「青森県弘前市」
「こぎん刺し」を家庭の時間に習う、青森
酒井:
青森では「こぎん刺し」を家庭の時間に習うんですよね。
夏次郎さん:
そうです、私は高校生の時の家庭科の授業で習いました。
皆一度は工芸に触れる授業の一環として、学校で習っています。
酒井:
中学ではなくて高校?
夏次郎さん:
高校ですね。
酒井:
男の子とか苦手そうですけど、どうですか。
夏次郎さん:
いえ、そこまでは。
1日で覚えれますし、ワンポイントなんてすぐなので。
刺したらそれを業者さんがコースターなどに仕立てます。
興味なくても一瞬です。
酒井:
(他の青森の伝統産業である)「津軽塗」を習ったりもするんですか?
夏次郎さん:
「津軽塗」の講習はないです。
ただ、誰の家にも必ず津軽塗のお椀か、お盆か、お箸があります。
酒井:
僕もお箸を持ってます。
夏次郎さん:
津軽塗ですか。
私、生まれて津軽塗以外使ったことないです。
酒井:
かっこいい。
夏次郎さん:
柄が特徴的なマーブルというか、割と好き嫌いが分かれる塗りなんですけど。
酒井:
青森の地場産業は、津軽塗とこぎん刺しと……
夏次郎さん:
あと何だろう、ヒバとか。
酒井:
そうか、ヒバ。
夏次郎さん:
黒石に行くと、こけしも作ってますし。
酒井:
こけし。
その中でも高校で習うのは「こぎん刺し」。
お手軽だからですかね。
夏次郎さん:
そうだと思いますよ。
「こぎん刺し」一色のスタバ、弘前店。
酒井:
夏次郎さんは高校で1回しかやってない。
1回しかやってないのに、それが今仕事になっているわけです。
夏次郎さん:
そうですね、はい。
楽しかったんでしょうね。
酒井:
1日だけなのに、覚えてるんだ。
夏次郎さん:
その授業のすぐ後に、もう1回始めたんです。
友達にプレゼントするために「こぎん刺し」の印鑑ケースみたいなものを作りました。
酒井:
僕もそれ欲しいな。
夏次郎さん:
あるのかな、加工場。
昔は街に、布さえあれば小物を作ってくれる加工場がたくさんありました。
青森市の方は廃れてしまってもうないですけど、
弘前は工芸をとっても大切にするので、まだあるかもしれません。
スターバックスみました?「こぎん刺し」一色なんですよ。
酒井:
スターバックス?どこにあるかわからなかった。
駅の向こう?
夏次郎さん:
駅の向こう。
ソファーに「こぎん刺し」バーっとあったりとかして。
こっちの人たちは「こぎん刺し」ほんと大切にしています。
酒井:
もう少し大切にしている具体的エピソードを教えてください。
夏次郎さん:
今となっては(こぎん刺し)皆さん気軽に作れますけど、
10-20年前は昔から伝わる“紺に染めた麻地に、生成りの糸”が本当ベーシックで、それしか「こぎん」じゃないっていう感覚でした。
でも今どんどん変わってきてて、弘前のお店とかでも、赤とか青とかの「こぎん刺し」の小物を展示販売してたり、
ストールとかシャツとかにラインで刺したり。
そういう新しい「こぎん」が弘前はすごく盛んで、おしゃれなこぎん刺しいっぱいあります。
酒井:
伝統を守るというより発展させたり、あそんだりして、大切にしているってことですね。
基礎知識「こぎん刺し」のルーツ。
酒井:
王道の、絹に生成りのこぎんはもうなくなりましたか。
夏次郎さん:
作り続けている職人さんはいます。
紺地の麻は「からむし」といって、とても貴重なものです。
からむしを作る人あまりいないんですけど。
酒井:
からむし?
夏次郎さん:
「からむし」というのは、イラクサ科の植物の「芋麻」から糸を紡いで織った「からむし織」のことで、それを藍染したものがこぎん刺しに昔から使われていた布です。
昔、政策で農民は麻しか着れなかったんですよ。冬はさすがに寒すぎて死んでしまいますので、何も染めてない生成りの糸を麻の生地に刺すことで防寒にしていました。
そういう野良着とかを作っていたのが一番最初。今もその当時の色や質感、素材を大切にしている人たちもいます。
酒井:
こぎん刺して厚くするってことですね。
で、ただ刺すのもなんなので幾何学模様でお洒落にしたのが「こぎん刺し」のルーツ。
でも、今はわざわざそんなことしなくても、あったかい服たくさんある。
それを買う人って、どんな人なのかな。
夏次郎さん:
野良着としては使わないのは当然なので、
それがだんだん小さくなり、例えばテーブルに。
酒井:
なるほど。
夏次郎さん:
着るものからは脱却してしまって、コースターとかランチョンマットであったり。
一度規模は縮小したんですが、今はカラーがどんどん増えてきて、クッションカバーやベットカバー、ストール、帽子……。
アイテムが増えて、また着るものとしても広がりつつある感じですね。
やっぱりお手軽な手芸という域は、お教室なども流行っているせいもあって、まだ脱却しきれていない印象。
酒井:
なるほどね。
紺に生成り糸のベーシックな「こぎん刺し」。
夏次郎さん的には、それをずっとやっている人が「こぎん刺し」界では『本流』みたいな。
夏次郎さん:
本流だと思います。
酒井:
そうなりますよね。
今、いろんな色使ったり、教室で習ったりという様なムーブメント?
「こぎん刺し」のカルチャーが広まってるんですよね。
そんな中、『本流』の知り合いはいるんですか?
夏次郎さん:
いないです。私は高校で習ったきりなので。
大御所と呼ばれる先生が4、5人全国に散らばっていらっしゃるんですけど、誰かに師事するとかはしていません。
「こぎん刺し」に詳しい人が展示会に来られて「どこのお教室で誰に師事されて」とかよく聞かれるんですけど、
私、ほぼ独学でなので、伝統に沿ってるかと言われるとどうなんだろうなという。
酒井:
うんうん。でも大御所に師事したら、沿ってるってことになるのも、またちょっとね。
夏次郎さん:
箔じゃないかな、大先生についたとか。
でも習うことも大切なことだと思います。
酒井:
そうですね。
先生が見てきた景色を弟子にも伝えているはずだし。
で、ちょっと話を戻しますが、結局、夏次郎さんは「こぎん刺し」を高校で習って、友達に作ってあげて、
そこからずっとやってるってことですか?
夏次郎さん:
ちょっと間があいて、結婚を機に青森を出た時に、なんだろう。
酒井:
どこへ行ったんですか?
夏次郎さん:
最初は仙台。
でなんだろう…… 端的に言うと、地元のモノになんとなく触れていたいなという気持ちがあって、
前好きだったこぎん刺しをやってみようかなと。
やってるとだんだん楽しくなってきて、じゃあもっとこだわってみようとなって。
で、売れるんじゃないかというところまでいって。
酒井:
はじめは売ってなかったんですか?
夏次郎さん:
売ってなかったです。
酒井:
自分で使っていたということですか。
「こんなのこぎん刺しじゃない」と言われた時代。
夏次郎さん:
はい。自分で使っていましたね。
どこで売ったらいいのか分からないし、
私が始めた頃は、本流の本津軽のこぎん刺しがまだまだ主流だったので
「こんなのこぎん刺しじゃない」
「こんな色じゃない」
「こういう小物類って……」
ていう時代だったんです。
今は全然違いますけど。
酒井:
それ何年ぐらい前の話なんですか?
夏次郎さん:
始めたのが2012年。
その頃はまだ閉鎖的だったので、青森に持ってくると
「こんなのこぎん刺しじゃない」とか言われました。
もっと言うと、私は青森市出身で弘前じゃないから
「あなたのちょっと違うわね」とか。
酒井:
ちょっと待って、質問。
「こぎん刺し」は弘前のものなんですか。
夏次郎さん:
弘前も、なんですけど、青森市は違うんですよ。
「こぎん刺し」は3箇所ぐらい発祥地があって、それぞれにちょっと作りが違います。
野良着の肩に線が入っているとか。
酒井:
肩に線。
夏次郎さん:
「みしまこぎん」ていって3本線が入ってるやつとか、地域によって模様が違って、弘前もその1つなんです。
酒井:
全部青森県?
夏次郎さん:
青森県内です。
でも青森市は違う。
始めたばっかりの頃は「青森市の人が作ったなら、本当のこぎんじゃないよね」っていう時代だったんですね。
酒井:
なるほど。
夏次郎さん:
大変苦労しました。
なので、ちょっと青森から離れて、東京で年に1回あるクラフトイベントに出しはじめました。
何年かそこで雑貨ばかりやっていたんですけど、その頃に「こぎん刺し」が青森市とか弘前関係なく、
本流も何も関係なく、みんなが楽しめるお手軽工芸に変わったので。
酒井:
変わっていったんですね。
夏次郎さん:
変わって、作家が飽和状態になったので、私は鼻緒だけにしました。
酒井:
!今めちゃくちゃ早送りましたね。
夏次郎さんがいろんな色で「こぎん刺し」やりだした時は、
夏次郎さん:
そういう人はいなかったですね。
酒井:
一応、革命ですよね。
夏次郎さん:
いやどうなんですか、
酒井:
小さな革命です。
青森から遠く離れたところで。
結局、刺繍なんて、誰でもできる。
夏次郎さん:
多分、他の人達もやり始めてたと思うけど、みんな本流じゃないと言われていた。
それがだんだん分母が増えるに連れて、徐々にいろんな色があってもいいねっていう流れ。
酒井:
それってインスタの影響は、ありますよね。
と思います。
酒井:
みんな写真撮って、かわいいいねって言って、どんどんムーブメントが大きくなっていった。
夏次郎さん:
と思います。
今はYouTubeもありますし、動画見れば誰でも出来ます。
後、都内でも材料が買えるようになっていったので。
酒井:
材料?
こぎんの針、違うんですか?
夏次郎さん:
ちょっと違います。
こぎんの針は普通の刺繍針よりでかいんですよ、先が丸くて刺さらない。
私はこぎん専用の広島針っていう針を使っています。
酒井:
針は広島ですよね。
夏次郎さん:
弘前にもこぎん針はたくさんあるんですけど、広島針の長さと細さ、リーチがぴったり。
私は好きですね、ちょうどいいんですよね。
こういう風に材料がいっぱい出てきて、みんなが使うようになればなるだけ種類も増えて。
私がオリジナルの布を作り出した時点で、津軽工房社さん(弘前)というラスボスみたいなところがあるんですが、
そこも多種多様な布を作り始めたんですよ。
ピンクや赤の布を自社制作し始めて、「こぎん刺し」界隈では布作りがトレンドになってます。
酒井:
「こぎん刺し」の小物が、流行っている昨今の状況を受けて、
夏次郎さんとしては、小物作るのをやめて、鼻緒に集中したということですね。
夏次郎さん:
はい。結局刺繍なんて誰がやっても行き着くところは天井が知れてるんです。
同じ道具、同じ柄を同じ材料で刺したら、どんなに上手な人でも行き着く先は皆同じです。
なので、これはプロの技だって明確なものは「こぎん刺し」の世界ではなかなか。
細かいものに刺すとか、工夫しないといけないんですけど
「こぎん刺し」って、あまり細すぎると織りと一緒になってしまう。
ある程度大きくないと手刺しの良さが出ないなって私は思うので、
もう他と差別化するには布しかないなと思って、織っていただくことにしました。
個人が布織ってくださいって機屋さんに言っても、
だいたい相手にされないんですけれど、播州織の会社の方はすごい親身になってくれました。
専門職が分業で作るから、付加価値がつけられる。
酒井:
鼻緒に集中してる夏次郎さんは、鼻緒自体の仕立ても自分でやってるんですか?
夏次郎さん:
いえ鼻緒の仕立ては、浅草の仕立て屋さんにお願いしてます。
酒井:
そうですよね、よかった。
やってるのかなと思ってビビりました。
やろうとしたんですけど、あれは本当に職人さんでないとできないことなので。
酒井:
僕らも職人さん、知ってますよ。
夏次郎さん:
でしょうね。
東京はもうあまりいらっしゃらないようです。
でも、全部自分でやると“付加価値”って付けづらいんですよ。
鼻緒屋さん、仕立て屋さん、下駄屋さん、塗る職人さんって分業して一つのモノを作ることによって、
正規の値段を付けることができるんです。
雑貨作っていた時代は、全部自分でやってるから半分商売にならないというか、
値段がつけられなくて。
酒井:
そうだったんだ。
僕は、その雑貨時代に夏次郎さんの存在を知りました。
3年に1度の芸術祭「青森トリエンナーレ」にデザインで関わっていた時、
市役所の物知りの永田さんという方に夏次郎さんのことを教えてもらいました。
夏次郎さん:
そうなんですね。
酒井:
「めちゃくちゃいいんですよ!」と永田さん。
夏次郎さん:
知ってくれてる方がいるのはありがたいですね。
酒井:
夏次郎さんの名刺入れを見せてくれた気がします。
夏次郎さん:
昔はオーダーメイドもやってて、ここ(CASAICO)で初めての雑貨の個展をしました。
それまではずっとクラフトイベントに出店していたので、初めてここで雑貨の個展やって終わりました。
雑貨は最初で最後の展示で。
鼻緒・夏次郎の理由。
酒井:
雑貨から、よりによって鼻緒に絞った理由ってありますか?
夏次郎さん:
もともと自分用のを作ってました。
他の作家と“違うことしなきゃいけないな”っていう時に、
こぎんの仲間だったりやCASAICOの葛西さんが「鼻緒だけの展示おもしろいですよね」と背中を押してくれたので、
良い機会だから鼻緒だけにしようと思いました。
壁中に鼻緒が並んでると、面白いと。
酒井:
今の状態ですよね、いやこれ面白い、面白いと思った。
夏次郎さん:
ありがとうございます。
私が自分用も片足ずつ作ってたので、同じように選んで履けるようにしたいと思いました。
百貨店の下駄売り場には『好きな鼻緒と好きな台をカスタムできます。あなただけの』って書いたりしていますけど、
それって履物屋さんが昔からやってきたことなので、何も特別じゃない。
カスタムと謳うなら、片足ずつ、片足ずつやってこそ面白いんじゃないかなって。
酒井:
うん。
「鼻緒屋」になってみていかがですか。
夏次郎さん:
一つに集中するっていうことは、それについてずっと考えていられるので良かったです。
下駄の形や台の素材・加工まで考えられるのは楽しいです。
あと意外と鼻緒って需要がありました。
こんなに見てくれる人がいるんだっていう。
酒井:
じゃあ結果として、鼻緒だけに絞って良かったって感じ?
夏次郎さん:
そうですね。
酒井:
展示は一年に何回ほど
夏次郎さん:
1年に2~3回
酒井:
CASAICOさんで?
夏次郎さん:
CASAICOさんは2年おきですね。
あとは都内とか、その都度お話しをいただいたところ。
今年は大阪の履物屋さんが東京に出店したんです。その時は百貨店内なので平置きなんですよ。
やっぱり、これ(壁中に鼻緒)が本来の姿なので平置きだとちょっと。
酒井:
夏次郎のやりたい とは少し違う。
夏次郎さん:
壁に釘、打ちたいんですよ笑。
皆が鼻緒を手にとって、もどして、とって、もどして……してる様を見てるのが好きなんです。
酒井:
夏次郎とWLK、KYOTO T5、何か一緒にできそうです。
夏次郎さん:
前の年ぐらいに言っていただけると。
1年間かけて100足が限界。今回140なんですけど。
大抵は前の年にお話しをいただいて、1年間頑張ってそこに持っていくって感じです。
来年はもう埋まってて、次の年からまだ予定ないですね。
酒井:
了解です。とにかく壁中に鼻緒が並べられたらいいんですよね?
夏次郎さん:
はい、このスタイルで。
壁中鼻緒だらけ。
釘で打てるスペースが見つけられたら、ご一報いただけたらそのために100足作ります。
50でもできるんですけど、この半分になってしまいます。
スペースによっては50でもいいですけど。これぐらいあったほうが。
酒井:
夏次郎好み。
知らなかった、HAMAO SHOES。
酒井:
HANAO SHOESのこと知らなかったでしょ?
夏次郎さん:
知らなかったです。
でもHANAO SHOESではなくて、鼻緒のキャップを売ってるのを見たことがあって。
酒井:
!なんで!笑
それもう売ってないな~。
夏次郎さん:
鼻緒は足だけのものと思ってたので、
そんなところにも付けられるだと、凄い印象に残ってます。
それで、私も他にできないかなと思って、職人さん達とiPadぐらいの大きさのカバンに鼻緒つけて、
手で剥いて持てるもの作ったんですけど。
なかなか素晴らしい影響を受けました。
まさか帽子につけるとは。
酒井:
ちなみにiPhoneケース裏に子供用鼻緒付けたらすごく持ちやすいんです。
妙なとこにつけてみると、意外な発見あります。
僕らも京都で、当初あんないい加減な物を作ったら
何を言われるか分からんと思って怖かったんですよ。
夏次郎さん:
そうなんですか、そんなことあります?
酒井:
やっぱり京都ですから。
様々な工芸の本流が、みんないる街じゃないですか。
夏次郎さん:
インパクト大な分、怖いということですね。
酒井:
現在は足が悪くなって草履履きたいけど履けないみたいな、
お茶の先生などにも支持いただいてます。
夏次郎さん:
お着物にも合いますよね、インスタで拝見しましたけど。
靴なのに鼻緒が出てて、着物からチラッと見える。いいなと思って。
年代問わずいろんな人が買ってるから、すごい。
工芸だと思わないで、ただ手段が工芸だっただけ。
酒井:
そういえば、下駄のボディ(本体)の部分は
津軽塗の職人さんとコラボしてる話をするのを忘れてましたね。
夏次郎さん:
下駄本体はずっと大分県の日田市にある工房さんに作ってもらっています。
今年からまた新しく半分八角形、半分丸のドッキングしたような新しい形の。
「ナーモケネ」って名前です。
酒井:
えっと、なにもけで?
夏次郎さん:
「ナーモケネ」です。
伸ばします。
津軽弁で『ザッツオーライ』みたいな。
鼻緒専用の布も「イデヴァ」も、『いいじゃん』っていう軽い褒め言葉、祖母の口癖です。
酒井:
イデバ
夏次郎さん:
そうです。
オリジナルのデザインです。
布も下駄もオリジナルです。
半分だけ津軽塗の下駄も私だけだと思う。
なんかぶった切りのデザインが好きなんですよ、突然変わってるのが好きで。
酒井:
夏次郎さんのにとっての、伝統工芸・文化、産業ってどういう存在なんですか?
夏次郎さん:
工芸の発展であったり「こぎん刺し」の普及であったりは私は関係がなくて、楽しいからやってるのが第一だし。
こういうの履きたいとか、こういう下駄欲しいとか、自分の欲求がまずあります。
楽しくないと続けていけないので。
一番最初に鼻緒をつくった時のノベルティーが、あの手ぬぐいなんですけど……
酒井:
けっこうかっこいいです。
夏次郎さん:
私コモドドラゴン好きで、描いてもらったんですけど、
コモドドラゴンが降ってくる伝統的なモノ食べて。
酒井:
そういう意味があったんですか。
夏次郎さん:
夏次郎商店の中でぐじゃぐじゃに粉々になってるんですけど、
ちょっと言葉悪いですけど食い物にしつつ、夏次郎商店も粉々に、
お腹の中でいっしょくたになって生まれたのが夏次郎の鼻緒っていう。
昔から使われてるとか、次世代に繋げるとかあんまり考えてないですね。
私が楽しいと思うものを同じように楽しんでくださいってだけの展示なので。
工芸だと思わないで、ただ手段が工芸だっただけ。
酒井:
ものすごいこだわってますけどね。
だけ、とか言いながら。笑
夏次郎さん:
こぎん刺しにこだわりつつ、やっぱ青森好きなんで。
ちょっと高くなりますね。
それでもいいっていう方に履いていただけたら。
今年の展示は、さらに+スニーカーなので、盛り沢山。
酒井:
葛西さんが僕らに声をかけてくれて、ですよね。
夏次郎さん:
それをOKしてくれてっていうのがすごく大きいと思います。
これってこのスニーカー、白こだわりなんですか?
酒井:
国産のスニーカーっていうのはこだわりです。
ていうか、鼻緒を付け替えできるHANAO SHOES、以前BEAMSさんが一緒に作ってくれたんです。
映画の寅さんのグッズとしてBEAMSが企画した。
夏次郎さんの鼻緒も付け替えできたらいいですよね。
夏次郎さん:
確かに。
私の「夏次郎」は『寅次郎』から来てるんですよ。
寅さん大好きなので。
酒井:
ほんと? じゃあすごいね。
HANAO SHOESで外国行ったらめっちゃ話しかけられますよ。
夏次郎さん:
だと思います。
最初、鼻緒とキャンバス地を合わせた時、良くてびっくりしました。
刺繍ってちょっとゴテゴテするから、一瞬心配したんですけどそんなことないなと思って。
酒井:
この先、新しく考えてることありますか?
夏次郎さん:
この先は布の色数を増やしたいのと、後は何だろうな。
新しい布1年目なので、まだ全然慣れてないので布に馴染むっていう。
最近インスタで外国の方に話しかけられることが多くて、サイズ展開を増やさないとなと思っています。
あと子供下駄、かわいいですよね。
みんな、すぐ大きくなるからいらないって言われるんですけど。
酒井:
子ども靴はね、サイズアウトが早すぎる。
親は子どもの靴にお金かけてられない。
仕方ない。
夏次郎さん:
でも小さい鼻緒、こんなにかわいいんだから、鼻緒の帽子じゃないですけど、
もうちょっと鼻緒を他のことに使えたらいいのになあとね。
酒井:
僕も考えよう、夏次郎と一緒に作る製品。
できる!鼻緒って、指通すと気持ちいいですからね。
酒井:
はい、こんなところでいいかな。
いいよね。インタビュー。
夏次郎さん:
私もそんなに有意義なお話できなく。
酒井:
めっちゃ有意義なお話でしたよ。
夏次郎さん:
そう言っていただけると。
取材の度、いつも首を傾げられて。
酒井:
笑 大体インタビュアーって、何もわかってないなーって思うことばっかりですよ。
ときどきはこの人めっちゃわかってる!って人がいて、その時は楽しいです。
夏次郎商店いぱだたを履く展 vol,5
会期 2022 年4 月30 日-5 月8 日
時間 10:00-17:00
場所 gallery CASAICO
夏次郎さんとのお話会を終えて
肝心の「こぎん刺し」の何がそんなに気に入って、仕事にしてるのか
を聞き忘れたなと思います。
人は作ることが好き。作り出して残すことが好き。
海に行って、海岸に穴を掘ったり、山やお城を作ったりするのが好き。
だから、「こぎん刺し」という、お手軽な刺繍工芸にハマる人たちの気持ちは、
誰でもなんとなく分かるんじゃないかと思う。
無心で手を動かして、気がついたら模様ができてる時は嬉しいに違いない。
でも、別に「こぎん刺し」でなくてもいいわけで、編み物、塗り物、木工でもいいわけで。
どうして夏次郎さんは「こぎん」だったのか、
何に魅力を感じている(と本人は思う)のか、もっと聞いとけば良かったナ。
次会ったら聞こう。
特に伝統を次世代に残すとか、伝統に携わっている自負とか
夏次郎には、なく、「ただ自分が欲しいものがないから作っている」と言っていた。
しかしながら展示の企画者・ギャラリー『CASAICO』の葛西さんに言わせると
「夏次郎さんは“こぎん” だけでなく、青森のブランドにも貢献してる」のだそうで、
本人の意思とは裏腹に、本末転倒、ちゃっかり“こぎん” の持続可能性に貢献している。
残そうとすると、
守ろうとすると、
それらは、閉じて、弱るのでしょう。
そんなことはお構いなく、私がやりたいから勝手にやっている、
守るとか、残すとか、そんなの知らない
という人が出てくると、それらは強くなるのでしょう。
前時代的な協会や同業者のグループを作って群れるのではなく
そういう個人を生み出せるかどうかが
伝統産業の持続可能性の肝ですね。
一人では何もできなそうな社会ですが、とはいえ
一人が一番気軽で自由。
結果として、風が追い風になるんかな。
そうだよね、買い物は一人で行くに限ります。
酒井洋輔
KYOTO T5センター長、酒井先生がブラブラする。
#01
文・撮影:
酒井洋輔
夏次郎商店 Instagram:
@kogin_natsujirou
ギャラリーCASAICO Instagram:
@casaico
僕はそんなに知りませんでした。
最近の「こぎん刺し」は、洒落ててかわいい。
その“最近”の流れをつくった第一人者・夏次郎商店さんと
WLK の HANAO SHOES がコラボする
ということで、せっかくの機会なので青森まで行ってきました。
夏次郎のこぎん刺し鼻緒を HANAO SHOES にすげる企画。
会場は、弘前市(ひろさきし)のギャラリー CASAICO。
寒かったけど、行った甲斐がありました。
・こぎん刺し作家・夏次郎さん(写真NG)と
・ギャラリーの葛西さん(写真OK)と
お話した記録をここに公開します。
弘前のこと、こぎん刺しのこと、青森の伝統産業のこと など。