京友禅では絹の生地に下絵を描き、のり付けや染めなどの工程を分業で進めていきます。最終工程で布地を蒸して色を定着させ、反物についた余分な染料や糊を洗い流します。友禅流しとはこの水洗作業のこと。明治35年頃から京都市内の河川で行われ、着物の町である京都の風物詩として親しまれていましたが、公害への懸念から昭和46年に制定された水質汚濁防止法により、河川での友禅流しが禁止になりました。
「川で反物を洗う風景が消えてしまってから、そういった日常にとけこんでいた着物が世の中から忘れられるんじゃないかって」
実際、現在の着物生産量はピーク時の2%ほどにまで落ち込んでしまったのだそう。水洗の工場も、昔は京都市内だけでも100軒以上あったそうですが、今では10軒程度まで減ってしまったといいます。着物を着る機会も少なくなり、市場自体が狭まっているのが現状です。
なんとかして「和装への興味を広げるきっかけになれば」という思いから、広海の社長さんをはじめ、京都京友禅水洗工業組合メンバーの有志によって昭和56年から始められました。

見どころは、生地をたぐって下流に向けて放り投げるところ。放り投げることによって、遠くまで生地がきれいに縦に流れて汚れが全体に落ちるのだといいます。イベント当日に取材した際も、「バシャッ、バシャ」と水音を立てて生地が空中に翻る瞬間には観客が歓声をあげていました。
「手繰って、放って、水面を揺蕩うところを見てもらって、昔はほんまに川で洗ってはったんやなって考えていただけたら」
イベントで実際に作業している様子を見てもらうことによって、少しでも着物を身近に感じ、和装に興味を持っていただきたい、とおっしゃっていました。

イベントでは法律を遵守し、流れが強い川でも擦れによる痛みが出にくいポリエステル製の完成品を使っています。
さらに生地選びにもポイントが。見栄えの良い柄や、ピンクや白などの明るい色の生地を使うようにしているのだそうです。暗い色だと流れの中で良く見えなかったりするため、明るい色を使ってきらびやかに見えるようにするなど、パフォーマンスとして人に「魅せる」という面でも様々な工夫が凝らされています。

また、工場内の人工河川についてもお話を伺いました。
水質汚濁防止法が制定され、川で洗うことが禁止されて以降は、工場内に作られた人工河川で生地水洗の一部が行われています。
人工河川には桂川の伏流水が使用されているそうで、近づいてみると実際の川辺のように、涼しく感じました。
一反13mほどある着物が、上流と下流のような形で二か所で洗えるようになっており、全長で28mもあるといいます。上流からモーターで水流を生み、実際の川のように、汚れが川の下に流れていきます。生地同士が擦れて傷んでしまわないよう、流れはかなり緩やかでした。
「設備として特化しているので、人工河川の方が格段に洗いやすいです。ほんまもんの自然の川で洗っておられた昔の職人さんはすごい体力と技術があったんだなと思います」
日によって流れも違い、気候による体力の消耗も激しい自然の川で、生地によって洗い方も変えていたという昔の職人さんの経験や技術の偉大さを感じます。

「鴨川納涼には、屋台もたくさん出ているので、外国人の方や若者、観光客もたくさんいらっしゃいます。着物は日本の伝統衣装で歴史のあるものだからこそ、忘れないで着ていただきたいという思いがあるので、特に若い人に見てもらいたいですね」
昔は日常にあたりまえに溶け込んでいた風景が、工場の中という人目に触れない場所に移ってしまった現在。私も取材に伺うまで、そんな「あたりまえ」を見ることも知ることもなかった若者の一人でした。
伝統の風景を知る人が少なくなりつつある今こそ「ほんまもん」の技術を実際に感じて、昔日の風景に思いを馳せてみるのもいいかもしれません。

〈鴨川友禅ファンタジー〉
毎年8月第一土曜日・日曜日に行われる「鴨川納涼」の一環として、1日2回行われます。鴨川の三条大橋〜四条大橋間の川内に設置された作業場では広海の職人さんを含めた6名の職人さんがパフォーマンスを行います。また、右岸河川敷に設置された特設ステージでは、蒸し水洗工業組合の理事長でもある広海の社長さんが友禅流しについての説明を行います。
広海さんでは水洗以外にも、生地に色を定着させるために行う「蒸し」作業や、友禅の小紋の地色を染める作業である「しごき染(地染め)」も行っておられます。
きょうのお祭り手帖
#04 友禅流し
株式会社広海
西村寛道
文:
西岡菫(文化財保存修復・歴史文化コース)
撮影:
西岡菫(文化財保存修復・歴史文化コース)
広海さんHP:https://www.hiroumi.jp/


毎年8月の第一土曜日・日曜日に開催される「鴨川納涼」祭でメインイベントとして行われる、友禅流しのデモンストレーション「鴨川友禅流しファンタジー」について、「株式会社広海」の西村さんにお話をお聞きしました。