職人interview
#08


錺金具|02|不器用な方がいい

伊勢神宮の遷宮も担当する「森本錺金具製作所」4代目 森本安之助さんにお話を伺いました。
お雛様や襖の取っ手、寺社仏閣やお城など幅広く金属を手がける錺金具師。先代から受け継いだ、2000種類以上ある鏨(タガネ)の中から文様に合うものを探し、4つの打つ・1つの彫る工程で繊細な文様を作り上げます。工房にはティーン カーンと金槌の打つ音が鳴り響いています。

不器用な方がいい

──信仰が手を通じて形になるんですね。手仕事の面白さはなんですか。

手仕事は気持ちが入っている。あったかくて、並んでても威圧感がない。存在感を主張はするけど。機械で作ったもんがズラって並ぶと息苦しい感じがする。私は、「この仕事、もう辞めたらぁ!」というのが5、6回あったんで面白いって域までいくのは大変。自分が思うように作られへんというのが何回もある。「そんなんもできひんのは人間じゃない。そんなんもできひんのか」みたいな感じで先輩や親に言われるんです。自分を責めたりもあるし、そういう時に上から塩を塗るようなことを言われるとすごい落ち込みました。
それで「もう辞めたらぁ!」てなるんやけど、その時に自分が思ったのは「いや、もう1日。もう1日だけ辛抱しよう。それであかんかったら辞めよう」と思って、ここまでやってこれた。

誰もが似たような経験をしています。
修行というのは、目で見て盗むというのが基本やけど、今の時代はそんなやり方ではみんな辞めてしまうから、丁寧に教えてるなぁ。昔は全く教えない。教えたら後輩に仕事を取られるでしょ。
やからみんな隠しよったんですよ。見せてくれへん。下の者は盗み見して、先輩が帰ったあと道具やらを触って「これ絶対ええ道具使っとるわ」って、その道具で作ってみるんですけどやっぱりできひんくて。

──自分の目で見て、触って、という向上心と野心がなければ全く上達できない時代だったんですね。

そうです。そういう気持ち(向上心や野心)と経験やね。あとはビビらんこと。
「壊れたらまた作ったらええんや!」ってぐらいの気持ちで品物に向かうのが大事やと思う。

祇園祭の神輿の修理をさせて頂いた時は、どの金具もすごい技術で作られていて修理するんはおっかなびっくりで、最初はこわこわ触ってたんですけど「これは思い切ってやらんと仕事にならへんわ」と思って大胆にやった。するとスムーズに仕事が進むようになった。
でも、やっぱり怖い。預かる物が国宝とか重要文化財のものやから、もし万が一何かあったらどうしようと思う。

──小さい頃から先代の仕事を見られていたのは、森本さんの強みですよね。

教わらなくても受け継いでいる事が沢山あって、これは大きい。
ほとんど教えてもらったことがないんでね。いつも「親父やったら、先代やったどうするかなぁ」ということを考えて、それを実際にやったら大体上手くいく。
今の人は、ほとんどが大学を出ていて、全く関係ないところからのスタート。でもかえって何にもかじってない方がいいようにも思う。下手に手を出してたら変な癖がついてて、それはなかなか抜けない。そして真面目であること。不器用な方がいい。その方が一生懸命やる。自信があったらなめてかかって来るんです。そしてそこから伸びない。これはいろんなことに通じると思います。

──時代の変化で手仕事に機械の導入がありますが、その点でメリットとデメ リットを教えてください。

銅を作る技術が上がったことで、純度が上がり、混ざりもん(不純物)がなくなってます。液で煮て着色した時に、昔は混ざりもんがあってまだら模様が出たり、偶然の面白さがあったけど、今は純粋すぎてそういった現象がなくなった。99.999%の銅ができるようになったからです。
時代の変化で困っていることは材料より、人かなぁ。人の信仰心が薄れてきている。昔は神社仏閣の関係のことなら当然のようにお金を出してたんが、今は「なんで出さなあかんのや」って。神社仏閣の収入が少なくなって、その関係の仕事が衰退するということに繋がっている。「屋根は雨漏りしたら修理せなあかんけど、飾り物は古びてもそれなりに見映えがするから修理しなくてもいい」とか「修理したいけど先立つ物がないからな」と言われることがある。それで、安く済む機械で作った物に代わったり。

──錺金具は伝統や技を守り、神社仏閣と共にこれからもあり続けますが、私たちはその伝統の技をお借りして、新しいものを生み出そうとしています。KYOTO T5の活動に対してどうお考えですか?

神社仏閣に使われてきた技を、一般のところに使うのは賛成です。
とにかくこういう技術を幅広く知ってもらいたいという思いがあります。ですからJR西日本の寝台列車「瑞風トワイライトエクスプレス」のインテリアの仕事なんかは、職人みんな大喜びでした。触って、手造りの良さを確かめてもらえるでしょ。
普段、神社仏閣のものは触ることが出来ないので、なかなか価値がわかってもらえない。良さをわかってもらえるというのはとても嬉しいです。


職人interview
#08
森本錺金具製作所
森本安之助

文:
溝部千花(空間デザインコース)

森本錺金具製作所HP:
http://morimotokazari.co.jp/ja/

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錺金具|02|不器用な方がいい

伊勢神宮の遷宮も担当する「森本錺金具製作所」4代目 森本安之助さんにお話を伺いました。
お雛様や襖の取っ手、寺社仏閣やお城など幅広く金属を手がける錺金具師。先代から受け継いだ、2000種類以上ある鏨(タガネ)の中から文様に合うものを探し、4つの打つ・1つの彫る工程で繊細な文様を作り上げます。工房にはティーン カーンと金槌の打つ音が鳴り響いています。