
田端和樹さんは小さい頃からの夢だった音響の仕事を辞め、家業の「絞り染め」という伝統工芸を継ぎました。絞り染めの仕事が減少する中、手仕事の良さや伝統を信じて21年間この仕事を続けられています。
多様な技法を扱う
絞り染めとは布を糸で縛ったり板で挟んで、染料が染まらない部分を作り紋様を描く伝統工芸です。とてもシンプルな技法ながらも布の折り方、絞り方、染料などを巧みに組み合わせ、多様な種類の技法が生み出されてきました。
──田端絞りさんは多くの技法を扱われているのが特徴だと感じています
田端さん:そうですね。生涯、職人さんが会得できる技法って100種類近くある中から2〜3種類と言われるほど難しいんです。僕は習得できたかって言われると難しいんですけど、染色も行うことで10種類ぐらいできるようになりました。
こういう仕事って分業なんで、僕は絞りはできても染色ができなかったんです。職人さんがどんどん減ってきてるから、仕事が自分の中で完結しないとやっぱり商品が作れなくて。
染色を学ぼうと思って色んな染め屋さんに行ったんですけど、学生さんとかやったら「見学させて下さい」でいいけど、当時の若い僕が「仕事として学ばしてください」ってなると、すでに仕事が少ない業界なので皆さんライバルが増えるから、教えられへんって断られました。
仕方がないので独学で学びました。染料屋さんに行って、とにかく色んなものを混ぜてみて、染まったらちゃんとノートにデータにしてということを繰り返しました。それこそ危険な薬と知らずに手をつっこんでやけどしたりとか、ガスが発生してて吸いこんでしまうとかもありましたね。
──Tシャツなど身につけるものも染められていますが、いつ頃から作り始めたのですか
「着物」っていうものが中国で作り始められていたり、レンタル着物とかナイロンに印刷されたものが着物と言われていて、絞り染めの需要が減っていっている中、服に落とし込めれたらいいなって思ったんです。
実は絞りってナイロンや、厚手の生地にもできない。染色も絹と綿とでは染料も技術も全く違って、服に絞りをするっていうのはすごく難しかったんです。でも、需要はそっちの方が高くて。
僕は、元々着物とかに絞り染めをしてて、そこでは一着で100万円ということが当たり前なんですよね。その値打ちってどこにあるんかなって思ったとき、そのお着物の中にすごい技術があるんです。でも、すごいのはわかるけど高すぎて手が出せなかったり、いざ服として着るとなるとちょっと派手すぎたり。だからもっと簡単でシンプルで、若い人に受け入れられる価格にすればいいんじゃないかなって。学生さんと関わるうちに、シンプルな絞りでも可愛いとか、オシャレって言ってもらえるから、日常で着れる絞りも出せたらいいなって思ったのがきっかけです。
雪花絞りが転期
田端さんにお話を伺う中、この世界に入って2〜3年の修行期間を経てようやく基本ができるようになったこと。また、雪花絞りという絞り染めとの出会いが転期だったと教えてくださいました。

田端さん:あるとき「金麦」のビールのCMで檀れいさんの衣装の着物にうちの絞りが採用されたんです。その前の年が雪花絞りの着物で、そこではじめて知りました。
今でこそ有名ですけど、僕が25歳のときは雪花絞りの職人さんって1人しかいなくて、それも門外不出・一子相伝という形をとられていて、幻みたいな、誰も真似できないものだったんです。
そんな時にお仕事でお世話になってたSOU・SOUの社長が「あれやってくれ」って簡単に言ってきて(笑)。僕、染色もはじめたてなのにできないですよ!って言ったら、「見学させてもらって教えてきてもらったらどう?」って。それじゃあ、という感じでその人のところに連絡させてもらったら、「よかったら見においでよ」と言って下さり、伺わせていただきました。
その職人さんに話を聞いてみると、「自分も最初は全然できひんかったけど長年やってたらできるようになったよ」って。聞いてるうちに、もしここで雪花絞りのやり方を僕が教えてもらって真似してやったら、カンニングして良い点とったみたいになるなって思ったんです。その職人さんは言ったら教えてくれそうな方やったんですけど、ずるいなって思って教えてもらわず、その日はお話だけ聞いて帰りました。
その日から知識のない中、自分なりの雪花絞りをやってみようと思って、白い生地を買っては、色んなことして、200〜500枚の手ぬぐいを全部ぼろ雑巾にしました。でもだんだん雪花絞りに近づいてきて、あ、これやって思ったのは、板ではさんでやる方法。できたのは、職人さんのところに行ってから2年後ぐらいでした。
絞り染めの”途中”を知って納得してもらえること
──私たちは、広げてみないとわからない絞り染め特有の個性を面白いと感じていますが、田端さんはその個性についてどう感じておられますか。
すごく苦しめられたことではあるんですけど、昔は着物を作って、お客様が実際に見て、納得して買うというのが一般的な販売方法でしたが、今となってはネットショッピングが主流になりました。これは画像と同じものが届かないと「形が違う」とか言われてしまう販売方法なので。やっぱり手作りだと、形とか色とかは変わってしまうものやし、ネット販売が主流になった時はちょっとしんどかったですね。
それこそ100枚依頼があっても1枚1枚違うものができて、取引先に見せたら「写真と違うじゃないか」と言われてしまったり。どれが悪いとかじゃなくて、全然違う方が自然なんですよね。同じものが揃ってできるのももちろん大事ですけど、手作りやったら全て一点ものの絞りを見てもらえたらいいのかなって思います。
──田端さんが主催されているワークショップなどを通して、手で作ることの面白さを広げてらっしゃるのですね。
お客さんって完成したものしか見れないし、僕がやっていたときも呉服屋さんに「絞った状態の途中のものはお客さんには絶対に見せないでくれ」と言われていて。職人も前に出てこなかったり。
どうして仕上がったものだけを見せるかっていうと、そこに価値をつけているからなんです。職人さんが作業しているところを見ると、一見簡単そうに見える。だから「なんや、こんな簡単なんか」とか、「それでこの値段は高すぎひん?」って思うお客さんがいたりするんですけど、それを防ぐために職人も技法も見せない。
やから本来”途中”っていうものも見せてはいけないっていう時代もあったんです。でも一つ一つが違うのにはこういう意味があるんですって、やっぱり作っている側からは見て欲しかったり、実際ワークショップ来てくれはった人も、「だからか!」って納得してくださったり、高い理由も分かったという声がたくさんありました。
絞り染めとこれから

──ここ数年でたくさんのアパレルブランドとのコラボやプロジェクトを行われたと思うのですが、そういうことを踏まえて今後どうなっていきたいか、展望などあればお聞きしたいです。
絞り染めは1000年以上続いてきたもので、世界的にも注目されていますし、「続いてきた」ということは説得力になると思うんです。
日本の伝統工芸は「こういう思いで、こう作ったらこうなるんだよ」って昔の人が今まで伝えてきてくださったので説得力がありますよね。そこからまた新しいものを生み出せるというのは歴史と伝統があってこそなので、こういう伝統をずっと残していきたい、というのは展望としてあります。
この1000年のうちに戦争も地震もあって、無くなっていくものも多かっただろうけど、命懸けで残されたものもあるんだって、それを大事にして、それを伝えていく架け橋になれたらいいなと思います。
職人interview
#90
たばた絞り
田端和樹
インタビュー:
串畑聖奈(ファッションデザインコース)
撮影(工房):
田上佳樹(写真映像コース)
文:
鎌田あおい(空間デザインコース)

