変幻自在な暮らしの布
──普段どういったお仕事をされていますか?
私の仕事はお得意先で注文を聞きに行くというのが主な仕事です。
帰ってきたら配色することもあるし、工場をちょっと見回るくらい。始めの頃は職人から全部やったので、やることは全部頭の中に入っていますし、作りに関しては色合わせから調合までなんでも経験しました。
今はインクジェットとか色んな機械もあるけど、うちは型とスキージっていうヘラを使った人の力で作る手捺染という一番原始的な仕事ですね。昔はどこも現在の版の型ではなく伊勢の型紙、伊勢型を使って染めていました。
──染めの道に進まれたきっかけを教えてください。
大学卒業後に先生が伊原染工の娘さんを紹介してくれて。
営業を手伝って欲しいということをきっかけに、そのまま結婚しました。元々絵を描くことなどが得意ではなかったので、色の仕事に就くつもりは全然なかったです。
なので、始めの頃は配色に関してお得意先の方から厳しい言葉をいただくこともたくさんありました。本当にいろんなことがありましたけど、この仕事に就いて50年以上、人間なんでも続けることが大切ですね。
手捺染で色づく風呂敷
──イノダコーヒーさんの風呂敷の依頼がきたときの印象を教えてください。
初めてのことなので、やってみないとわからないなと思いました。
若い世代に何が合うのかわからないからぜひ学生さんから教えてもらいたいですね。これいいなと思ってくださる方がいるといいな。他にも次はこんなことしたらいいんじゃないと思ったらいつでも来て欲しいですね。
──今までに、学生と一緒に仕事をするということはありましたか?
京都芸術大学の学生さんたちが初めてです。
どこかと新しい仕事してもいいなとは思うんですけど、こういう時代なので。今まではお客さんがお土産屋さんで買い物したり、着物で過ごす人が買ってくれたりしていました。
ですが、今はどこにも出られないですからね。来年はどこまで良くなるかな。
──工場はいつ頃できましたか。
工場ができたのは昭和34年で、37年に株式会社になりました。
一度台風の被害を受けて工場の建て直しをしたことがあります。うちの工場の屋根が高いのは、染めの仕事をしながら建て替えたからですね。
──伊原染工さんの強みを教えてください。
型染めで染められるものは何でもできる、というところですね。
全部揃ってます。なので、実際に色んなことをやってますね、大きな風呂敷から小さなコースターまで。特に風呂敷のことやったらうちに任せて。
──50年以上お仕事が続けられる秘訣はなんですか?
なんでも一生懸命やるということですかね。怒られても怒られてもやる。
それを続けることでこういうところがいいな、悪いなとわかってきました。だから続けるということが一番大事だと思います。身のこなしの早い人はあちこち動いて器用に仕事できるけど、不器用な人はそうはいかない。私は不器用で生まれてきてむしろ良かったんじゃないかな。
職人interview
#58
伊原染工株式会社
鳥海清
文:
伊賀春香(基礎美術コース)
撮影:
中田挙太
伊原染工株式会社HP:
http://www7b.biglobe.ne.jp/~ihara-senko/index.html
イノダコーヒー:
https://uryu-tsushin.kyoto-art.ac.jp/detail/848