新しいこと、古いことどちらもやる
──時間短縮や機械の導入で工業が発展した部分、劣えた部分は様々ですが、手仕事の面白さや難しさはなんですか。
機械というのはずっと同じ調子で織れるので綺麗にはできるんです。
手織りでやる場合でも同じ調子で織らないといけない。なので平常心で織ることが必ず大事。例えば腹が立っている時に織ると力が入って目が細かくなり、トイレで離れるだけでも手の力が変わります。
糸自体、太いところと細いところが微妙にあるので、糸と会話しながら織っていかないと良いものができない。ものを作りながら目で見て、 判断して、織る。機械は見もしないし、考えることもできない。
あと、手づくりは風情が出てあったかい。機械では風合いが出ず、無機質になる。しかし生産量としてはやはり機械の方が良い。うちには、機械織りで作ったものもあります。
──技術はお父様の技から学んだのですか。
真田紐は女系でやることが多いんです。
僕の場合も祖母と母親がやっていたので、 小さい頃からその手伝いをしていました。当主(父)は指物の方をやっていて忙しかった。祖母と、その孫が織るので1代飛ばしに技や当時の話が伝承されてきました。小さい頃から習うので自然と体で覚える。
僕は高校、大学はアメリカに行って、30頃に戻ってきました。伝統工芸の人って小さい頃から家にずーっといる。それで閉塞感があったりして、中学高校の頃は反発するんです。そして違う方向に行ったり。素直に後継ぐ人は少ないです。
──真田紐のこれから、どのようにお考えですか。
特性を生かして「あんなこともこんなこともできる」という可能性を突き詰めたい。すると自然に新しいものもできると僕は思います。新しいことをやるときに、その発祥になった昔に戻って考えると幅が広がります。素材を変えても面白いんじゃないかな。
例えばカーボン。昔、最強なのは紐でしたが、今は最強なものが沢山あると思います。
ただ真田紐の“伸びない・目を摘んで いく・織っていく”という構造は他にない強いものなので、他の素材でも試していきたいなぁと思う。その片っぽで、今までの使い方以外の用途を開発すれば面白いと思う。用途に合わせて織り方も開発していきたいですね。
──KYOTO T5の活動やインタビューなどを通し、若者の目線で京都を見つめ、新しい京都を発見したいと考えています。和田さんにとっての『old is new』はなんですか。
昔からうちの祖父が言っていたのは「店っていうのは木。根っこの部分が昔からずっとやってきている伝統的なこと。幹はその会社が大きくなっていくための土台。葉っぱが新しいこと。新しいことだけに手を出すと、葉っぱだけが広がって幹に光が当たらなくなって木が倒れる。昔からのことばっかりやっていると、根っこだけが伸びて葉が育たず木 が倒れてしまう。バランスによって木は大きくなる。だから新しいこと、古いこと のどちらもやらないといけない」と。これはいろんなことに通じると思います。
今の産業は新しいものばかりがあるでしょ。ものづくりにおいて世の中の移り変わりが早く、流行り物っていうのは2、3年経つと消えて、次の流行り物に移る。僕らはそういうわけにいかない。立派な木にならんと。
職人interview
#06
江南
和田伊三男
文:
溝辺千花(空間デザインコース)
真田紐師江南HP:
http://www13.plala.or.jp/enami/
真田紐は、家紋と似た証明書のような役割をもつ秘密の紐。
江南では機織り機の調整から糸の染め・織り・加工・機織り機の調整まで全て、15代目になる和田さんご夫婦でされています。