伝統文化はおしゃれ
笠浪:
Whole Love Kyoto(以下「WLK」と表記)は発足して5年になりますが、設立当初と今とでは、伝統文化に対する印象はどのように変化しましたか。
酒井:
あまり変わってないです。
『伝統工芸というもの』に人は興味ないし、伝統工芸/伝統産業と、学生に言ったところで「うわ~、最高におしゃれ!」とはならない。
むしろ「興味ない、私関係ない」と人を遠ざける言葉だと思います。
当初からそう思っていたし、今もその状況は変わっていない。
だからその状況を変えるのが目標です。
新里:
では、職人さんの印象は変わりましたか。
酒井:
それはずいぶん前に変わりました。
職人って怖い、気難しいというイメージがあったけど、話してみたらそんな人ほとんどいない。訪問してみたら楽しく話してくれるな、と。
笠浪:
それまで職人さんと関わる機会はなかったのですか?
酒井:
ゼロだった。
笠浪 新里:
ええ~!
酒井:
知らないから伝統文化を学生に伝えたほうがいいな、とも思えなかった。
だから(反動で)今は、そういう授業を増やしています。
欧州の大学とも共同プロジェクトもしています(現在コロナ禍で休止中)。
欧州は日本の伝統文化に興味があってオシャレだと思っているんだと気づきました。
君らオシャレだと思ってないでしょ。
新里:
思ってないです。WLKに所属する前は、もっと思ってなかったです。
酒井:
欧州の人たちはオシャレだと思っています。
笠浪:
伝統文化自体をオシャレと思っているということですか?
酒井:
日本の伝統文化をリスペクトしているし、オシャレだと思っている。
皆がシャツを着たり、ブラみたいなやつをシャツの上に着たり(新里がシャツの上から着ていたビスチェのこと)しているけど、それらは日本のものではないじゃん。
それをオシャレだと思って着てるでしょ?
そういう感覚なんだと思うよ。
だから彼らは、日本の伝統文化を素材にして、ジュエリーなりファッションなりを作りたい。
オシャレだと思っているから。
でも日本人はオシャレだと思えない。
それはずっと、外国から入ってきた文化に憧れているからだと思う。
日本の手仕事、民芸みたいなものに対しても、オシャレだなと思う人の数は増えているとは思うけど、まだまだ少ない。
笠浪:
まだまだ少ないですね。
100%住んでいる人の気持ちにはなれない
新里:
先生は、ヨーロッパなど海外の経験が多いと思いますが、WLKの製品を作る際、海外でのインプットを製品に活かすことはありますか。
酒井:
あると思います。
でもそれだけじゃ足りないと思うのは、やはりどこまでいっても僕は日本人だし、外国人が何をオシャレと思うか、今どういったものを求めているか、が分からない。
住んでないのでライフスタイルも知らないし。
そうすると、根っこからの発想みたいなものは出せないかな。
例えば、今WLKで開発中の水引のサンダルを海外の人はどう履くか想像はできても、分からない。
ビルケンシュトック知ってる?
笠浪 新里:
知ってます!
酒井:
僕らオシャレだと思って履いてるけど、ドイツ行ったとき現地の友達に「俺ビルケンシュトック欲しい」って言ったら、「ああ、ルームシューズね」みたいに言われて驚いたんだよね。
笠浪 新里:
ええ~!そうなんですか!
酒井:
実際ドイツでは、商店街の靴屋とかにビルケンシュトックが売っています。
そうすると、現地の人はなかなか「オシャレなサンダル」って思えないですよね。
でも、僕らはそんなこと知らないし、ビルケンシュトックが雑誌に載っていたとか、芸能人が履いていたとか、そういうイメージを頭の中でつくっている。
そんな感じなので、どうしても100%「ドイツに住んでいる人の気持ち」にはなれない、ということでしょ。
そう考えると、実際に欧州に住んでいる人にアイデア出してもらったり検証してもらった方が、より根っこのあるデザインは生まれると思う。
それで、向こうのデザイナー、アーティストに学生を連れてきてもらったりして研究活動をしているんです。
ドイツ、ロンドン、スイスなどにネットワークがあります。
笠浪:
ということは、ヨーロッパ系の方が日本の伝統文化に興味を持ってくださるのですか?
酒井:
1番興味ありそうだとは思います。
でも正直アフリカやモンゴルに友達いないので。
他の国の人も興味あるだろうけど、友だちがいないので分かりません。
どの国から見ても日本の文化は魅力的だとは思うけど。
SDGsは職人の世界では当たり前
笠浪:
では、WLKは他の企業と違って、学生が主体で活動していますが、その理由はありますか。
酒井:
これまで学生と共に活動して来て、1番嬉しかった学生の言葉が「私日本人でよかったと思った」。1人でも多くの学生にそう感じる機会を作りたい、と思いました。
2人もそう思う? まだ思わない?
笠浪 新里:
まだですね。
酒井:
職人が持っている技術を代々繋いだり、発見したり失敗したり、発展させたり、素材にこだわったりした人たちが、ずっといたから今に残っている。
すごいなと思うよ。
でも正直学生が戦力になっているかと言われたらあやしいかも…。
笠浪 新里:
(タジタジ)
酒井:
世話焼けるもんね。
仕事が遅いでしょ。
でも学生だから職人さんが可愛がってくれる。
それから学生ならではの視点やアイデアとよく言われるけど、それはどこまでいっても学生の生活に根差してしまうから、値段が安すぎるとか、そういう問題をはらむ。
ただ、この間の「手ぬぐいのワークショップ」*にも、すごい良いなと思うアイデアは2.3個あるわけで。
僕たち大人デザイナーでは出せないアイデアも出るので、そういう点は学生がいるのは良い。
笠浪:
社会人ばっかりだと、カタくなってしまうけど、ということですね。
酒井:
僕がいたら硬くならないけど。
僕より学生の方がカタイ。
笠浪 新里:
まあまあまあ、うわ~こわいな~。
笠浪:
なるほど。他にも学生主体でやるメリットとデメリットはありますか?
酒井:
学生はSDGsのこと大学で意識させられていると思うけど、伝統的な仕事ってずっと昔からSDGsです。
昔からある素材は、自然の素材だし、今も石油的なプラスチックの素材はほとんど使ってない。
長く道具を使うから、使い捨ての道具を使ってない。
SDGsは職人の世界では当たり前のこと。
日本の文化って基本もったいない精神でできているので、リサイクル、リユースみたいなサイクルがあります。
でもそれをすると、かえってコストが高くなるような時代になってしまいました。
日本にはSDGsって言葉が流行るずっとずっと昔から、美しいサイクルのあるライフスタイルがあったのに、ほとんど失いかけている。
その辺りのモノが生まれる背景を知って、選ぶ人が増えないと、社会は変わっていかないと思うよ。
それを増やすには、君らが勉強した方がいいね。
自分らがデザインするときに、それを取り込むことができれば、伝統文化に対して、オシャレだとか価値を感じる人が増えていくと思う。
今学生がここで体験して学んでいることが将来的なメリット。
*Whole Love Kyotoより手ぬぐいの新作デザインの販売を行うにあたって、KYOTO T5に所属している学生とWhole Love Kyotoに所属しているスタッフからデザイン案を集めるワークショップを行いました。
About Whole Love Kyoto
#09
KYOTO T5 センター長
酒井洋輔
文:
笠浪萌愛(ファッションデザインコース)
新里小春(ファッションデザインコース)
ブランドの監修を務める当センター長 酒井洋輔(空間演出デザイン学科 准教授、株式会社CHIMASKI代表)に、ファッションという観点から、ブランドの誕生秘話についてお話を聞きました。