納得できる仕事
──商品を販売する姿勢について聞かせてください。
前は今のようなネットではなく、ずっと対面でしたね。門前町のイベントや展示会なんかは自分のところの設えをして、自分とこの技術はこういうものです! って。年数回程度あると、朝から閉演まで、お客さんがなんぼ来はっても俺一人でしていたので、昼食も取らずに一生懸命対応していました。他のところはみんな入れ替わりでできるじゃないですか。うちは私一人。商売は人を当てにできないからかな!
自分がちゃんとそこにいれば、お客さんが来られて、話をすれば、自分が納得できますよね!自分でそういう風にやってきたので、それが徐々に慣れてきているかな〜と思います。
──食べずにずっとなんですね! 本当に体力がないとできないですね。
うん。体力もいるし、やっぱり精神的にも強くないとっていうのもあるね。ものによったら時間の制約がないだけに、始まり終わりがなくなってしまって、こういうところは完全に体力勝負です。1回私が病気して、これは大変やと気が付いて、40歳で一念発起して、昔みたいに走りに行ったんです。これが本当に気持ち良くて! その時からジョギングは頭の中の深呼吸の時間にするようになったんです。今でもジョギングしているんですが、走っている時は、なんで走ってるんやろうって思うこともあるんです。でも、完走した時に「はあ〜、大変やったなぁ」だけで終わんないんですよ。面白いもんで、走り終わるでしょ? 「次のレースなんやったっけ」って。もう次に頭がいくんですよね、それが好きで、次がないとダメなんです。やっぱり目標っていうのは新たに作るっていう面もあるけど、仕事でもそうなんです。自分のメンタルを保とうと思ったら、1の区切りはできても、次はどんな仕事があるの? って気持ち? 欲? 前向きに考えて動くことが大切なんですよ。
だから何もしないのが大嫌いです。
託された仕事だから
──精神的に強くなってきたからこそ、今でも残り続けているということですか。
こうやって残ってはいるけど、まだまだ足らないんだと思う。できることって限界があって、もっと情報を出さないと求めている人に見つけてもらえない。どこまでいっても自分の発信する量と探している量は比例しませんから。どこでどうマッチングするかの問題なので、まぁもうちょっとできるかなと思っているので色々取り組んでみようとは考えています。
──なるほど。逆に精神的に仕事がしんどくて、できない時っていうのはあるんですか?
「私にこれを託されているんだ」と思うと何にも仕事に苦痛は感じないですね! ただ頑張っても、大して儲からへんだけかな! これは辛いけどね。これはメンタル的に一番辛い! それでも無くしてはいけない仕事だと思うんです。
だからやり続けるんです。
職人interview
#55
五明金箔工芸
文:
則包怜音(油画コース)
インタビュー:
堀江若菜(ファッションデザインコース)
寺本昂平(ファッションデザインコース)
撮影:
中田挙太
五明金箔工芸HP:
https://www.gomei.ne.jp
明治初期、初代次郎吉が仏具店の番頭だった関係により、二代目治太郎が平安箔安氏の下で修行し、金箔押しの技術を得たことがはじまり。
以後、その技術を受け継ぎ、仏具から大阪城、ティファニーまで、幅広い分野で活躍しています。