職人interview
#79


岩絵具|02|スタッフ全員で開発

270年以上続く、日本最古の日本画用絵具商「上羽絵惣」さん。人気商品は日本画の重要な白 色顔料である胡粉を使った、爪に優しい「胡粉ネイル」。このネイルを通して日本の伝統的な和の 色を広める活動をしておられます。
今回は店長の西村由美子さんに、胡粉ネイルの開発経緯や、伝統的な色との関りについて、お 話を伺いました。

スタッフ全員で開発

──胡粉ネイルの開発経緯について教えてください。

胡粉ネイルは、胡粉(ホタテ貝殻)をポリッシュ基材に溶かし込んでいます。 やっぱり絵具だけを買う人が減ってきたので、胡粉を使って何かできないかっていうことで考案し て出来た商品なんです。ホタテの貝殻からできる胡粉は、身体に優しい素材でもあるんですよ。 

──こういった天然素材を使った、身体に優しい商品を作ったきっかけは何ですか?

やっぱり色々環境とかにも配慮したというか。ネイルとかも普通は匂いがきついんですけど、胡 粉ネイルはそういうのがない水溶性のネイルで、刺激が少ないというのにこだわってます。
女性 が求めているものとか笑顔になれるものは何かって思った時に、ただ単に色が綺麗ではだめな んですよね。スタッフのリアルな声が入ってできています。

──どんな色が人気ですか?

ずっと定番のものでは、艶紅(つやべに)という色はすごい人気があります。他に、京紅(きょうく れない)という色も幅広い年齢の方に支持していただいています。 

もう13年目かな、胡粉ネイルが誕生して。最初は色がなくて透明だけだったんですけど、やっぱり 色があった方がいいよねという話になって、この「水桃」とか透明・ピンク系のものが最初に売り出 されました。 今は定番色として、無色透明を含めて38色展開しています。 

 ──季節限定も入れると結構な色数ですね。

定番色、店舗限定色、季節限定色を合わせると、現在は48色ですね。(2023年1月17日現在)


日本の伝統の色を広めたいという想い

──私は実際に胡粉ネイルを使わせていただいていて、初めて買ったときにそれぞれの色のお名前 がとても印象的だなと思ったのですが、商品の名づけについて、どのようなこだわりがあるのでしょうか?

古代からの和の色の名前が付いてたりするんですよ。 
例えば、古代岱赭(こだいたいしゃ)という茶色の胡粉ネイルがあります。日本画用の絵具にある 「岱赭(たいしゃ)」も茶色という意味なんです。 

胡粉ネイルには京紅(きょうくれない)や水浅黄(みずあさぎ)といった色もあります。また、「おそ ら」という色名はお子さんにも親しんでもらえるようにと付けました。すべてが和の色名というわけ ではありませんが、日本の伝統色を広めたいという想いが込められていると知っていただけたらと思います。

──新しい色を開発する際は、どのように色を決めていますか?

 トレンドとか今年流行りの色ってあるじゃないですか。そういうのを意識しながら、みんなでこういう色欲しいね、とかって会議するんです。 スタッフが6人いるんですけど、全員が候補の名前を挙げるんですね。 そこで投票をして選びます。 

──トレンドの色とかってどうやって取り入れてるんですか?

お客様から頂戴したご意見も参考に、社内でミーティングをして、意見を出し合って決めています。 
例えば、秋冬だと温かみのある色、春夏は涼しげだったり明るい色といったふうに、季節を意識しながら考えていますね。


色が持つ力

──先ほど、お子さんに馴染みのある名前を付けると仰っていたのですが、お子さんも使われたりするのですか?

昔、お子さんに親しんでもらえそうな色合いと名前で「キッズネイル」として展開したものが、おそら、いちごみるく、などに引き継がれています。 
カラフルなラインナップと、刺激臭がない水性のネイルということで、親子で楽しんでくださっているというお声も頂戴します。 また、施設などで高齢者の方に塗っていただいて、爪も気持ちも明るくなってもらうっていう取り組みもしています。 

──ほんとに幅広い世代に愛されているのですね。

そうですね。以前、お医者様がカラーの持つ力を活かした治療をしていると、SNSで取り上げてく ださいました。 患者さんの心のケアにも良いみたいです。 

──ホームページの方にもネイルのいろんなアレンジが載っていますね。

そうです。ウェブサイトに掲載しているネイルアレンジ「ねいる図案帖」もスタッフが考えています。 私たちもここに就職してから分かったんですけど、古典の色、和の色というのがこれだけあるんだ ということも初めて知りましたし、色を知るだけでもすごく楽しいと思いますし、色に触れてもらおう みたいな想いがあるので。絵描ける人って少ないから、色を違う形で伝えていけたらと思っています。
お洋服もね、色でやっぱり気分が変わるので、うまくこれを使い分けてもらって。今日は元気 無いわって時に元気な色塗るとか、そういう風に使い分けてもらって。明るく楽しくなっていただけ たらなと思っています。


伝統を守りながら、新しいことにも前向きに

──ネイルという身近な物から、色を知ったり触れたりすることができるというのはとても素敵です ね! ネイルの他に、絵具の方では、色を知ってもらうために活動されていることはありますか?

上羽絵惣の絵具をご愛用くださっている若い作家さんと、コラボ企画をしたこともあるんですよ。 作家さん4人と職人さんが協力して、それぞれ編み出したオリジナルの一色を組み込んで、顔彩 (がんさい)セットを発売しました。 

絵を描かない人にも楽しんでもらおうと、先生方にぬり絵の線画も作っていただきました。 
絵具も広めていきたいという想いがやっぱりあって。ネイルだけじゃなくて、色の方も知って欲しい と思って活動しています。 

──今後の展望などはありますか?

そうですね、変わらず伝統を守りながら、新しいことにも前向きに。伝統の大事さもあるので、そ れを守りつつ、新しいこととかも取り入れながらやれたらいいなと思います。 若い世代の人たちから意見を聞いたり、アンケートやSNSで書いてもらったことを参考にしたり、 生の声を聴きながら実現させていきたいなと思ってます。 いつでも遊びに来てください。



職人interview
#79
上羽絵惣株式会社
西村由美子 

文:
西岡菫(文化財保存修復・歴史文化コース)

撮影:
中田挙太

上羽絵惣 HP:
https://www.ueba.co.jp/

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岩絵具|02|スタッフ全員で開発

270年以上続く、日本最古の日本画用絵具商「上羽絵惣」さん。人気商品は日本画の重要な白 色顔料である胡粉を使った、爪に優しい「胡粉ネイル」。このネイルを通して日本の伝統的な和の 色を広める活動をしておられます。
今回は店長の西村由美子さんに、胡粉ネイルの開発経緯や、伝統的な色との関りについて、お 話を伺いました。