「青森県弘前市」編
でも、個人の力では何にもできないしと考えてた
酒井:
葛西さん、なにやら、青森の伝統産業を盛り上げたい、
お気持ちがあるという風にお聞きしましたけども。
どうしてそんな風に思い始めたのですか。
葛西さん:
私、仙台市出身で、大学が漆塗りコースに行ってたんですね。
そこで漆塗りを始めて、6年山形でやって、その後実家の宮城に戻って1人で工房やってたんです。
まあ作家活動です。自分で作って販売して。
酒井:
えっとそれは漆の?
葛西さん:
はい。
色々ちょっと造形的なものとか作って、個展するのと並行して漆教室もやっていて、もう24歳くらいから今も続けているんですけど、そんな時に結婚することになって、その旦那が弘前出身だったんです。
酒井:
うん。
葛西さん:
それで30歳手前で嫁いで弘前に来ることになりました。
漆を学ぶ中で、産地の在り方をちょっと考えながら制作したりしてたんです。
産地がどこも大変そうだなーとか思いながらでも、個人の力では何にもできないしと考えてたんですけど、弘前に来て、こっちは津軽塗りのおっきい産地なんですよ。
私の大学の恩師がもともと津軽塗の研究をしてた方なので、学生の頃から津軽塗には縁を感じていたんです。
そもそも大学に入って、漆コースを選ぶ時に津軽塗がきっかけだったんですよ。
酒井:
うん。
葛西さん:
津軽塗の漆っていうと赤とか黒のイメージしかなかったんだけど、実はすごく多様な色模様があって、
それを18歳の時に初めて見て、うわぁこれ可能性あるとも感じたし、メタリックな表現もできるし。
恩師も津軽塗、で、まさか、出会った人が津軽の人。
みたいな感じで、これは津軽塗に呼ばれたとしか思えない。やっぱりご縁だったんですよ。
酒井:
じゃあ旦那さんも漆の?
葛西さん:
はい。同じ大学の漆の先輩です。
今は全然やってなくて、普通の仕事してるんですけど。
酒井:
そうなんですか。
葛西さん:
こっちに嫁いできて、15年くらい経つのかな?
最初は、お店もギャラリーもないようなところで
ちょっとつまんないなと悶々とした数年感を過ごして。
「あ、そう思うんだったら、似たような趣味の人が集まれる、場所を自分で作ってしまえばいいや」と思ったんです。
漆塗りの教室も仙台だけでなく、こっちでもやりたかったので、じゃあ教室メインにしようと。
あとは、間口広げるために漆器も販売できる雑貨屋兼ギャラリーもやろうみたいな感じで、ここ(CASAICO)をオープンしました。10年くらい前に。
酒井:
ここは元々、葛西さんの土地だったんですか?
葛西さん:
あ、ここは賃貸です。
ちょうど空き物件だったので、自宅も近いし、やるならここしかないなって思って。
酒井:
リノベーションして。
葛西さん:
そうです。なにもない倉庫だったので、壁作ったりして。
そういう風にすれば友達もできるかなと。でも、ここは津軽塗の産地だから作家も職人も、津軽塗の人しかいないんですよ。だから最初はどう思われてるか、なんとも……。
酒井:
ね。
10年経って、
ようやく職人達が集まって来るようになりました。
葛西さん:
で、最初ここオープンする時に、津軽塗の若い職人さんを誘って一緒に工房シェアできないかなって思ったんです。
最初声かけたんだけど、やっぱり怪しまれてるからか、話は聞いてくれるんだけど、誰も入ってくれなくて。
何年か経ってからやっと1人男の子がぜひシェアしたいですって言ってくれて、それから津軽塗の同世代の職人さん達とちょっと繋がりが出来てきて。
酒井:
うん。
葛西さん:
まあ10年経って、ちょっとの飲み会だなんだってやりながら、信頼関係ができて「葛西さんは怪しくないな」と分かってくれた感じです。
それで、ようやく職人達が集まって来るようになりました。
酒井:
おーーよかった!
葛西さん:
みんな個人的には頑張ってるけど、もっと産地全体を盛り上げたいって、それぞれが思ってたみたいで。
うちに集まってきて、なんとかしませんか?なんとかしましょうよみたいな感じで。
それで去年若手職人の組織みたいなものを作りました。
酒井:
そういう流れで組織ができたんですね。
若手の会。
葛西さん:
若手の会です。上はいっぱいいるんですけど。
酒井:
ですよね、上の世代の組合は、当然ありますよね。
葛西さん:
あります。
会はあるんだけども、機能してるんだかしてないんだかで……。
何処もそうなのかもしれないんですけど、しがらみがいっぱいあるんですよ。
酒井:
そうですね、はい。
葛西さん:
それにも若手職人も結構うんざりで。
酒井:
うん。
まず、職人だけの組織しかなかったのが問題
葛西さん:
みんな仲悪いと言うか、足を引っ張りあい……。
上の世代も、最初は仲良かったんでしょうけども。
若手はそういうことはしたくないって思っているので、
どうして今まで色々頑張ってきて、実績もあるのに、こうなっちゃったのかなと意見出し合ったんですね。
酒井:
うん。
葛西さん:
まず、職人だけの組織しかなかったのが問題です。
職人は作るしか出来ないので、作る以外をサポートすることができる人、それこそ、Whole Love Kyotoみたく、デザインのこととか、それぞれの専門の分野の人を引っ張ってこないと。
酒井:
素晴らしい気づきですね。
葛西さん:
そうでないと産地のプロデュースはできないよねって。
酒井:
青森から集めたんですか?
葛西さん:
青森の、この辺の人たちを引っ張ってきて、今やっと組織として出来上がってきてるんですね。
昔の組織は、職人だけの組織だったからうまくいってないけど、大学の先生とか、外部の視点が入ってくれれば喧嘩も起きないんじゃないかな。
酒井:
うん、簡単によくなる姿が想像できます。
葛西さん:
津軽塗の多様な色と模様もあんまりPRできてないので、まず情報の整理が必要です。
津軽塗の玄関口みたいな情報の整理をしていく。
酒井:
どんな道具使ってますとかですね。
葛西さん:
そうなんです。
道具もいっぱいだし、ホームページにほとんどに書いてないので、そういうところから。
私が多分一番やりたかったことがそれなんですよね。
津軽塗りに縁を感じて進んできて、その時できることをずーっとやってきて、10年経って、今だったら職人さん達や産地と外部をつなげたりできるかもって思って。
産地を具体的にどう盛り上げればいいかさっぱりわからないんですけど、とりあえず動こうと。
酒井:
うん。
葛西さん:
恩返しじゃないんだけど、自分の作品作るよりも、なんかこう、産地のためとか、津軽のためになるようなことしたいって。
思ってたのが、やっと形になりそう、始動し始めたなみたいな。
酒井:
そのプロジェクトがこのタイミングでスタートしたんですね。
葛西さん:
そうなんですよ。
でも、それも期間決めてやらないと、ダラダラいきそうなので
とりあえず、今年から10年間は津軽塗を広める活動をやろうかと。
そんな時にHANAO SHOESを見たんですよ。
酒井:
いいタイミングでHANAO SHOESが出てきた。
葛西さん:
お話を伺って「あっ凄い」と思いました。
ちょうど私も地域と学生をつなげることを考えていて。
若い子達に活躍してもらわないと、続いていかないので、津軽塗もそういう活動がしたいと思っていたので。
逆に私が酒井先生に聞きたいことがたくさんあります。
外部の人を代表にしとけば喧嘩にならない気がして。
酒井:
始まったプロジェクトがとても興味深いですね。
もう少し細かく聞きたい。
今まで職人さんだけだったから、うまくいかなかったという気づき。
今、若手の会のメンバーにはどういう方が入っているのですか?
デザイナーもいるんですか?
葛西さん:
まず会の代表を大学の非常勤講師の子にしました。
漆塗りについてめちゃくちゃ詳しいんです。
酒井:
どこの大学の講師?
葛西さん:
弘前大学です。
そういう人を代表にしとけば喧嘩にならない気がして。
あとは、んーと弘大の農業系の先生も。
酒井:
農業?
葛西さん:
漆は塗るだけじゃなく、栽培や漆を採ったりします。
漆の木と人との関係性とか、そっちに興味がある先生が
自分の研究の一環としてできそうだからと会に入ってくれたり。
あと、グラフィックデザイナー、芸工大卒の移住してきた子をちょっと入れたりとか。
津軽塗販売をしていた人もいます。
酒井:
営業の人。いいですね。
葛西さん:
あとは、職人さん達に津軽塗を依頼してるシルバーアクセサリー屋さんとか。
酒井:
かなり多様ですね。そんな感じ、プラス職人さん?
葛西さん:
プラス職人さん達が10数名。
だから総勢で今22人くらいです。
酒井:
なんという名前の会なんですか?
葛西さん:
「津軽漆連」っていう会です。
酒井:
ちょっと、古風な、名前ですね。
葛西さん:
意見出し合って多数決で決めるとそうなるんですよ。
職人多いと。
酒井:
変えた方がいいんじゃないでしょうか……。
ウェブやインスタアカウントはありますか。
葛西さん:
今作ろうとしていて、情報を色々話し合って、こんなの載せたいと決まったんですが。
やっぱり、予算が一銭もなくて、一人ずつ会費集めて、今、ちょうどウェブサイトを作り始めるところです。
酒井:
行政の補助金などは、取れそうですけどね。
葛西さん:
おっきい補助金て親玉の「漆の組織連合会」が全部とっていくんですよ。
酒井:
んー、そうなるか。
親玉の会は、これまでずっといろんなことをやってきたけど
結局、衰退を回復できていない。
概ねどの産地もそうなんでしょう。
葛西さん:
うん、そう。
酒井:
もうこれ(若手の会)に賭けるしかないです。
葛西さん:
そうですね、連に賭ける!
だって補助金を『50%オフでセールします』とか、そういう企画に使っちゃうんです。
一般市民に還元とかって言って。
酒井:
若手の会でいいもの作って、あとは販売する場所づくりですかね。
インスタで良さそうですけど。
葛西さん:
そうですね、でもインスタもみんな得意じゃなくて……。
酒井:
そっか、カメラマンがいるのか。
葛西さん:
あ、そうなんです。
一番はカメラマンで、そこもまだ見つからなくて。
酒井:
そのカメラマンはフットワーク軽くないと務まりませんね。
職人さんが10以上。工房毎日回らないといけないし。
ところで、お節介ですが、うちのKYOTO T5の活動概要は僕がzoomで皆さんにレクチャーすることはできますよ。いつでも言ってください。
葛西さん:
あ、本当ですか。
酒井:
はい、参考になることもあるかなとも思いますし、少なくとも刺激にはなると思います。
葛西さん:
私もKYOTO T5やWhole Love Kyotoの活動のこと、きちんと分かってなくて、いろいろお聞きしたいんです。
酒井:
ええ、それはまあ、後ほど。
葛西さんのインタビューはこれくらいでいいかな?
産地をなんとかしようとする「若手の会」の設立までの、とても正直な流れでした。
ありがとうございました。
夏次郎商店いぱだたを履く展 vol,5
会期 2022 年4 月30 日-5 月8 日
時間 10:00-17:00
場所 gallery CASAICO
CASAICOの葛西さんとのお話会を終えて
お話した次の日に、以下のメールが葛西さんより届いた。
本人は「大事なこと説明していない!」と思ったらしいですが
僕はそんなことないと思った。
以下のことは、うん、だいだい全部聞いた(と思う)話。
心配性の葛西さん、言い方を変えると「ちゃんとしてる人」「詰めが甘くない人」
ということになるのかな。
プロデューサーとかマネージャーって、めんどくさがらず、相手を信用しすぎず
こういうメールをちゃんと送れる人であってほしい。
– – – – – – – – – – – – – – – –
当ギャラリーは(当店は)漆塗り工房を併設するイベントギャラリーです。
漆教室の間口を広くするためと、
全国にいる素敵な作家を弘前でも紹介したい
と思い企画展スペースを用意しました。
(心の中ではいまいちの作品を作る津軽塗の職人の「目の肥やし」になればと思い笑笑)
アートや工芸が日々の暮らしに溶け込むことを目指し
絵画や版画、工芸やファッション小物など、
ジャンルにこだわらず当店が注目する作家を紹介しています。
シンプルで使いやすいものより、
ちょっと個性的な作品を紹介することが多いです。
今でこそ、夏次郎さんのように
自由にこぎん刺しをしている方がたくさんおられますが、
10年前にはまだ、カラフルなこぎん刺しはあまりありませんでした。
夏次郎さんも制作当初はご苦労されたかもしれませんが、
当店ではその頃から、
夏次郎さんの作品を販売させてもらっていました。
伝統をしっかりと重んじつつ
オリジナリティがしっかりとある夏次郎さんのこぎん刺しを初めて見た時は感激しました。
女性向けではなく「男性に」というコンセプトもありそうでなかった視点で素晴らしいと思いました◎
名刺入れやマフラーなどの小物の制作
2wayバッグやスニーカーにこぎん刺しをする新しい挑戦などをされていて、
発売と時から当店では「超超超人気」でした。
そんな中、ある時から「鼻緒専門」のこぎん作家になると伺い、
5%くらい残念な気持ちもありましたが、
勇気ある決断にとても刺激をもらいました。
想像通り、鼻緒専門作家になっても
夏次郎さんの人気は衰えませんでした。
1回目の展示会の時は、
鼻緒をすげてくれる履物屋を探すところからはじめました。
今は履物屋が少ないので、「会場で鼻緒をすげてもらえる」
という安心感は絶対条件でした。
地元の履物屋は1軒しかなく、ご高齢ということで出張はできないと言われたため、
「秋田の和装履物・小物加藤さん」に頼みました。
2回目は全体的に「異常な」人気でした。
100足分の鼻緒はほぼ完売。
1回目でだいぶ話題になったことから、
今回は夏次郎鼻緒を手に入れたいというお客さんがたくさんみえました。
また、下駄や草履などのバリエーションも増やしました。
(夏次郎さんのものプラス加藤さんの下駄など)
夏次郎鼻緒をきっかけに、
下駄を履いてみようという気持ちにさせてくれる鼻緒の威力の凄まじさを感じました
今回3回目を開催するにあたり
夏次郎鼻緒は欲しいけれど、
下駄は履かないのよね~というお客様も多かったので、
何かいい案はないかと考えていた時に、
「HANAO SHOES」のことを知りました。
次回はこれしかない!と思いましたが
「京都の鼻緒で京都で販売」というコンセプトを見ていたので、
1年間悩み……
断られることを覚悟で、Whole Love Kyotoさんに問い合わせたところ
OKのお返事をもらい、開催に至りました。
本当は次回4回目もお願いしたいと思っている所存でございます笑
今回で鼻緒シューズの存在を知り、
買うのは次回という方の方が多いような気がしています。
現在15足くらい動いています。
やはり初見では皆様「私には無理」と思う様ですが、
鼻緒シューズの試着まで持っていければ
「案外普通にイケる」と感じるようです。
いい巡り合わせだったと本当に感謝しております。
ありがとうございました!!!
夏次郎さんの活動はもはや「鼻緒、履物業界」「こぎん刺し界」だけではなく、
青森そのものの魅力を底上げしてくださっているように感じます。
これからもたくさんの挑戦をされると思いますが、心から応援します。
以上長々と失礼いたしました。念の為……
今後ともよろしくお願いいたします。
– – – – – – – – – – – – – – – –
はい、こちらこそよろしくお願いいたします。
また2年後、楽しみにしています。
次はラーメン食べに行きたい。
酒井洋輔
KYOTO T5センター長、酒井先生がブラブラする。
#02
文・撮影:
酒井洋輔
夏次郎商店 Instagram:
@kogin_natsujirou
ギャラリーCASAICO Instagram:
@casaico
僕はそんなに知りませんでした。
最近の「こぎん刺し」は、洒落ててかわいい。
その“最近”の流れをつくった第一人者・夏次郎商店さんと
WLK の HANAO SHOES がコラボする
ということで、せっかくの機会なので青森まで行ってきました。
夏次郎のこぎん刺し鼻緒を HANAO SHOES にすげる企画。
会場は、弘前市(ひろさきし)のギャラリー CASAICO。
寒かったけど、行った甲斐がありました。
・こぎん刺し作家・夏次郎さん(写真NG)と
・ギャラリーの葛西さん(写真OK)と
お話した記録をここに公開します。
弘前のこと、こぎん刺しのこと、青森の伝統産業のこと など。