みなさんはお祭りの魅力ってどんなところだと思いますか?人によっては「非日常的な体験」だったり「文化や伝統が間近で見れる所」だったり、食いしん坊な人は「屋台飯!」なんて答える方もいるかもしれません。
そのどれもがとっても素敵なお祭りの魅力だと思いますが、お祭りが好きで、これまでたくさんのお祭りに参加してきた私が満を持して語りたいお祭りの魅力がひとつ、あります。
それは、「お祭りを支える“普通”の男たち」の姿。
なにそれ?って思いますよね。プレゼンさせてください。

日本三大祭りの一つにも数えられる祇園祭。7月に入ると関連行事が始まりますが、その中でも最大の見どころは17日と24日に行われる山鉾巡行ではないでしょうか。室町時代から伝わるとされる海外由来のタペストリーをはじめとした懸装品(けそうひん)や、きらびやかな装飾が施された山鉾が京都の街を練り歩く様子は「動く美術館」と呼ばれるほど美しく、目を引きます。西陣織や錺金具、彫刻や刺繍など、京都が誇る伝統技術の粋を凝らして作られた装飾もぜひ注目していただきたい見どころの一つでもあります。
しかし、今回注目したいのは山鉾ではなく、そんな山鉾を動かす「曳き手(ひきて)」や「舁き手(かきて)」と呼ばれる人たち。
服装は、基本的には「笠、法被(はっぴ)、白い短パン、わらじ履き」というシンプルなスタイルですが、山鉾によってバリエーションは様々です。特に法被の背中の紋や文字・模様に各山鉾の個性が表現されていておもしろい!
本記事では山鉾巡行を支えるかっこいい祭男たちの背中を見ながら、各山鉾の個性豊かな魅力が詰まった法被の意匠を紐解いていきたいと思います。
今回は、前祭で巡行が行われた山鉾23基の曳き手さん、舁き手さんたちの背中を、取材を行った2025年の巡行順にご紹介していきます。
取材を行った2025年の祇園祭・前祭(さきまつり)の山鉾巡行はあいにくの雨でした。しかも警報級の大雨。そんな中でも、祇園祭は雨天決行。曳き手さんたちは傘をさすことができないため、ずぶ濡れになりながらも山や鉾を動かします。今回は、そんなお祭りに関わる熱い男たちの背中を見ることで、お祭りの魅力を再発見していただきたいです。

長刀鉾(なぎなたほこ)
先頭はもちろん、「くじ取らず」の長刀鉾。これくらいの大きな鉾は、40〜50人ほどの曳き手さんが参加しているようです。重さ約12トンといわれる大きな鉾を動かすのを見ているとその迫力に感動します。
占出山(うらでやま)
雨天のため、今年はレインコートを着ての巡行だったため、昨年の写真を使用しています。
土砂降りの雨の中でも、雨や汗でずぶ濡れになりながら大きな鉾や山を動かす男たちのかっこよさ、本当に尊敬します。
霰天神山(あられてんじんやま)
こちらも占出山同様、昨年の写真を使用しています。
先祭ではもう一つ、同じ「天神山」と名前の付く山が巡行しますが、それぞれの舁き手さんの衣装の微妙な違いにも注目です。

山伏山(やまぶしやま)
背中には「山伏」の字を崩したデザイン。他の山鉾に比べるとシンプルに見えます。
この山は、山の上に飾られている山伏の姿をした御神体が凛々しくて素敵ですが、それを動かす舁き手さんたちも皆さん体格の良い方ばかりでかっこよかったです。
函谷鉾(かんこほこ)
大きく書かれた背中の「函」の字がかっこいい。帯には粽を差しています。
鉾の由来は、中国戦国時代に斉の孟嘗君が鶏の声によって函谷関を脱出できたという故事にちなんでいるそうです。
油天神山(あぶらてんじんやま)
山が建てられる町の町名(風早町)の由来である公家・風早家の屋敷に古くから祀られていた天神(菅原道真)を祀った山。そのため、彼を表す「星梅鉢」の紋が法被の背中にも表わされています。北野天満宮の社紋と同じですね。

綾傘鉾(あやがさほこ)
大きな傘の形をした鉾で、ほかの鉾とは少し違った印象です。お囃子と一緒に、棒振りや舞踊が行われるのが見どころで、当然注目はそこに集まりますが、巡行を支えてくれている曳き手さんも素敵です。
蟷螂山(とうろうやま)
いつもは山の上に乗ったカマキリのからくりが動いて、とてもかわいいのですが、今年は雨除けのためビニールがかぶせられていて見れず。残念ですが、その分今回は曳き手さんに注目しましょう。
背中には「蟷」の文字。足に巻いている茶色の脚絆(きゃはん)が帯や背中の字と合っていておしゃれです。
菊水鉾(きくすいほこ)
「菊水」の字を崩した流れるようなデザインが素敵です。他の山鉾では笠をかぶっている方がほとんどでしたが、菊水鉾では手ぬぐいをハチマキのように頭に巻いている方が多かったです。

保昌山(ほうしょうやま)
他の山鉾では先がとがった黒塗りの笠が多いですが、ここは丸みを帯びた笠の形が優しい印象です。雨の中、傘をさすことができない曳き手さん・舁き手さんたちは大変だと思いますが、写真を撮る身としては、雨のおかげでいい感じに笠がテカってくれてきれいに写せたなあと思っています。
伯牙山(はくがやま)
この背中のデザインは何をモチーフにしているんだろう?と数年前から疑問に思っています。お祀りされているのが、中国の琴の名手・伯牙ということを知ってお琴について調べていると、「琴柱(ことじ)」という弦を支えて音の高さを調節するパーツに似ていることに気づきました。小さなパーツがこうしてデザインされていると、なんだかかっこいい武器みたいに見えませんか。
白楽天山(はくらくてんやま)
唐の詩人・白楽天が、道林禅師を訪ね仏法の大意を問う場面を表した山。白楽天の求道心と悟りにあやかり、学問成就の御利益があるとされています。背中の「白」の文字が何かの紋のように、洗練されています。

月鉾(つきほこ)
月鉾は全山鉾の中で最も重く、最も高いそう。重量約12トン、全長約25mの巨大鉾を動かす曳き手さんたちは大変そうですが、間近で動くところを見ると迫力満点。動くたびにギシギシと音が鳴り、長ーい鉾部分が揺れる所を見るたびに、こんなにでかいものを人力で動かしているんだ、と感動します。
木賊山(とくさやま)
謡曲「木賊」に由来した山で、木賊刈りの老翁が人に攫われて生き別れになってしまった我が子を思いながら舞う場面を表現しています。
背中の「木賊」という字を変形させたゴシックっぽいフォントがかっこいいです。
四条傘鉾(しじょうかさほこ)
先に紹介した綾傘鉾と同様、傘の形をした鉾です。こちらもお囃子とともに子どもたちによる棒振りや踊りが見れるのが見どころの一つになっています。
赤でかかれた「傘」の字がかわいい印象です。(写真は昨年のもの)

太子山(たいしやま)
名前の通り聖徳太子をお祀りした山。四天王寺建立の際に聖徳太子自ら山に入って材木を求め、霊験によって得た杉で六角堂が造営されたという故事に由来し、ほかの山がいずれも松を立てているのに対して、この山だけは真木に杉を使っているそうです。
「太」の字がなんだか梵字みたいで、これまた素敵です。(写真は昨年のもの)
鶏鉾(にわとりほこ)
赤い笠が鮮やかですね。鶏のとさかを表現しているのでしょうか。
去年(2024年)の巡行では、木製車輪が壊れて巡行を中断するトラブルがありましたが、今年は車輪の修復も行われ、堂々と都大路を巡行しきることができました。
芦刈山(あしかりやま)
謡曲「芦刈」に由来した山で、乳母(めのと)として都に上がった妻の帰りを待ちわびながら、難波で芦を借る老翁の姿を表現した人形が祀られています。
背中には丸に「芦」の大きな文字が印象的です。(写真は昨年のもの)

郭巨山(かっきょやま)
背中には「釜」の文字。中国古代に伝わる孝行の模範とされる24人を取り上げた書物「二十四孝」の一人、「郭巨」が黄金の釜を掘り当てて母に孝養を尽くしたと言う故事に因んだもの。「釜堀り山」とも呼ばれるそうです。
孟宗山(もうそうやま)
こちらも「二十四孝」にまつわる山鉾の一つ。「孟宗」が病気の母に好物のたけのこを食べさせようと真冬の竹林を歩きまわり、やっとのことで掘り当て母親を喜ばせたという故事に因んでいます。この由来から「筍(たけのこ)山」とも呼ばれるそう。だから背中の文字は「筍」。中国故事由来の山鉾は法被のデザインに故事の内容が表現されているのが面白いですね。
放下鉾(ほうかほこ)
鉾の名前は、屋根の上にそびえる「真木」という柱の中心部に「放下僧」という謡曲に因んだ像をお祀りするのに由来しています。鉾の先端部分「鉾頭」には日・月・星三光が下界を照らす形を示し、その形が「洲浜」という紋に似ているので別名「すはま鉾」とも呼ばれるそう。逆さミッキーみたいな紋、洲浜っていうんだ。曳き手さんの法被にもこの洲浜紋がついていますね。

岩戸山(いわとやま)
これまでは白地にワンポイントのデザインが描かれたシンプルな法被が多かったですが、最後の2基の山鉾は色付きで全体に柄がありますね。
岩戸山の法被には「いわ・いわお」という意味の「嵒」の文字と、祇園八坂神社の神紋である「三つ巴」と「五瓜に唐花紋」が散らされています。
船鉾(ふねほこ)
前祭の最後尾を進む船鉾は、その名の通り鉾全体が船の形をしています。これは日本神話において神功皇后が船に乗って他国での戦争に出陣した逸話がモチーフになっているのだそう。
背中には「船」の文字。全体に表された市松柄の中にもさらに別の柄がついていて粋です。
お祭りを支える男たちの姿、なんだかとってもかっこよく見える気がしませんか。この男たちも、祭りが終わればいつもの生活に戻り、そこでは普通のおじさん、お兄さんとして日常生活を送っているはず。何気なく街を歩いていてすれ違ったあのおじさんも、お祭りの時期にはかっこよく衣装を着こなし、大きな掛け声をあげて活躍しているかもしれませんよ。
私が感じているお祭りの一番の魅力は、そんな日常生活とのギャップの部分なのです。神様を「お祀り」する、儀式的な側面がよく注目されるお祭りですが、そこには「日々を忘れて神様と一緒に特別な日を目一杯楽しみ、また日常生活を頑張ろう」という人間に対しての側面が本質的には結構大きいのではないかと私は思っています。いわゆる「ハレとケ」の文化はここから生まれたのではないかとも。
今まで京都の老舗で働く方たちに取材を行っている中で、「祇園祭ではじけるためにいつもの仕事を頑張ってる」「七月になると『ついにこの時期がきた!』って頑張れる」というようなお話を聞くことが多々ありました。
京都の人にとって祇園祭というのは日々の活力の元なのかもしれない、そんな風に感じた今回の取材でした。
きょうのお祭り手帖
#03
祇園祭山鉾巡行 前祭
文:
西岡菫(文化財保存修復・歴史文化コース)
撮影:
西岡菫・串畑聖奈・戸田昇希・瀧山璃空・北詰康喜・鎌田あおい・大江朱莉・田上佳樹

普段は普通のお兄さん・おじさんでも、お祭りの時期に衣装を着た姿を見ると別人みたいにかっこよく見える気がします。
今回はそんな市井の人たちが活躍するお祭りの姿に光を当ててみたいと思います。