職人interview
#76


染色加工|02|「かっこいい」「やるしかない」から弟子入りへ

京友禅の流れを汲んだ手描き染めの技法で、オリジナルテキスタイルを生み出し続けているアート・ユニ。
創業者、そして今なお現役の西田清さんは、ずっとお一人で染めと向き合ってきました。そんな職人の姿に惹かれて弟子入りした越本大達さん。
今回は越本さんに、勇気を出して染めの世界に飛び込んだ経緯と、アート・ユニの技法が生んだテキスタイルの魅力についてお伺いしてきました。

「かっこいい」「やるしかない」から弟子入りへ 

──染めの世界に入られたきっかけを教えて下さい。

就職活動の際に出会った、経営者の方からのご縁ですね。
大学三年の時、元々学校の先生になろうと思っていましたが、小中高大ときてストレートで先生になるのはおもしろくないと思って、先生になるのをやめて就活を始めたんです。ただ、就活していてもしっくりくる仕事が見つからなかったので、なにかヒントが得たくて、経営者やフリーランスなど多様な働き方をされている方に話を聞きに行く機会を設けました。そこで出会った経営者の方にこの工房に連れてきてもらいました。
染色業界自体が縮小しているので、周囲からの反対もあったんですけど、初めて職人さんの仕事を見たときのかっこよさが忘れられなくて、自分もやってみたいと思うようになりました。

──職人さんの仕事を実際に現場で見たことが大きかったんですね。

そうなんです。
職人の後継者不足って社会問題として切り取られがちだけど、この面白くてかっこいい仕事を社会問題として取り上げられるのはなんか違うなと思って。かっこいいものってそういう壁を飛び越えて、いろいろな人に発信できるものだと思ったんですよね。そうやってこのかっこいい仕事をつなげたいと思って弟子入りしたのが一連の経緯ですね。住宅街に挟まれている小さな工房から、ものづくりで世界につながっていることに本当に価値を感じました。

──新卒で弟子入りすることに不安はなかったんですか?

いや、不安だらけでした。最初はお給料がいくらもらえるかもわからなかったですし(笑)また実は⻄田さんに弟子入りを志願した時に、断られたんですよ。「かっこいいって思うのはいいけど、まずアパレルの流通の仕事をすれば、どういった立ち位置でうちが仕事をしてるかが分かるから、それからでも遅くはないんじゃないか」って。
⻄田さんの説得は一理あるし分かるんです。ただ、そういった企業に勤めて数年経った時、ここが残っているか分からないじゃないですか。⻄田さんの年齢や業界の不況もありますし。だから今すぐやるしかないと思ったんです。僕は別にやってやろうという感じではなくて、やらないとなくなってしまうかもしれないという状況だから勇気を出して頑張っただけです。

── 一般企業に就職することをやめてこの仕事をする覚悟ができるのは凄いことですね。
自分だったら、他のことがちらついて決めきれないかもしれないです。

分かります。でも、逆にここにいたらいろいろなことが経験できると思ったんです。
この工房は人数が少なく、社⻑(⻄田さん)との距離が近いので、自分がこれやりたいなとか、状況をちょっとでも良くしたいなと思った時にやりやすい環境だと思いました。それに⻄田さんは新しいことに挑戦することに前向きな方なので、そういったことなども考慮すると、他の仕事ではできないおもしろいい経験ができるんじゃないかと。

──まさに勇気を出して染めの世界に飛び込んだんですね。

そうですね。自分がやりたいことだったとしても、楽しんで働けるかってやってみないと分からないじゃないですか。僕も分からなかったので、とにかく飛び込んでみるしかないと思ったんです。このかっこいい仕事にはまだまだ可能性があると思ったし、活動を続けたら皆さんみたいな学生さんにも出会えるだろうなとも思っていたので。なので、今すこしずつ理想に近づけて嬉しいです。

自分が「これをやろう」って決めたことで、もうできる理由を探さざるを得なくなりました。そうしているうちにいろんなご縁に恵まれて、今はとても楽しく仕事ができています。


工房の端から端まで、手で染める

──工房について教えてください。

基本的にうちがやっているのは洋服の生地の染色や加工ですね。
和服の反物だとだいたい幅が36センチほどで⻑さが11.4メーターくらいあるのですが、洋服だと幅が115センチから150センチのものまであるので、和服の4倍ぐらいの幅はありますね。

──結構生地の幅、広いですよね。

そうなんですよ。
また、うちでは一反二反の単位で、一反24メーター、25メーターぐらいで加工しています。この工房も奥行きが30メーターぐらいあるので、端から端まで生地を引っ張って染色しています。染色方法は基本的に京友禅の流れを汲んだ技法を採用しています。2階建てのうち、2階で主に作業しているのが手描きでの染色で、刷毛や筆を用いてフリーハンドで白生地に柄を描いていきます。

──1日でどれぐらい染め続けるんですか?

ものにもよりますけど、1日100メーター以上は染めますね。


素材に合わせて技法を生み出す

──アート・ユニさん独自の技法について教えてください。

ひび割れ模様を作る「さいけつ染め」が代表的な技法の1つです。

染色業界でメジャーな、「ろうけつ染め」という染め方があるんですね。ろうの水を弾く特性を活かした染め方で、ろうを置いた部分の上から刷毛で染料を塗っていくと、ろうの部分だけ染まらないといったものです。ただ、ろうけつ染めは使用後のろうを処理する時に環境に負荷がかかるため、業界では採用されることが少なくなってきました。
そこでうちが開発したのが、ろうの代わりに餅米と活性炭を混ぜた糊を使用する「さいけつ染め」です。
原料に餅米と活性炭を使用しているので、水洗する際の環境への負荷を抑えることができます。

──ろうけつ染めとやり方は一緒だけど、ろうを使わないんですね。

そうなんです。さいけつ染めに使用する糊は、⻄田さんが材料屋さんと共同で開発されました。
ひび割れを作るための餅米と防染するための活性炭の配合のバランスが難しかったそうです。

──こういった技法は、0から試行錯誤していくんですか?

「こういうことできないんですか?」とか「おもしろい染めないですか」と、デザイナーさんや問屋さんから相談された場合に、結果として技法が生まれるパターンが多いんじゃないかな。ただデザインとして成立させるだけでなく、それを安定して量産するための試行錯誤もします。


道具は自作で、試行錯誤

こういうのもうちで作られた柄なんですけれど、伸子(しんし)という本来は生地を伸ばす道具を使ってるんです。

──弓矢みたいですね。

そうですね。紐をくくり付けて生地に押し当てて、こうやってパチンとやることで柄をつけているんですよ。弓状の伸子をパチンとして柄を描いていくので、「弓ぱっちん染め」と⻄田さんが命名しました。シンプルなラインだけではなく、弓を弾いた時に飛び散る染料がデザインに動きを持たせています。

──染料の飛び散り方によって、二つとないデザインになりますね。

そうなんです。⻄田さんがよく言われているのは、安定した失敗をどれだけできるかということです。多くの染めが機械に置き換えられて、人間の手でやる必要はなくなってきているから。失敗に見えるようなことでも、その失敗を安定してできた場合にそれは一つのデザインになるって話しています。
他にもおもしろい道具がたくさんありますよ。例えばハケの先が切られているようなものを使ったりとか、靴を磨く用のブラシを使ってみたりだとか。あと100均にあるほこりを取るローラーに紐をくくりつけて、染料をつけてゴロゴロとやってみたりだとか。スポンジも自分たちでカットして。

──道具は自作することが多いんですね。

そうですね。自作の道具で染められた布でできた服がパリコレで採用されていると思うと、なんだかおもしろいですよね。

── 一階は材料がいっぱいですね。全部で何種類ぐらいあるんですか?

何種類か数えられないですね。結構種類があって。

──100単位くらいですか。

それぐらい全然あると思います。
一階には、糊などの材料と大体4000枚ぐらいのシルクスクリーンの型があります。和風なものから洋風なものまで色々あるんですが、柄によっては何色もあるじゃないですか。型1枚につき1色なので、数回の作業を型と色に分けて行うんです。1つのデザインに平均だいたい5枚ぐらいの型が必要なんです。
なので、4000枚でざっと800柄ぐらい工房にありますね。それでまた配色を変えたりとか、のりを変えてみたりとか。いろんな掛け合わせで試していくんです。


今までの染め工房とは違う方向で人と繋がる

──顧客はどういう方が多いですか?

アパレルメーカーに生地を卸している問屋さんがメインですね。小さいアパレルだと問屋さんを通さずに直接取引することもありますが、基本は問屋さんがアパレルのデザイナーさんと一緒に工房に来て、こういうのを作りたいのでやってみてくださいっていう形で企画が行われます。

──(染められた)シューズがいいねって、T5メンバーでネットショップを見たのですが、販売しているのはネットショップだけですか。

そうですね。ただ、昨年の5月からスニーカーやTシャツに染色を体験するワークショップを始めました。今では染められたシューズをネットで購入するよりも、自身で染めることができる体験に来てくださるお客さんの方が増えていますね。皆さんとても楽しそうに体験されていますよ。

──これからアート・ユニでの活動において、こんなふうにしていきたいという構想はありますか?

若い人に知ってもらいたいというのが第一にあります。やっぱりアパレルの世界にあこがれを持つのは若い人が多いでしょうから。知ってもらう中で共感し、一緒に働ける仲間ができたら最高ですね。そしてこれはこれまでも、これからもそうなのですが、目の前の方とのご縁を大切にしていきたいです。僕がアート・ユニに来ることができたように、いつどこで何が起こるかわかりませんから。今までの染め工房とは違う方向で、人と繋がるというのを積極的にしていきたいですね。


職人interview
#76
アートユニ
越本大達

文:
則包怜音(油画コース)
安彦美里(基礎美術コース)
伊賀春香(基礎美術コース)
中村珠希(基礎美術コース)
建木紫邑(クロステックデザインコース)

撮影:
豊田香鈴(基礎美術コース)

アートユニ HP:
https://www.kyoto-artuni.com

職人interview
#76


染色加工|02|「かっこいい」「やるしかない」から弟子入りへ

京友禅の流れを汲んだ手描き染めの技法で、オリジナルテキスタイルを生み出し続けているアート・ユニ。
創業者、そして今なお現役の西田清さんは、ずっとお一人で染めと向き合ってきました。そんな職人の姿に惹かれて弟子入りした越本大達さん。
今回は越本さんに、勇気を出して染めの世界に飛び込んだ経緯と、アート・ユニの技法が生んだテキスタイルの魅力についてお伺いしてきました。