職人interview
#11


和鏡|02|僕たちの仕事は新品を作るだけじゃない

世界に1人となった和鏡師 山本晃久さんのお話。
三種の神器である鏡には〝今を映す〟という意味があります。技術の進歩と共に、外国からガラス鏡が日本へ普及する以前、日本人は銅鏡を研ぐことで繰り返し使っていました。山本さんに伝統工芸の見せ方や魔法の鏡、キリシタン魔鏡についてお話いただきました。

僕たちの仕事は新品を作るだけじゃない

──裏面の作業が、模様を描いているようにも見えますが、彫っているのですか。

ヘラ押ししています。凹ませていく感覚ですね。
ヘラを使うんですけど、このヘラは市販されてません。なので鏡師が自分でヘラを作ります。僕の場合は創業が江戸末期で5代目になるので、初代からずっと作られているものを使っています。
凹凸具合は経験です。“これぐらい凹ませたらこの模様はこう出るな” というのを繰り返して、師匠(祖父)の仕事をずーっと見て、それから横で見ながら押すというのを繰り返して繰り返して、技術が上がっていく。

──神社仏閣ではどのように鏡が置かれていますか。

裏の模様は見えないように置かれています。“鏡を置くのは参拝者が自分の姿を映す為にある” など諸説があって、鏡には “今を映す” という意味もあります。


道具がなかったら仕事ができない

──どのような工程で鏡が作られていますか。

裏面の模様の出し方は、粘土と砂でできた鋳型にヘラ(200種類以上)を模様によって使い合わせて押します。その型を鋳造して、模様ができます。型から鋳物を取り出す為に型は毎回潰します。そこからヤスったり、研ぐ等、完成までの4つの行程を、(直径20cmの鏡で)半日ずつかけて行います。仕上げの研ぎは漆の職人と同じで工芸用の炭で研ぎます。
その炭を作ってるお店が日本にもう一ヶ所しかなく、そこがやめはったら工業用の炭が手に入りません。うちの祖父が「道具がなかったら仕事ができない」ということで、二世代分の工芸用の炭を買い貯めてくれていて、僕の代と次の代までは炭があります。

──色んな職人さんにお話を伺う中で“時代と共に素材の質が落ちている” “劣化するのが早い” ということをよく聞きますが、鏡に使われる金属はどうでしょう。

実は、昔より今の方がいい材料で作っているんです。
銅鏡は元々、身分の高い人しか持ってなかったけど江戸時代になり一般家庭からの需要が増えて、あまり鋳物がよくないものでも売れるようになりました。作れば売れたので、材料も吟味せずに作る。作れば売れる時って、ちゃんと作らない。儲けるためには薄く鋳造した方が安い。だから鏡の綺麗さでその時代の鏡の需要がわかるんです。そして鏡の質が落ち続けてる時にガラス鏡が入って来て、今では銅鏡は神社やお寺でしか使われなくなりました。


修復の技術は手でしかできない

──ものづくりで大事にされていることは、なんですか。

オープンファクトリーなどで「なんでそんな効率悪く、手でやっているのか。今ならええ機械あるやろ」って話になるんですけど、僕らは新しいものを作る以外にも、修復の仕事があるんです。修復の技術というのは絶対に手でしかできないことなので、手で作ることをやめると修復ができなくなって、新品を作るという提案しかできない。
僕たちの仕事は新品を作るだけじゃありません。いろんな思いがあって、お祀りされている鏡を綺麗にして、また祀るということを続ける必要があります。

──私たちKYOTO T5 は京都を新しい目線で見て、伝統的な技を身近にあるファッションに落とし込み、日本、世界へとプレゼンテーションしたいと思って活動しています。

いいと思います。
うちはインターンも受け入れたこともあります。その中で「一緒にプロダクトを作りましょう」ってなったこともあるんですが、その販路も考えなければならないし、「そこまでイメージしてものづくりしようよ」って話をするんだけど、 そこはなかなか伝わりにくいですね。デザイナーっていうのは、自分の作りたいものを技術を使って作るのが割と一般的なんで、それを僕らが作ったところで販路がなければいけないし。やってみないと分からないこともあるけど、デザインというのはそこも考えてやらないと厳しいと思います。売り場を考えてやらないと、「つくったものの…」ってなりますからね。
色々なところにアウトプットされていくというのはすごくいいことやと思います。


職人interview
#11
山本合金製作所
山本晃久

文:
溝辺千花(空間デザインコース)

職人interview
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和鏡|02|僕たちの仕事は新品を作るだけじゃない

世界に1人となった和鏡師 山本晃久さんのお話。
三種の神器である鏡には〝今を映す〟という意味があります。技術の進歩と共に、外国からガラス鏡が日本へ普及する以前、日本人は銅鏡を研ぐことで繰り返し使っていました。山本さんに伝統工芸の見せ方や魔法の鏡、キリシタン魔鏡についてお話いただきました。