらって自分が働いているビジョンが見えたというのか。
その場に自分が居そうだなと感じました。その時は他の仕事は全く考えてなかったです。
大学時代は美術大学の油画をしていたので、以前は絵を描く仕事も考えていたのですがメインでやっていく難しさもあって。
ただ、作る仕事は昔からしたかったから今も楽しくやっています。
──職人になって大変なことや苦労されていることはありますか?
富士太さん:
用意した糸を高速のボビンに巻き付けなければいけないんですけど、手が切れるぐらい早くて、それに慣れるのに時間がかかりました。
ボビンの速さも、足のペダルで調整するんですけど、それもなかなか難しいです。
──逆にやりがいや楽しさを感じることはありますか?
富士太さん:
常自分に向いていると感じられる仕事で毎日楽しく過ごしています。
でも毎日頑張り過ぎてしまうと飽きてしまうから、たまに自分で「今日はちょっと違うやつをやろう」と息抜きも入れるようにしています。
上の方に指示されない自由な社風なので、自分で決めることができるんですよ。
──職人になる前と、なってからでは職人のイメージは変わりましたか?
富士太さん:
昔から職人になりたかったので、自分の思った通りでしたね。
皆さん没頭して自分の仕事を全うされてる、といった。
職人さんのイメージに対しては、変化は無いですし、悪いイメージも無いです。
──奥さんに質問です。職人の夫を持たれて変わったことがあれば教えてください。
優子さん:
自分の中で愛でるものが変わったように思います。
自分自身がアンティークショップで働いてたこともあり、ヴィンテージやアンティークな物が好きで、身の回りの物もそういった物で揃えていたりしていました。
でも、組紐などの伝統工芸品に触れたり見る機会が確実に増えていったこともあって、モノに対する作り手さんの顔がもっと見える方が面白いなとか、日本製の物もステキだなとか、職人さんが守ってきたモノの重みのようなものを少し感じるようになりました。
自分が持つものもそういうのが良いなと思って、お金をかけるところが変わったりしましたね。
──アンティークショップで働いていた経験や、ヴィンテージが好きな方の目線で日本の手仕事の魅力は何かありますか?
優子さん:
日本で作られたモノは、仕事がとても細かく丁寧に作られていると感じますね。
もちろん向こうの物も優れていると感じるところはたくさんあるのだけれど、海外のモノを見る前に、まずは自分の国のことを知ってから見たら良かったな感じました。
だから昔は海外旅行にすごく行きたくて、フランスに行って確かに素晴らしいとは思ったのだけれど、それよりも日本の行ってない所も多すぎて、今はもっぱら日本の場所に行っていますね。
死ぬまでに47都道府県行きたいなって思ってます(笑)。
今はその気持ちの方が強いですね。
──奥さんからみた「職人」のイメージはどういったものでしょうか?
優子さん:
職人さんにも様々な方がおられると思います。
その中には彼(富士太さん)のように自ら選んで職人になれる人だけではないと思う。
生まれ育った家を継がなくてはいけない人や、必要に迫られて職人になった人もいると思います。
そういった状況や向き不向き、才能が必要な場面もある中で、試行錯誤を繰り返して積み重ねた結果できるものだから、仮に天才のような人がいても努力は必ず必要だと思うんです。
だから、ものづくりに対して真摯に向き合える人、向き合い続けることができる人が、職人さんって呼ばれて良い人なのかなと考えています。
富士太さん:
すごいな自分……。
一同:
(笑)
中村さん:
まあ、あんまりこんな話を家ではしないですよね。
富士太さん:
しないですね。
中村さん:
面白いね。
手仕事の魅力と京都という町
──組紐の魅力、手仕事の魅力について教えてほしいです。
富士太さん:
組紐の魅力は出来ることがシンプルで、紐で出来たものであれば組紐ですぐ作ることができるという点です。
手仕事の魅力については、大量生産で作られている工業製品とは違うところにあると思っています。便利なものや全く同じものばかりが多く作られても、手仕事のものが失われてしまうと寂しく面白みに欠けてしまいます。
そういった面があるので、組紐をはじめとした多くの手仕事は無くならないと思います。
中村さん:
手仕事の魅力は温かみだと思います。
無機質なものもカッコいいし良いんですけど、温度が低く冷たい印象も受けるので、寂しさがあって安らぎが無い。
だけど、そこに少しでも手仕事が加わると温度が上がると思う。
だから、私も全ての手仕事が無くなるということはないと考えています。
一方で、組紐がずっと残り続けるかというと、私には無くなってしまう恐れもあると思っていて。技術が進化すると人間は楽をしてしまおうとする生き物だから、「結ぶ」行為を面倒くさいと感じる人が出てきて、紐は磁石など別のものに代えられてしまうのではないかと考えています。だから、紐でないと表現できないものを多く作っていくことや、増やしていくことに力を入れています。
優子さん:
彼(富士太さん)が「昇苑くみひも」に勤めるまでは、組紐は紐だというイメージでしか分かっていなかったし、何に使われているものか訊かれても帯締めくらいしか思いつきませんでした。
ですが、実際に仕事場を見せていただいたり、作っていく工程を見させてもらうことで色々なことが分かっていきました。最初は糸なのに糸同士が組まれることで紐になり、紐自体も太さを変えたり帯状にすることができる。
その上、生地のように作ることも可能だそうです。
糸のような数ミリのものが、こんなにも変化していくんだっていう、無限の可能性を秘めているのが組紐の魅力だと思っています。
──手仕事が多く受け継がれている京都という街についてどうお考えでしょうか。
中村さん:
京都という街は、一つの会社みたいなものだと考えています。
例えば、総合商社のような大きな会社に何かを頼むと、部署があるのでひとつの会社が全てやってくれる。いわば任せられる街です。
他の街ではできないことも、横のつながりが強い京都では皆で分業しながら完成まで持っていくことが出来る。
昔から仕事をひとつひとつ高い技術で取り組んできた街だから、京都ブランドと呼ばれるように安心感や保証もある。
ただ、そういったものが最近減ってきているようにも感じられます。
全部は出来なくなってきているところがあるので、それが残念に思います。
富士太さん:
京都のお店や工房など、看板が何もなかったり、そういったものが隠れているところが多いので、外からは何を作っているのか分からないのが京都の特徴としてあると思います。
東京のようなところでは看板が至るところに出されているので、それが何をしている場所かが分かりやすい。
優子さん:
彼(富士太さん)が「昇苑くみひも」に勤めるまでは、組紐は紐だというイメージでしか分かっていなかったし、何私が働いているアトリエも、まさに外からは分かりにくいところでした。
初めて行った時も、三回素通りしてしまって(笑)
だけど、目的のお店を発見したときの感じや、知る人ぞ知る優越感なようなものを感じられたりだとか、分からないことを面白いと捉える人もいるように思います。
また、京都は「新しい」と「古い」が気持ち良い加減に合わさっている街だとも思います。
歴史ある文化や技術を受け継いだり守っていくことが出来る一方で、人が多く集まるから、新しいことにも挑戦できる。
だから、古いものを持ったまま新しいことに挑戦できることを得意とする街のように思います。
目新しいものばかりに飛びつくのではなくて、古いものを踏まえて新しいものを大事に取り入れていけたら、今以上により良い街になると思います。
──今日は貴重なお時間をいただきありがとうございました。最後に富士太さんと奥さんが、お互いについて抱いている印象や思っているところがあれば教えていただけますか。
優子さん:
普段は結構腰が重くてのんびりしている人なんですけど、自分のビジョンが見えたときや自分が「コレ!」って思いたったときに人一倍行動力を発揮するんです。
そんなときにこんな行動力ある人やったんやって驚くことがあります。
富士太さん:
自分は僕の考えを上手く伝えてくれるところかな。
優子さん:
翻訳機?(笑)
智之さん:
自分のこと分かってくれてないと、できひんと思うから(笑)
家族が職人
#02
増尾富士太さん
増尾優子さん
中村新さん
文:
谷口雄基(基礎美術コース)
下尾 藍子(基礎美術コース)
昇苑くみひも HP:
https://www.showen.co.jp/
食堂 山小屋 Facebook:
https://www.facebook.com/profile.php?id=100057583623929
今回は、1948年創業の組紐和雑貨専門店「昇苑くみひも」で組紐職人をされている増尾富士太さんとその奥さんの増尾優子さん、お店で企画担当を務められている中村 新さんの3人にお話を伺いました。お店近くの「食堂山小屋」さんにご協力をいただき、楽しく取材をさせていただきました。