職人interview
#28


京繍|02|古いものを、あえて変えない

京繍の魅力は 絶対に“美しい“こと。
京繍の職人さんは百種類もの技法を使い分け、一万色以上ある絹糸を組み合わせ、「日本の色」を作ります。藍色と言っても、 青藍、縹色、瓶覗。少しの色の違いで名前や由来がそれぞれにあります。何千年も続く日本の色を扱い、作り上げるのはとても難しいこと。
しかし、それを調和してくれる不思議な優しさが絹布と絹糸にはあります。そんな道具ひとつ取っても魅力が溢れている京繍についてお話ししてくださいました。

古いものを、あえて変えない

──糸の色の組み合わせなど、大変な部分はありますか?

色は一万色くらいあると思います。微妙な違いでも色が分かれてるんです。ちょっと違うだけでも印象がだいぶ変わるから、色選びは結構慎重にやってます。

例えば、青と赤と白を並べたら、トリコロールカラーで日本の色じゃなくなる。海外の色になってしまうけど、そこに黄色入れたり紫入れたら、ちょっと印象が変わるんです。でも黄色と紫に緑を入れたら韓国っぽい雰囲気になったり…。だからそうならないように「日本の色」を組み合わせるんです。

だけどね、そういうのを気にしなくても受け入れてくれるのが絹糸であり絹地なんです。1日体験教室で生徒さんがいろんな組み合わせで糸選ばはるけど、不思議と調和してくれる温かみが絹にはあるんです。

日本の色って、昔から草木染めで、いろんな植物で染める方法があるでしょう。藍色にだって種類があって、縹色(はなだいろ)だったり瓶覗(かめのぞき)だったり。それが本来の日本の色なのかなって思うんです。それが何千年も続いてるわけやからね。

今の化学染料は明治時代にヨーロッパから入ってきて、急速に普及して150年くらい。草木染めはもう何千年も続いていて、いつから始まったのかもわからないしね。ただ植物がないと染められないでしょ。それに加えて草木染めの難点はすぐに色あせちゃうこと。化学染料も色褪せないことはないんですけどね。

──今と昔、色使いやデザインは変化しましたか?

色使いは、それこそ「Old is New」。
昔のものが好まれてたりしますよ。京繍は古いものを、あえて変えないんです。

──時代に合わせにいくというより、昔ながらのものの居場所を守っていく感覚ですね。

そうですね。
お茶の世界でも、お着物は何を着て、帯は何にして…なんとなく決まりがあるんです。その時の柄行きとなると、やっぱり正倉院の中に残っている柄を取り入れたものだったり、平安時代とかの十二単とかから柄を取り入れたり…やっぱり古い柄なんです。現代の若い柄を着てお茶会に行くことはできないんです。ひょっとして門前払いの時もあるかもしれないですし。

だからこそ、昔のものは無くしちゃいけないんです。高いものだから良いってものじゃなくて、時と場所にあったお着物を着ることが大切なんです。そんなに難しいことではなくて、今流行ってるお洋服ってあるでしょ。流行りじゃない服を着たくない、そんな感じ。

刺繍のこれからを考えないこともないんですけど、まあ難しい。お洋服よりも着物が高い時代が何年も続いたんですけど、今はお洋服でもブランドものなんて高いでしょう。それなら、お洋服に刺繍をしても良いのかなって思ったり。100万円するコートを誰も洗濯機で洗わないでしょ。手の刺繍はお洗濯するのが難しかったの。せやけど上等なものにしてみたら、まだ生きる道になるのかな。

今は結婚式で着物を着るお嫁さんよりもドレスを着るお嫁さんの方が多いですし、お色直しでもドレス着るとかね、大概そうでしょう。だけど日本人がそう変化していってるなら、外国の方はその逆になっているかもしれないから。フォーマルな衣装として、日本人だけでなくて海外の方にも受け入れられるようなね。考えても、京繍ってどう見たって綺麗でしょ。だからどんな形であれ、絶対なくならないと思うんです。


いいものは世界中で共通している

──知ることが「知らなかったこと」に気づくきっかけになるんですね。

そうです。
「知らないんだ」ってことに気づかないと、魅力を感じることができない。魅力がわかるためには知識がいるでしょ。それは若い人たちに発信していかなきゃいけないことだと思っていて。実際に触れること、見ること、これってすごく大切なんです。いろんな美術館に行ったり、仏像を眺めたり、そしたら違いに気づけるんです。いいものって世界中で「共通」してるんです。だから、日本だけで終わらせちゃダメ。

──京都ってどんな街?

やっぱりみんなが思う「歴史の街」っていうのはあります。都であるのに御所が守られてない。お城ってみんな高いところにあったり、堀が何重にもなっていたりするでしょ。江戸城なんかはそうですね。だけど京都は何にも守られてない、誰でも出入り自由だったの、昔はね。私が高校の頃なんて放課後は友達と御所で喋ったりしてました(笑)。ある意味歴史が身近に感じられる良い街なんです。

時代によって物事って変わっていくし、京都も当然変わっていってます。若者を中心に変わって行くのは、どの時代もどこの国もそう。だけどね、ちょっと振り返る時間とか、心の余裕は欲しいなって思うんです。昔のことは思いやって欲しいけど、戻って欲しいなんて思わないでしょ、変わっていって当然。

刺繍の出来上がりを見て、デザインの好みはあるでしょうけど、綺麗ってみんな言うてくれます。私はそこにしか生きる道はないのかなって思うんです。着物離れも進んでいるし、どうしていいのかって。人は着物を、あと100年くらいは着るでしょうけど。だからそこまでは変えなくても大丈夫。だけどそこからが大変ですね。


職人interview
#28
京繍杉下
杉下陽子

文:
溝部千花(空間デザインコース)
川口水萌(ビジュアルコミュニケーションデザインコース)

京繍杉下HP:
https://www.h-sugishita.jp/

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京繍|02|古いものを、あえて変えない

京繍の魅力は 絶対に“美しい“こと。
京繍の職人さんは百種類もの技法を使い分け、一万色以上ある絹糸を組み合わせ、「日本の色」を作ります。藍色と言っても、 青藍、縹色、瓶覗。少しの色の違いで名前や由来がそれぞれにあります。何千年も続く日本の色を扱い、作り上げるのはとても難しいこと。
しかし、それを調和してくれる不思議な優しさが絹布と絹糸にはあります。そんな道具ひとつ取っても魅力が溢れている京繍についてお話ししてくださいました。