職人interview
#31


たばた絞り|01|手仕事は、失ったらそこで終わり

1400年以上続く、絞り染めの世界。機械業から、手仕事の魅力に惹かれて 絞り染めの世界に飛び込んだ、 「たばた絞り」の田端和樹さん。
一枚一枚、違った仕上がりになる絞り染めは、 全てが手仕事だからこその味わいがあります。 「知られていないのは、技術が悪いからではないんです。」 そうおっしゃる田端さんが生み出す作品は、 私たちには新鮮で「新しい」と感じるものばかりです。
そんな絞り染めの魅力についてお話ししてくださいました。

手仕事は、失ったらそこで終わり

──創業して何年ですか。

25歳からはじめて、もう14年ですね。もともと父親が京鹿の子絞りの職人で、伝統工芸師だったんです。僕は専門学校を出て、音響の仕事につきました。全く絞り染めとかには興味もなくて、父親がしてたから存在は知ってたくらいです。時代も時代ですので、あんまり手仕事には興味がなくて。どっちかっていうと機械とかコンピューターの方がやりたいなって思っていました。

音響の世界で5年ぐらいプロとしてやっていたんですけど、伝統工芸の仕事がなくなっていく現状を父から聞いたり見たりして、やっぱり「勿体無いな」って感じたんです。若い人っていうのが全くいなくて、ましてや若いっていっても僕の父親の70近くの人。僕が10年前に入って、もうその下はいないんです。

やっぱりコンピューターとかは機械でやるもので、それもすごいことですけど、自分の代わりの人が操作しても同じものができるんです。父親は手仕事、亡くなったら代わりがいない、失ったらそこで終わり。誰かが後継でやればいいなって思っていたんですけど、なかなか難しい問題もありますから。

そうして2、3年経って、いよいよ知り合いの職人さんがやめられたり、亡くなられたりして。残った道具は全部処分されるんです。そういうのを見ていると、「誰かやらないなら自分がやろうかな」っていう気になりました。

自分の上司に相談して、仕事を辞めて絞り染めの世界に入りました。正社員でやってて収入も安定していたし、結婚もしてましたけど、将来的には絞り染めで安定していくのかなっていう気はしていました。やっぱり人生一度きりなんで、悔いが残らないようにしたいなって。本当、いろいろ葛藤はありましたね。

──機械業から手仕事に変わって業種が全然違いますが、戸惑いはありましたか。

座って仕事をするんですけど、毎日8時間近くあぐらの状態で手だけを動かすので、もう始めたてはしんどかったです。1日目がもっても、2日目3日目、それが1ヶ月、1年座りっぱなしっていうのが苦痛でしたね。かといって離れてしまうと仕事ができないですし、なかなかしんどかったです。

──絞り染めの世界に入って、すぐに手取り足取り教えてただけたのでしょうか。

これも難しい問題がたくさんありましたね。僕が入った当初は、まだ着物業界も仕事があったんです。だけど、どんどん仕事がなくなって、レンタルだったり中国製になっていったり。日本の職人の仕事がなくなって、仕事の取合いになるんです。

若い自分が入って技術を受け継いで、っていう形が1番いいんでしょうけど、手を止めてまで仕事を教えて何になるのかって言う話になっちゃうんですよね。そういう問題は入ってから気づきました。入る前は若い人がいないから盛り上げることができて、応援してもらえるんかなと思ってましたけど、やっぱり難しいですね。

着物業界の仕事が減ってきた時、私たちも父親とやってたんですけど、2人分の仕事もなくて。そしたら父が「俺がアルバイトをするから絞りをしとけ」って。僕もアルバイトしながら絞りをして、この状況をなんとかしなきゃって。だけど、本当に仕事がない日が1、2週間続いたりもしましたね。

──そういう現状を見ても、続けてこれたのはなぜですか?

「この世界でやっていける」っていう変な自信があったんです。ものはすごくいいですから、誰にもできないことを若い人がやって、日本から世界に発信できる。1400年近く続いてきた伝統がここで止まるなんていうのはものが悪いわけじゃなくて、環境が問題なんです。知ってもらってないだけで、絶対に魅力は広がると思うんです。


手仕事の条件

──絞り染めの基本は何種類あるんですか?

だいたい100種類以上はあると言われていたんですけど、技術者の継承ができなくなったこととか、材料がなくなったりとか。後継者が減っていくにつれて技術が途絶えていくことが多いので、今でいうともう何十種類くらいになったのかな。でも職人さんも100種類のうち全部ができるっていうわけでもなくて、そのうちの3つから4つくらいを専門とするんです。

──今から新しい柄を作る可能性みたいなのもあるんでしょうか。

そうですね、可能性。やっぱり道具がなくなっているけど、逆に新しいものが増えていっていますから。そのあたりはインクジェットプリンタとかになっちゃうのかな。やっぱり手仕事っていう条件を考えると、できることも限られてくるのかなとは思いますね。可能性としては大いにあると思います。

新しいことをしていくと、やっぱり失われてしまうものもありますので、そこがね。例えば昔は竹の皮を使って防染(染料が入らないようにする)をしていたこともあったんですけど、今はもうなくなってビニール、ナイロンを使うようになったりしていますし。それを使うと逆に「絞りじゃなくなっている」んじゃないか、っていう声もあったりします。定義がなくなってくるところもありますよね。

絞りってじゃあなんなの?っていうところ。新しい道具でやったら、「それは絞ってないよね」とかね。伝統って受け継いできたものなのに、新しいことをしたらそれは伝統なの?って思われたりもしますから。なかなか線引きが難しいところですね。


職人interview
#31
たばた絞り
田端和樹

文:
溝部千花(空間デザインコース)
川口水萌(ビジュアルコミュニケーションデザインコース)

たばた絞りHP:
http://kyoshibori.jp/

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たばた絞り|01|手仕事は、失ったらそこで終わり

1400年以上続く、絞り染めの世界。機械業から、手仕事の魅力に惹かれて 絞り染めの世界に飛び込んだ、 「たばた絞り」の田端和樹さん。
一枚一枚、違った仕上がりになる絞り染めは、 全てが手仕事だからこその味わいがあります。 「知られていないのは、技術が悪いからではないんです。」 そうおっしゃる田端さんが生み出す作品は、 私たちには新鮮で「新しい」と感じるものばかりです。
そんな絞り染めの魅力についてお話ししてくださいました。