職人interview
#18


桐箱|02|一人前になるには失敗が一番

桐箱を専門に作っていらっしゃる、箱藤商店 5代目山田 隆一さんのお話。
創業当時から着物の帯や能の面、仏具など大切なものをしまう箱藤商店の桐箱は、京都の伝統工芸界においても”控えめな名脇役”として知られていますが、現当主の5代目が時代のライフスタイルに合わせ絵付けしたもの、卵型の桐箱など“主役”である桐箱を発明しました。
地域の特産物によって変わる桐箱の用途や、天候によって変化する桐を扱う難しさなどを教えてくださいました。

一人前になるには失敗が一番

──伝統工芸がライフスタイルに合わせて変わっていく中、桐箱を専門にされていますが生活の変化など感じることはありますか。

着物の帯を箱に入れて持って行っても、皆さん喜ばなくなってきた。昔は着物などを箱に入れて保管していたけど今はすぐにタンスに入れたりするんやろね。需要も減ってきている。
そこで「これはいかん」となって、箱に絵付けをすると「これを娘に」「置物に」という声がちらほら。

ライフスタイルの変化に応じたいとずっと思ってたんやけど、なかなか実行できなくて5年間ぐらい頭の中で考えて、段々と実現していって今に至ります。
他の桐箱屋でもうちを真似して絵を描きはるところがあるけど、負けないように妥協せずにやっています。ベテランの絵師だけでなく、いいものを見ながら若い絵師さんにも育っていってほしいなと思っています。

──今、伝統工芸を担う方が京都でも日本でもどんどん減ってきている現状をどう思われますか。

コスト面が難しいよね。私らがお給料を払って修行させても、若い人がそこそこものになるまでここに居続けるのか、需要が減ってきてるから十分な給料が払えないという問題もある。
昔のような、「何年もただ働きしてから、やっと仕事としてやる」って感覚と違う。

──桐箱の世界では一人前になるのにどれぐらいかかりますか。

自分で考えて、そこそこ作れるまでにも5年ぐらい。お客様によっても厚みとか大きさとかオーダーやニーズが違うから、それができるのにさらに3年ぐらい。
僕らはもうずっと修行中やね。一生修行。

──一人前になるためには。

数と経験を重ねるのはもちろん、やっぱり失敗が一番大事やね。
器用の子はかえっていけない。器用貧乏で失敗するとガクンと落ちてしまう。慣れて自信を持ってはダメなんよね。何から学ぶかって、お客さんが教えてくれるし、試されている。お客さんが一番です。

──一手づくりの良さはなんだと思いますか。

融通のきくところやね。手づくりゆうても工程の中では機械で切ったりするんやけど、やっぱり材料に合わせてやったりとか、天候に合わせて第六感で仕事ができるということやね。

──桐箱を作る工程の中の皮付け(ボンドをつけてゴムなどでプレスをかけ、木と木をくっつける作業)で乾かす時間が決まってないとお聞きしました。

職人は皆、感覚でやっています。
こないだの台風のせいで湿気が最悪で全然乾かない。湿度計を見ながら、そして自分の勘でやるしかない。桐は湿気を含むと膨張して、そのまま皮付けしてくっつけると縮んで反ってダメになってしまう。

──天候に左右されやすいんですね。

そうそう。
皮付の工程は、夏は2〜3時間あれば乾くし、急いでる時はエアコンを当てて乾かしたり(笑)

──桐箱は燃えにくいという特性があって、大事なものをしまうイメージがあります。

桐は他の木材に比べて燃えにくいというか、熱伝導率が低いんです。火の中に投げ込んだら、そら燃えますよ。
けど火花が飛んできた時なんかに燃え広がらずに、すぐに炭化して黒く炭になるんです。その特性を生かして箱にして売るなんて、昔の知恵よね。

太平洋戦争の時にお茶碗の家元なんかは、お茶碗の箱を桐箱にして、それを井戸の中に隠していた。井戸の中は湿気が強くてね、湿気を含んだ桐は膨張して蓋が開けにくくなる。そして爆弾が飛んできても、燃えにくい。
それで茶碗を守ったとかなんとか。

最近で聞いた話では、東北の震災で会津は桐箪笥(タンス)の産地で国内のいいものやったら津波が起きた時に
プカプカ浮いてタンスの中身は大丈夫やったみたい。膨張してタンスの中に水が入りにくくなるんよね。
桐はすごい変化する。その変化が作る時には難しい。湿気を含んで膨張して、乾燥した時には縮むという。

──水で膨張するのを利用する話、初めて知りました。目で見て、触って、感じて、考えて…とても難しいですね。桐箱は伝統工芸での横の分野とのつながりが多いように感じますが、山田さんが最近興味のある分野は何ですか。

本を一通り読んだりするんやけど、器もんを見るのは好きやね。その外箱を見たり。最近はチョコレートの箱とか箔押しされてたり、レーザープリントが流行ってるね。

──私たちは『old is new』という言葉を軸に活動しています。若者の視点で京都を見つめ、社会の最先端にあるものだけが新しいものとは捉えずに、昔からある古いと言われているものの中にも、新しいと感じる価値があるのではないかと考えています。山田さんの考える『old is new』は何ですか。

伝統工芸として桐箱に関することを言うと、伸び縮みする特性を生かして大事なものを守る“控えめな名脇役”の桐箱が、絵付けすることによって“主役”になる、それがわたしのセオリーです。
絵を描くことによって大事なものを仕舞うものがオブジェとして見られる。それをずっと目指してやってきました。

──山田さんは京都で生まれ育ち、京都でお仕事されていますが京都ってどういう町ですか。

実にいい町だと思う。いけずってよく言われるし、昔はそうだっただろうけど今は外国人観光客も増えて改めて海外へのインバウンドができてきている町なんじゃないかと思う。

桐箱に関する京都の面白い話を一つ。京都に鴨川があるでしょ。昔、鴨川の東は茶碗の桐箱屋があって、西は呉服の桐箱屋があった。地域によって主な産地が違って、それをしまう桐箱屋も専門にしていることがあった。地形の調度だね。

──これからのこと、どうお考えですか。

お客様がヒントをくださるからそれに応えれるようにしたい。いろんな紐やリボンとの組み合わせができたら面白いと思う。桐箱だけで完結せずに、真田紐とか、横のつながりでやることの可能性は広がると思う。
どうしても「桐箱は何かを入れるもの」という風になるけど、殻を破ってなんかできひんかなぁと思っています。


職人interview
#18
箱藤商店
山田隆一

文:
溝辺千花(空間デザインコース)

箱藤商店HP:
http://www.hakotou.co.jp/

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桐箱|02|一人前になるには失敗が一番

桐箱を専門に作っていらっしゃる、箱藤商店 5代目山田 隆一さんのお話。
創業当時から着物の帯や能の面、仏具など大切なものをしまう箱藤商店の桐箱は、京都の伝統工芸界においても”控えめな名脇役”として知られていますが、現当主の5代目が時代のライフスタイルに合わせ絵付けしたもの、卵型の桐箱など“主役”である桐箱を発明しました。
地域の特産物によって変わる桐箱の用途や、天候によって変化する桐を扱う難しさなどを教えてくださいました。