職人interview
#73


菓子木型|伝統技の二刀流

一軒家の一室で沢山の道具に囲まれながら作業をしていたのが印象的だった、だんじりの彫刻師としての顔も併せ持つ菓子木型職人の谷口さんにお話を伺いました。京都で活動し始めて4年、木を彫るときのまなざしや一つ一つの仕事に対する思いをお聞きしました。

伝統技の二刀流

──創業は何年目でしょうか?

京都に引っ越してきたのが約5年前です。

──京都に引っ越して来られてすぐに菓子木型を作り始めたのですか?

もともとは約3年前から木型を作り始めました。高校を卒業してからお寺とか神社の彫刻の弟子入りをして、2年ほどやった後、岸和田に行って主にだんじりの彫刻の弟子入りを決心しました。そこで20年ぐらいいて、そこから京都に引っ越してきて独立という形になりました。こっちに来た今でも岸和田の仕事を親方から貰ったりしてやってます。

──菓子木型の職人さんになろうと思ったきっかけはありますか?

和菓子の木型やってる人が少ないことを聞いたんです。京都には和菓子屋さんが多いイメージがあったみたいで、「谷口くんやってみたらどうや」って言われて和菓子屋さんに話を聞きに行きました。どんなものかは一応知っていて木型を見たことはあって。木は何の木でやってるのかとか値段もざっくり聞いて、このくらいやったらできるかなって思って。菓子木型用に道具は揃えていなくて、今まで自分がやってきた道具でできています。

──技術は独学という形ですか?

ほぼそうですね。一番最初にもともとある菓子木型の小さい形のものが欲しいという依頼でやらせてもらいました。その後やらせてもらった物も見本を借りられたので、それと全く同じようにやってくれたらいいって言ってくれて。どれくらい下げたら良いとか、凹凸とかも見たらそのまま真似したらいいってことだったんでやりやすかったです。そういうことを自分で独学で勉強していく感じですね。

──今お使いになっている道具は、だんじりの道具を作っているお店で買っているのですか?

買っているのではなくて、最初に岸和田の親方にある程度は揃えてもらいました。見習い期間中にはある程度揃っていてその後自分で買い足すみたいな感じです。
今大体持ってる道具が、兵庫県の金物で有名な三木市にある道具屋さんで買ったりはしてるけど、だんじりの彫刻の鑿(のみ)だけではなくてお寺や神社の彫刻もそうやし、仏像とかのもそうやね。

──大体平均的に木型は1週間ほどで作って納品するのですか?

木型はそうやね。物によって色々あって、僕がやってるのは5個付きの二枚重ね木型を一番よくやっていて、もっと大きいので1個だけっていうのもある。これ自体は大体2、3日くらいあったらこれだけをやるといけますね。でも僕はわりと日にちをもらってて、今はあくまでだんじり、岸和田の仕事をメインにやってるのでその合間とか、昼間こっち(だんじり)をやって晩にこっち(木型)をやるとかなんで、1ヶ月に2本くらいやって納めるとかそういう感じです。

──菓子木型を作るにあたって、何か苦労されたことはありますか?

やっぱり最初はいろいろ見本とかもあるんで、すんなりいく場合とかもあるけど、今まで自分で彫ったものを「出来ました」って施主に見せた時に、もうそれだけで良いか悪いかってパッと見てだいたい分かるんです。菓子木型は見て「あ、綺麗やな」って思ってもお菓子が出ないと完成じゃないところがあるんです。

──お菓子ができて初めて完成みたいな感じですか。

そう。だから自分でも和三盆をうったりもするんですけど、自分でやってみたら「これやな」というのは分かるんです。
自分の中で完成してからやってみて、大体それでいけるのはいける。見た目もそうやけど、一番は型からすっと出さなければいけないっていう難しさがありますね。

──そうなるとまた手直ししたりという感じですか?

はい。正直大きい失敗ではないけど、出にくいからもう少し角度を斜めにすると鋭角になって出やすくなるとかを直したことはあって。だから見た目で終わりじゃなくてお菓子ができるまでやらないといけないのがありますね。


好きなことを仕事に

──手仕事の魅力はありますか?どういう時が楽しいというか…

基本ずっと楽しいんです。それと同時にずっとしんどいのもありますね。小学校の時から彫刻刀で木を彫ったりすること自体はすごい好きやったんです。難しい仕事とか高度な仕事とかやりがいのある仕事って色々あって、例えば入って1年目くらいの人がやるような仕事って僕らからしたらもうそんなことやりたくないって思うけど、そういうのでも僕はわりかし楽しいって思う。

──だんじりのお仕事から活かされていることや役立っていることはありますか?

まだそこまで木型を知ってないんで正直なところ分からないけど、見てそれをすぐに真似れてるところとかだんじりの仕事をやっていたお陰かなと思います。ほんまに何にもやってなかったら見ただけで出来ないし、道具も持ってなかったら出来ひんやろうし。ちゃんと木型職人やってる人からしたらまだまだかもしれないけどね。一応自分が作った木型を買ってくださるということはOKが出てるのかなと思います。

──菓子木型の職人さんになられて変わったこととか新しく見えてきたことはありますか?

菓子木型の仕事をやらせてもらったおかげで、この方ら(T5やWLK)と出会えたってのはありますね。岸和田の仕事だけをやってると、そっちはそっちにいろんな人がいるってのもあるけど、こっち(京都)でやってると横の広がりとか人に出会うのがあまりなくて。木型やらしてもらうと和菓子屋さんとか、芸大の人とかそういう人とかに出会えたっていうのが良かったと思います。人と繋がれるってことは良いことやと思います。

──以前住んでおられた大阪と違って、京都の良さはなんだと思いますか?
私も大阪の出身なのですが…。

僕の実家は淀(京都と大阪の県境にある、京都の南に位置する)です。

──私は、京都は大阪と街並みが全然違いますし、寺社仏閣もたくさんあって、来るだけで好きだなと感じるのですがそういう感覚はあったりしますか?

あ〜。それはありますね。大阪は大阪で良い面もあるけど。岸和田は結構怖いってゆうか祭りに対して熱いからそれで需要がある部分もある。「祭りなんか」っていう感じやとだんじり自体がなくなるけど、祭りがすごい好きな人がいるおかげでだんじりとかの仕事があるんでね。

京都は京都でもここら辺(京都市内)の出身じゃないから、京都らしいっていうのが昔から好きやったね。淀では普通にぶらぶら歩いてても田んぼとか出てくるけどこっち引っ越してきて、京都らしい街並みとか普通に自転車で走ってても楽しいっていうか。お土産屋さんとかなんも買わんけど入って見てるだけでも楽しい。

──京都らしさって色々なところで感じられますよね。

だんじり彫刻では人物の服に模様を入れたりするのに、和柄を使ったりするけど、(京都に来て)和柄を最近より、意識するようになったかな。そういう目で見ると、お土産屋さんとかは結構和柄があるなって思いますね。西陣織会館行っても和柄がいっぱいありますし。

淀って「京都やったん?」って言われるくらいあんまり京都らしくないところやから。そこで育って二十歳くらいまでおって、岸和田に行って20年くらい空いてほんでここやからあんまり京都を語るなって言われるくらい。(笑) 逆に京都らしいところにずっといなかったから京都らしいのに惹かれるかもしれない。

──最後の質問になるんですけど、菓子木型について今後どういうふうにしていくか、これからの目標といいますか展望といいますかそういうのを聞かせていただけたらと。

そうですね。正直なところまだ今のところはだんじりとかをメインで木型もさしてもらってるっていう感じなんですけど、そのスタンスでずっといくか、どうかっていうのが正直分からなくて。

やっぱり、20年くらいだんじりをやってるからそれを捨てられへんというか。それはそれでやりたいんですね。お寺とか神社の彫刻に弟子入りしたのがきっかけなので。それとだんじりは似てるし、お寺とか神社のをちっちゃくしたのがだんじりなんで。お寺とか神社も最初にやりかけたからそれもやりたいっていうのもあるし、菓子木型は菓子木型でそれもやりたいなあっていうのがあって。だから菓子木型専門じゃなくても専門の人に負けへんくらいのものは、今できてるかどうかってのは正直分からへんけど、そういうのは責任としてやらないといけんなとは思います。


職人interview
#73
谷口彫刻工芸
谷口知彦

文:
原田仁乃(基礎美術コース)

撮影:
中田拳太

職人interview
#73


菓子木型|伝統技の二刀流

一軒家の一室で沢山の道具に囲まれながら作業をしていたのが印象的だった、だんじりの彫刻師としての顔も併せ持つ菓子木型職人の谷口さんにお話を伺いました。京都で活動し始めて4年、木を彫るときのまなざしや一つ一つの仕事に対する思いをお聞きしました。