職人interview
#82


京葛籠|全部手作業で作る

何度でも何代に渡っても使える一生物である葛籠(つづら)。
そんな葛籠を全て手作業で作っている日本で唯一の「渡邉商店」さん。
「必要とされる限りこの仕事を守り続ける」と父から受け継ぎ息子へ繋いだ、職人の渡辺良和さんを取材させていただきました。

全部手作業で作る

──葛籠の制作工程について教えてください。

竹を割るところから始まって、籠を作って和紙を貼って。和紙を貼ったら完成形の箱の型になります。お客様と直接話をしてオーダーメイドで作っています。大きさは既製品なので決まっていますが、仕上げの色や名前を入れてほしいといったそのほかの要望はお客さんに選んでもらっています。誰の手も借りずに1から10まで全部自分で手がけてお客さんのところに納品します。内職の方もいないので親子二人でやっています。

──葛籠が完成するまでどのくらいかかりますか。

1日に1工程やったとしても1ヶ月はかかります。貼ったら作業したところが乾くまで次の工程に入れないです。貼りだけでも、お天気や季節によって乾かす時間がかかる場合もあります。

──乾かす作業はどのように行なっているのですか。

太陽に当たったら駄目で、必ず日陰で風と自然の温度で乾かします。寒いからとストーブの熱とか、暖房の熱で強制的に乾かすのも駄目。そうすると早く商品が傷むもとになるので、自然に乾くのを待つしかないです。

──竹細工と違うのは和紙を貼る工程ですか。

そうやね。竹のままの花かごとは違うから、必ず和紙を貼る工程があります。


親から子へ受け継ぐ

──京葛籠に使う竹の厚さはどれくらいなんですか。

1ミリ以下ですね。竹の皮の付いたものと付いていないものとで、多少厚みを変えます。皮がついている方が実はうすくて、丈夫なんです。そこらへんは手加減で。その時の竹によって若干性格が違うので、大きさによって厚さを変えています。

──竹はどこから仕入れてるんですか。

創業当時から京都の洛西地方から仕入れています。竹の選定は竹藪を管理している人に任せています。昔から竹藪の中でも人がほとんど入らないような竹が一番いいです。でもだんだん住宅地のために開発されたりして、上に向かって真っすぐ伸びる竹やぶが少なくなってきています。

うっそうとしていて、夏でもじめっとした感じのところに生えている、真っすぐ伸びている竹がいいです。うちでは孟宗竹という竹を使っています。孟宗竹は節が硬くて、葛籠にすると一番丈夫なものができる。その代わり、細工がしにくくて技術が必要。教えてくれるところがないので、親から子に伝えるしか教えるすべがないですね。

──削っている刀も代々受け継がれているんですか。

包丁は使っている人によって指の長さや大きさが違うので、自分専用のものを使っています。

──和紙や漆、柿渋はどこのものを使っているのですか。

和紙は美濃和紙や福井県の越前和紙を使用しています。漆は本漆ではなく、カシュー漆を使用しています。カシューナッツって実は漆科の植物で、合成的に作られた漆なんです。カシュー漆は漆と同じような艶や光沢が出ます。柿渋は京都のものを使っていて、宇治田原町の農家さんから直接買い付けています。


軽くて丈夫な衣装箱、葛籠

──竹を柔らかくする技術を得るまで何年ぐらいかかるんですか。

大体10年ぐらいはかかりますね。

──力士の明荷の衣装箱にも利用されていると聞いたんですけど、それは力士のレベルに合わせて違うものを作っているんですか。

力士の番付表には今大体650人から700人ぐらいの名前が載っていて、そのうち明け荷を持てるのは十両という地位に上がった人なんです。化粧まわしを付けて土俵入りをみんなしますよね。要するに一人前に出世した証拠で、土俵入りのお祝いに作ってあげるのが明け荷です。

──舞妓さんも使われていますよね。

はい、舞妓さんは小さな自分の身の回りの道具をしまったりとか。時代劇の撮影なんかにも使われてます。

──力士の明荷の衣装箱にも利用されていると聞いたんですけど、それは力士のレベルに合わせて違うものを作っているんで


葛籠の作り方を守っていきたい

──息子さんも仕事を継がれているんですね。

息子ひとりになってきたらできる量も落ちてくるし、相撲は国技だから相撲を中心にやっていくと、一般のお客さんの商品を作っている時間がなくなったりとか、今日みたいに仕事を見せてほしいと言われても何も見せられなくなりますね。息子がいる間は何とか廃業せずにやっていきたいです。

──後継者が少なくなっていっても京葛籠を作り続けてる理由というのはありますか。

父親がやっていたことを守りたいからかな。父親は竹のかごを作るだけの職人やったけど、貼りや塗りをしてくれる職人さんが少なくなり、自分で貼らないといけなくなって、竹かごを作る工程以外も研究していました。だから父親がやっていたことを守れる間は守っていきたい。そしてお客さんに需要がある限りは守りたいですね。いずれはなくなるやろうなと思ってますけどね。

──渡辺さんが継ごうと思ったのも、父親の影響ですか。

僕らの時はもう時代が何でも家は長男が継ぐもんやみたいなそういう古い考え方の中で育っているから。周りの大人もみんな同業者でも、息子さん頑張って跡継ぎやみたいな。1軒辞め、また1軒辞めてになって減っていくと、その必要に迫られて。

──渡辺さんの思う京葛籠の魅力はどこですか。

魅力は軽くて丈夫で部屋に置いた時の美しさみたいなもの。それがうまくお客さんに伝わって気に入っていただいて買っていただけたら、それが一番いいなと思っています。

──今後の展望を教えてください。

新しいことも何も、うちは作るものといったら、収納する箱を作っているだけだから、何も変わったこともないし。ただ、この仕事を守り続けていくだけです。



職人interview
#82
渡邉商店
渡辺良和

文:
安彦美里(基礎美術コース)

撮影:
李雪延(ファッションコース)

職人interview
#82


京葛籠|全部手作業で作る

何度でも何代に渡っても使える一生物である葛籠(つづら)。
そんな葛籠を全て手作業で作っている日本で唯一の「渡邉商店」さん。
「必要とされる限りこの仕事を守り続ける」と父から受け継ぎ息子へ繋いだ、職人の渡辺良和さんを取材させていただきました。